【番外編】「事業を止めない」策を事前に――企業の新型インフルエンザ対策最前線:医者要らずでできるインフルエンザ対策
強毒性の新型インフルエンザは、発生後に対策を行っても遅いといわれている。全社を挙げて対策の手を打つ日本ユニシスに、対策内容とその肝を聞いた。
従来型のインフルエンザ対策を紹介する師走のインフルエンザ対策特集。【番外編】として、新型インフルエンザとは何か、また、個人でできる対策、そして企業の新型インフルエンザ対策について考えてきたが――。
企業は今、具体的にどんな対策を行っているのだろう?
新型インフルエンザの発生に備え、全社的な取り組みで一歩先を行く企業、日本ユニシスの事例を紹介しよう。日本ユニシスはITソリューションなどを展開する、創立50年の企業だ。従業員数は1万人近くに上る。
同社の社員向けガイドライン策定などの情報は広く開示され、他社も参考にできる有効な規定が多い。さらに新たな課題への対応策が、毎月の会議で検討されているという。
独自マニュアル、定期会議、備蓄品――対策プロジェクトの活発な取り組み
新型インフルエンザ対策を本格的に練る企業はまだ少数だ。そんな中、2007年から対応を検討し始めた日本ユニシスは、2008年3月に「社員向け新型インフルエンザ対応ガイドライン」を発表し、細かな部分の対応策を考える次の段階へ入った。2006年に事業継続計画(BCP)に着手した同社だが、新型インフルエンザを災害対象に加えた当初は情報が少なく、事実上ゼロからのスタートだったという。
「首都直下地震を想定したBCPとは異なる点が多く、大変な面もありました。地震の場合は、従業員にいかに出社してもらうかを考えますが、新型インフルエンザの場合はいかに出社を抑制するかが必要となるのですから」。そう話すのはCSR推進部長の多田哲(ただ・てつ)さん。BCPプロジェクトのメンバーとして月に1度会議を開き、課題への対応を検討し続けている。
災害時でも、情報システムの構築、保守、運営を担う社会的責任を認識している日本ユニシスでは、新型インフルエンザ対策の一環として、社会機能維持業務の選別を終えた。その結果、発生時でも該当する組織に対する保守を行うエンジニアを事前に指名し、同時に感染を防ぐためのマスク、ゴーグル、手袋、薬品などの装備を調えている。
一方で、在宅勤務が可能な従業員には、自宅から社内イントラネットに接続でき、しかもPCにデータを残さない周辺機器を配布した。「BCPプロジェクトの責任者は、代表取締役常務。会議で全容を把握しているため、何事も決定が早いのです。これは組織作りのポイントですね。同時に、社員への啓発も重要です。対策の理由をきちんと伝えていく必要があります」(多田さん)
「抜き打ちテスト」で訓練、社内外のネットで学習――常に従業員を啓発
同社では、ガイドラインの策定にとどまらず、机上訓練による検証も行っている。「新型インフルエンザを想定した安否確認システムが完成した際、抜き打ちで部署ごとにテストをしたり、対策本部からの伝達方法を確認したりしています」
「するとマニュアル化していない部分で課題が見えてきます。例えば終息宣言されていないが、社内の患者数が減ってきた場合どうするか。その時は、産業医と共同し当社で独自の判断を下すことになりました」
対策を進めていくほど、緊急時の細かいシミュレーションが必要となるのだ。「そのほかに、管理職が部下の様子を自宅のPCで確認できるよう整備する、従業員の家庭で備蓄品をそろえるよう促すことなどを実行してきました。家族に相談せずに高機能マスクやゴーグルを買って帰ると驚かれてしまうので、家族への説明の大切さも伝えています」
また、イントラネットやeラーニングを活用して従業員への啓発を行っている。イントラネットでは、「サバイバル・ヒント」と称して、イラストなどのビジュアルを用いた画面を毎月掲載し、PCを立ち上げるたびに最初に目に触れるよう工夫している。
「新型インフルエンザの発生時に大流行を防ぐためには、WHOが感染を疑う報告を受けてから新型と判定するまでにかかる、数日間という時間が重要になると考えています。当社ではアジア各地に駐在する従業員に、自律的判断で緊急時に帰国するよう指示しています。今できることを行い、環境を整備しておくこと。それが、この対策の極意だと思います」
日本ユニシスの対策を参考にして、各企業にとっての「今できること」を考えたい。
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