Google Appsがもたらした震災後の変化――企業の主力製品も180度変化:脱ガンジガラメの働き方(3/3 ページ)
震災を機に働き方や事業の見直しを図った企業は多い。社内設置型のメールセキュリティ製品を提供するHDEは、自社と顧客の実体験からクラウドを活用したソリューション提供に踏み切った。
被災地支援にも活躍したGoogle Apps
社員に石巻出身者がいるHDEでは、定期的に被災地支援を行っている。そこでもGoogle Appsが活躍したという話を紹介しよう。
管理系の役員である宮本氏は、社外・異業種も含めた人事職にある人々のコミュニティーの運営にも関わってきた。メーリングリストを通じて、震災後の対応――例えば妊娠中の社員は出社させない――といった情報交換がとても有効だったという。
勉強会も継続的に行う中、「音楽を使った企業研修」の体験会を開催したことがあり、その主催者が被災地で支援活動をしているという情報も共有することになった。関東でコンサートを行い、その売り上げで津波に流されてしまった楽器の提供を行ったり、被災地での楽器の演奏の機会を作り出したりという活動に対して、コミュニティーでも協力をしていこうという機運が高まったのだ。
そこで、「笑顔基金」というNPOを立ち上げることが決まり、Webサイト作りやNPO設立のための資料の準備、設立後のコミュニティーでもGoogle Appsが活躍する。「所属会社が異なり、本業を抱える中、なかなか実際に集まって作業することが難しいコミュニティーの中にあって、特に都の審査のために非常に多くの資料を用意しなければならない申請資料の作成の際、Google Docsは強力でした」と宮本氏。
Google Docsの利用に際しては、宮本氏がメンバーにデモンストレーションを行ったため、大きな混乱もなくスムースに利用が進んだという。「これは始めて使ったけれど、便利ですね」という反応も多く、宮本氏は自社サービスの顧客の反応も含め、クラウドサービスの活用が一歩進んだという手応えを感じているようだ。
社内Twitter「Yammer」も存在感を増す
メールのクラウドシフトが進む中で、HDE内で企業向けリアルタイムコミュニケ―ションサービス「Yammer」の活用が始まったというのも興味深い話だ。
YammerはSalesforce.comの「Chatter」にも似たシステムで、簡単に言ってしまえば業務でも使える社内Twitterといった趣のものだ。メールと異なり、リアルタイム性がより高く、また情報共有やログの追跡、コミュニケーションの図りやすさ(そこからコラボレーションが生まれる可能性が高い)という意味で、メールに勝っている。
「メールではレスポンスが悪いな、と思ったときにYammerに投稿するようにしています」と宮本氏は話す。従来「FYI(For Your Information)」などと付けてニュース記事などをメールで共有しても、そこから何か反応が返って来ることは少なかった。それがYammerでは例えばFacebookのLike!(いいね!)のように、「参考になった」というレスポンスを視覚的に確認できるという。
メールのクラウド化によって、外出先などでもメールが読み書きできるようになった。その結果、リアルタイム性に優れた別のソリューションへのニーズが生まれ始めている1つの表れとも言えるだろう。コミュニケーションを可視化することによって、部門間をまたいだ取り組みも進めやすくなったと宮本氏は話す。
東日本大震災という未曾有の大災害は、非常に甚大な被害をもたらしたことは間違いない。一方、クラウドへのシフトへの大きな契機となった一面はあるといえるだろう。想定外の事態から生まれた機会を見逃さず生かせるかどうかは、広く言えば復興や今後の災害への備えにつながる経済活動だ。自社では果たしてこの変化を見越した対応を取れているだろうか? HDEの事例を参考にチェックしてみると良いかもしれない。
著者紹介:まつもとあつし
ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」、ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』(アスキー新書)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。9月28日にスマートフォンやタブレット、Evernoteなどのクラウドサービスを使った読書法についての書籍『スマート読書入門』も発売。
- Twitter:@a_matsumoto
関連記事
- 誠 Biz.ID:脱ガンジガラメの働き方
- あなたをしばっているものは何?
もう朝の通勤ラッシュの電車に乗らなくてもいい――そんな働き方が増えつつある。震災の影響による節電対策で、各社で勤務の方法を柔軟にしているためだ。今までビジネスパーソンをしばってきたものが急激に変化しつつある今、その実態を追う特集「脱ガンジガラメの働き方」を始める。 - 震災後、シトリックスの在宅勤務を支えた2つの制度
地震や台風などの災害リスクと、少子高齢化が強いるワークライフバランスの変化。日本企業に立ちはだかる課題は数多い。3.11翌日から在宅勤務導入という早期決断に踏み切ったシトリックスに同社の取り組みを聞く。 - コンビニ経営者が語る「月間10万稼げる仕事を3個持つ」働き方
東日本大震災を機に副業を考えた筆者。コンビニ経営の傍ら、自分にできることがないか考えてみた。 - Game Jamは福島にITという復興の種をまく
東日本大震災の被災地各所で復興の種がまかれている。例えば福島では「Game Jam」というイベントが行われた。5人または6人一組になって、30時間ぶっ通しでプレイ可能なゲームを作るというイベントなのだが、復興の種になるか――。 - ハリー・ポッターのダイニングホールみたい!? IT企業でなくてもフリーアドレス実現
ハリー・ポッターに出てくるダイニングホール。奥行きがあって、縦に長いテーブルが置かれているアレだ。あんなテーブルをオフィスに設置して、フリーアドレスを実現した会社があった。JINSのメガネブランドで有名なジェイアイエヌのオフィスである。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.