ダイソン“羽根のない扇風機”、開発原動力は「利用者の怒り」だった:トップ1%の人だけが実践している思考の法則(1/3 ページ)
掃除機メーカーの創業者、ジェームズ・ダイソン氏は、普段の生活の中で私たちが、うまくいかない事柄に対して、怒りを持つことこそが製品開発の原動力だと考えています。あの掃除機や扇風機も、ある不満から生まれました。
成功する一握りの人々だけが実践する、共通の「思考の法則」を知るには、いったん私たちが常識だと考えてきたルールをリセットする必要があります。そして、彼らの行動や考え方に注目し、そのエッセンスを吸収して、その根底にある思考のサイクルを身に付けることが重要です。
成功者はみな、次にあげる5つのビジネスプロセスを何度も、高速回転で循環させています。私は、キーワードとなった5つの英単語の頭文字をとって「5Aサイクル」と呼んでいます。
- 顧客の抱える問題の「認知」(Awareness)
- 問題解決のための従来と異なる「アプローチ」(Approach)
- アイデアのスピーディな「実行」(Action)
- 仮説と実行結果の差異に対する「分析」(Analysis)
- マーケットニーズに合わせた柔軟な「適応」(Adjustment)
さて、ここで問題です。
【問題】解答例にならって自分なりに考えてみましょう。
- あなたは、家電メーカーの生活商品分野の企画責任者だ。情報家電などに比べると白物家電は市場も技術も成熟している。何か新たな旋風を起こしたいと感じていたあなたは、会社のトイレでハンドドライヤーに手を入れながら、ある商品のアイデアを思い付いた。一体、それは何のアイデアだろうか?
解答例A
- 会社や商業施設では一般的なハンドドライヤーだが、一般家庭にはさほど普及していない。価格を徹底的に抑えて売り出せば、もともと、衛生的で環境にもやさしいからヒットするはずだ。
解答例B
- 勢いよく空気を運ぶ技術をハンドドライヤー以外の分野に生かせないだろうか? 成熟しているといわれる白物家電業界でも、見落としている課題やユーザーニーズはないだろうか?
ハンドドライヤーからヒントを得た「羽根のない扇風機」
皆さんも日常的にハンドドライヤーを使うことがあるでしょう。手をかざすと数秒で手に付いた水滴を吹き飛ばしてしまう便利な機械です。大量の紙を消費するより経済的で環境にもやさしいので、商業施設で普及が進んでいます。
ところで、ある企業のエンジニアは、自社のハンドドライヤーの狭い穴から勢いよく気流を吹き出す際に「周りの風を巻き込むことによって気流が増す」ことを発見しました。つまり、小さい気流でも勢いをつけて周りの気流を巻き込むと、少ないモーターの力や電力で、大きな風を作ることができることに気づいたのです。
そして、これを扇風機に応用できないかと考えました。これが後に、ダイソンの“羽根のない扇風機”の開発につながるのです。
7の力から100の成果を生み出すイノベーション
ダイソン羽根のない扇風機は「Air Multiplier(エアマルチプライアー)」といいます。扇風機であれば真ん中に数枚あるはずの羽根がまったくなく、リング状のワッカがあるだけです。しかし、スイッチを入れると摩訶不思議、ワッカから前方に向けて、ムラのないスムーズな風を送り出すのです。皆さんも、電器店で目にしたことがあるかもしれません。
このエアマルチプライアーは、羽根がないだけでなく、先ほどの「狭い穴から強い気流を出すと周りの気流が加わって、より大きな気流を作り出す」仕組みを使っています。具体的には、全体の気流を100%とすれば吹き出す気流はわずか7%で、残りの93%は周りの気流だそうです。本来モーターを動かすのに必要な労力の7%で済むわけですから、電気代もお得です。
また通常の扇風機は、長い首の先に回転する羽根があるため、直立で安定するようにあえて重い台座を付けています。その点、このエアマルチプライアーは重い台座も不要です。
ご存じのようにダイソンは、もともとは掃除機メーカーとして知られています。その創業者であり、エンジニアでもある英国人のジェームズ・ダイソン氏が、紙パック交換の不要なサイクロン方式の掃除機を作ろうと思ったのがすべての始まりです。
そして、ダイソン氏は5年の歳月となんと5127台の試作品を経て、サイクロン方式の掃除機を完成します。しかし欧州ではなかなか受け入れられず、実は日本のメーカーからサイクロン方式のライセンス料が手に入ったことで、ダイソンの設立が実現したそうです。
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