『「超」整理法』はダサいタイトルだった? 100万部のネーミング秘話:一撃「超」説得法(2/2 ページ)
「超」シリーズで知られる野口悠紀雄氏が解説する、一撃説得法。相手の心のつかむネーミングの重要性とは?
『「超」整理法』は、ダサいタイトルだろうか?
物理学で「超」の上は「ウルトラ」や「ハイパー」になるのを参照して、「ウルトラ整理法」とか「ハイパー整理法」にすべきか? また、提案している方法を忠実に表現するとすれば、『時間順整理法』、あるいは『反分類整理法』だ。従来の方法と違うものを提案しているという意味では、『反整理法』と言うのが一番適切だ。
こう考えているうちに、おとなしく『反整理法』にしようという気持ちが強まってきた。そこで、「タイトルを変更して欲しい」と編集部に電話をしたのである。ところが、時すでに遅く、「もう印刷所に入ってしまったから変えられない。あのタイトルでいきましょう」ということになってしまった。今にして思えば、時間遅れになって幸いだった。
『反整理法』では、(内容に忠実ではあるものの)インパクトはずっと弱いものになっていた。『反整理法』は「セクシーでない」のだ「super!」はダサい。その通りだ。「超カワイイ」では、女子中学生になってしまう。しかし「整理」という、誰もが毎日悩んでいて、しかも解決法が見つからなかった問題を表す古くさい言葉と、「超」という言葉が結び付くと、そこに「化学反応」が起こったのである。
地球の密度を測る
「本はタイトルより内容だ」と言う人が多いだろう。内容が重要であることは、言うまでもない。このように言った人は、タイトルだけがセンセーショナルで、内容が伴わない「羊頭狗肉(ようとうくにく)」の本があまりに多いことを憤っているのだろう。
それには私も同感だ。しかし「タイトルはどうでもよい」とはいえない。学術書や学術論文ですらそうである。
ヘンリー・キャベンディッシュは重力定数gの値を最初に測定したイギリスの物理学者だが、実験結果を王立協会の学術論文誌に報告する論文のタイトルを「地球の密度を測る」(Experiments to determine the Density of the Earth)とした。
実に素晴らしいタイトルだ。「重力定数の測定」というような平凡なタイトルに比べて、格段とセクシーで魅力的だ。重力定数の測定自体が偉大な業績だが、キャベンディッシュは「中身が重要ならタイトルはどうでもよい」とは考えなかったのである。忙しい研究者の目をひくためには、内容の重要性にふさわしいタイトルが必要なのだ。
前回の冒頭で、山中教授がiPS細胞の命名に工夫したエピソードを紹介したが、それとまったく同じことだ。
200年以上前でもこうなのだ。そして、偉大な研究業績でもこうなのだ。ましてや、情報洪水時代にキャベンディッシュよりはるかに劣る内容の論文や書籍に注目してもらおうとすれば、よほど魅力のあるタイトルを付けなければならない。
商品名もそうである。キャッチコピーよりも商品名のほうが重要である。「たかが命名、されど命名」なのだ。
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