新入社員に「うれしかった!」と感じてもらえる、すごく簡単な方法:田中淳子の人間関係に効く“サプリ”(2/2 ページ)
新入社員が現場に配属されるシーズンだが、彼らはどんなことに喜びを感じているのだろうか。周囲の先輩たちがちょっと声をかけるだけで……。
先輩たちは新入社員を観察するべき
困っていることについても同様で「ものすごく困っている」のであれば上司や先輩の席まで言って相談なり、質問なりするだろうが、「ものすごく」ではなく「なんとなく分からない」「なんとなく戸惑っている」「頭がモヤモヤしている」という程度の時は、わざわざ上司や先輩の席にまではいかない。なぜかといえば、新入社員もその「なんとなく」「モヤモヤ」をうまく説明できないからだ。
だが、仕事自体は滞っている。モヤモヤしているから先に進めない。そんな時、周囲の誰かが声を掛けてくれると、「ここぞ」とばかりに「実はモヤモヤしていて」「実は困っているんですけど」と相談しやすい。
新入社員の様子を見ていて、何か変だなあ、と異変に気付いたら声を掛けてみると、かなりの確率で「実は……疑問があって」と言うはずだ。そのためにも先輩たちは、新入社員のことをなにげなく観察していたいものだ。
次に、新入社員が意識すること
このように「存在を認知してくれた」「気に掛けてくれた」「仲間として扱ってくれた」というのが最初の関心事だが、徐々に仕事を覚えてくると、新入社員が次に意識するようになるのは「何のためにそれをするのか」「これが何につながっているのか」といった目的や全体像についてである。
「いいから、これをやっておいて」と言われても「この作業が何につながるのか」「なんのためにこれをするのか」が分からないため、真剣になれなかったり、やる気が出なかったりする。「お客さまに提出する資料の一部を作ってもらうから、ミスないようにね」などと作成する資料の使途を説明したり、「この作業を通じて、○○の使い方をマスターしてほしい」と成長に対する目標を伝えるだけで、仕事に対する真剣度が変わってくる。
ある企業で新入社員の意識調査をしたとき、「どんな時、失望したか?」という項目に対して、「自分がしていることが何につながっているか分からない時」という回答があった。新入社員というのは、業務の全体感をイメージしにくい。上司やベテランの先輩たちは、全体感を持って仕事に取り組んでいても、新入社員に割り当てられるのはその一部だったりするため、「これをすることが一体何につながるのか?」「自分がしていることは誰に役立っているのか?」といったことを理解できていない場合が多い。
上司や先輩は、目的とともに「全体感」を持たせるような説明をすることも大事である。
例えば、ホワイトボードや紙を使って書いて示す。「ウチの部署で手掛けているプロジェクトの全体像は、こうなっている。その中で、今のフェーズは、ここね。そして、その中で、あなたに担当してもらっているのは、この部分。イメージ、わくかな?」などと順を追って解説してみる。最初は、全体像など示されても何がなんだか分からない新入社員であっても、何度か聞いているうちに、あるいは、与えられた仕事に取り組んでいるうちに徐々に頭にその全体像が描けるようになってくるだろう。
「新人だから、全体なんか話しても分かるわけないよなあ」と思って説明しないのではなく、「新人であっても、全体感を持って仕事してほしい。今、説明してもすぐには理解できないかもしれないが、少しずつ理解できるようになるはずだから、最初から全体を説明しておこう」と考え、しっかり解説したほうがよい。新入社員の頭の中にあるバラバラのパズルが、仕事をしているうちにいつかカチっとはまる時が訪れる。
著者プロフィール:田中淳子
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
- 著書「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社)、「はじめての後輩指導」(日本経団連出版)、「コミュニケーションのびっくり箱」(日経BPストア)など
- ブログ:「田中淳子の“大人の学び”支援隊!」
- Facebook/Twitterともに、TanakaLaJunko
関連記事
- 部下やメンバーが気持ちよく発言する方法――簡単なので、お試しあれ
会議などの席で、部下があまり発言しない――。そんな悩みを抱えている上司も多いのでは。どうすれば部下は積極的に発言してくれるのだろうか。簡単な方法を紹介しよう。 - 部下の“やる気”を削いでいるのは、誰か
上司があまりに「上司然」としていて、会社で動いていることを部下に全く開示しないケースがある。もちろん最大級の機密であれば仕方ないが、そうでもないような内容で、部下にも関係あることをちっとも話さないのはどうなのか。 - 優しくするだけでは若手を育てられない
後輩を育てるには、あえて失敗経験を見せたり、ドキッとする経験をさせたりすることも必要だ。問題が起きた時、ベテランだけで対処するのではなく、若手もその場に身を置かせるのも1つの育て方である。 - 上司が言う「ホウレンソウ」に、悩んでいませんか
ホウレンソウ――。「報告・連絡・相談」のことであるが、上司や先輩はよく「若手のホウレンソウがなっていない」と嘆いている。しかし“なっていない”のは、双方のコミュニケーションなのかもしれない。 - 上司が部下に言ってはいけない、10のセリフ
会社の中で「課長」が与える影響力は大きい。現場におけるキーパーソンであり、課長次第で、業績も部下の成長も大きく左右される。今の時代、課長が身につけておくべき能力は何だろうか。本連載では、課長が身につけておくべき「上司力」について考えていきたい。 - “昭和上司”にならないために、彼らから学ぶべき3つのこと
「社内でのコミュニケーションをどうすればいいのか」と悩んでいる人も少なくないだろう。今後、上司になっていく人に身につけてほしいのは「巻き込み対話力」である。 - なぜ新入社員は気が利かないのか?
15年前、2年前、そして最近の新入社員研修に関わっている人に話を聞くと、驚くほど似たような意見が返ってきます。それらは「今の新入社員が」とは、とても言えない。そんなことを気付かされました。では具体的にどう指導すればよいのでしょう? - 田中淳子のあっぱれ上司!:仕事の「意味」を考えさせる
与えられた仕事から何を学ぶか、何を感じ取るか。これを考えさせるのも上司の大事な役割です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.