「社長を殺せ」と説得できる?:一撃「超」説得法(1/2 ページ)
「一撃説得」は、単に「説得の言葉が短かければよい」のではない。短い言葉として何を選ぶか、それをどのような形で投げかけるかが重要となる。
集中連載「一撃『超』説得法」について
本連載は2013年4月12日に発売した『「超」説得法 一撃で仕留めよ』(講談社刊)から一部抜粋しています。
出版界の最前線で、100万部突破をはじめ数々のヒット作品で多くの読者の心をつかんできた野口悠紀雄が、成功する説得の要点を大公開。
「たくさん投げるは人の常。一撃突破は神の業」「ドラッカーを読むより聖書を読もう」「必要なのは、正しさでなく、正しいと思われること」「うまく命名できれば千人力」「悪魔の方法から盗めないか?」など、全11章で説得までの筋道を、順を追って分かりやすく解説。
説得の理論、相手の心のつかみ方とそのタイミング、ネーミングや比喩の使い方、やってはいけない説得法まで、具体的事例を交えながらビジネスシーンで活用できるノウハウを伝授する。
- 筆者インタビュー:誰でも実践できる――野口悠紀雄に聞いた「超」説得法
「説得」とは、相手の決定を変えさせること。あるいは、ある行動を取るよう決心させることである。
では、あなたは通りすがりの見知らぬ人を呼び止めて「あなたの会社の社長を殺してごらん」と説得できるだろうか? 誰も振り向いてはくれないだろう。振り向いたとしても、こんな大それた話に耳を傾ける人はいないだろう。その場で警察に通報されてしまうかもしれない。
魔女の手法から多くを学べる
ところが、シェークスピアの『マクベス』に登場する魔女は、この困難至極の説得を成し遂げたのである。スコットランド王ダンカンの忠臣マクベスをそそのかして、王殺害を実行させてしまった。どんなすご腕フィクサーも、これほど見事な人間操縦はできない。
これは究極の「超」説得法だ。こんな説得ができるのであれば、どんな説得もできる。だから、彼女たちの方法を研究する価値がある。
「ばからしい。これは、芝居だろう」と言わずに、ぜひ聞いていただきたい。一撃説得についての有益なヒントを、いくつも学べるからである。
今の日本にいくらでもある「マクベス的状況」
ウイリアム・シェークスピアは、16〜17世紀のイギリスの劇作家、詩人。『マクベス』は晩年の作品で、シェ=クスピア四大悲劇の1つとされる(私の評価では、最高傑作だ)。ノルウェー軍と結託した反乱軍がスコットランド王ダンカンに戦いを挑むが、マクベスはこれを打ち破る。荒野で出会った魔女が、マクベスに「汝は王になる」と予言する。マクベスは妻と謀ってダンカンを暗殺し、王位に就く。しかしマクベス夫人は、次第に精神錯乱に陥る。ダンカンの長子マルコムは、イングランド軍の加勢を得てマクベスを攻撃し、これを倒してスコットランド王になる。
「シェークスピア」というと、「何百年も前に作られたかび臭い物語」と思っている人が多い。しかし、いまだに文庫本で書店に並んでいることから分かるように、設定を変えれば現代社会で立派に通用するのである。というより、人間関係や人間心理の微妙さを理解するには、いま刊行されているどんな本よりも役に立つ。
コラム:シェークスピアを超えたトールキン
魔女たちは、マクベスにNone of woman born shall harm Macbeth.(女から生まれた者はマクベスを殺せない)と予言する。しかし、最終場面でマクダフがMacduff was from his mother’s womb untimely ripp’d.(私は帝王切開で母から取り出された)と言ってマクベスを倒す。ripp’dはbornではないというわけだ。しかし、これはこじ付けめいていて、弱い。トールキンの『指輪物語』では、ペレンノール野の合戦で、「人間の男に私は殺せない」と言うナズグルの首領にエオウィン姫が立ち向かい、「私は男でない。女だ」と宣言してこれを倒す。トールキンは、この場面でマクベスを超えた。
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