サポーターの心をつかんだDJポリス――あの伝え方を職場で生かすには?:ボクの不安が「働く力」に変わるとき(3/3 ページ)
サッカーW杯予選でサポーターの心をわしづかみにしたDJポリス。あのコミュニケーション力を職場に生かせたら、職場の一体感を増すことができるのではないでしょうか。
「合わせる+導く」を職場にも生かす
これは、職場でも全く同じことが言えます。
周りの同僚や部下に行動を変えてほしいとき、一般的には、普通の警察官と同じように「禁止(否定)+命令」を使うことが多いでしょう。例えば朝、遅刻しがちな同僚や部下がいるとき、次のように伝えます。
「○○さんて、いつもギリギリに会社に来るね。そういうのってよくないんじゃない? 少なくても5分前に会社に着いているのが社会人としてのルールでしょ?」
ここで、DJポリスのように「合わせる+導く」を意識すると、次のようになるでしょう。
「朝ってすぐに時間が経っちゃうからついギリギリになっちゃうよね。それでも、あと5分早く来ると、バタバタせずに仕事が始められるんじゃないかな」
では、逆に部下の立場から上司の行動を改善してほしいときはどうでしょうか。例えば――これはかなり難しいチャレンジですが――「禁止(否定)+命令」で伝えてくる上司に、「合わせる+導く」で改善してほしいことを伝えるにはどのようにしたらいいのでしょうか。上司の「禁止(否定)+命令」の振る舞いで嫌な思いをしていたら、通常「目には目を歯には歯を」のような形で、次のように伝えることでしょう。
「その否定的な言い方はやめてください。もっと違う言い方があるのではないでしょうか」
このようなことは上司にはなかなか言いづらいので、つい言葉を飲み込むのが実際のところかもしれません。そこで、DJポリスのように「合わせる+導く」を意識すると、こんな感じになるでしょう。
「人をまとめる仕事は本当に大変だと思います。それでも、もう少し前向きな言い方をしていただくことができたらうれしいのですが……」
「合わせる+導く」でピンチを乗り切ったAさん
Aさんは社員数名を抱える経営者です。ある日、あまりの忙しさにスタッフの1人が会社を辞めると告げてきたそうです。仕事が軌道に乗り始めていたこともあって、「まいったなあ」とAさんは思ったそうです。
「なんでこんな大事な時期に辞めるなんて言うんだ。頼むからもうしばらく辞めないでくれよ」――Aさんは思わずそう言いそうになったそうです。しかし、コミュニケーションのトレーニングをしたときの「合わせる+導く」ルールを思い出し、スタッフがどんな気持ちで辞めると言い出したのか、思いを巡らしたそうです。そしてスタッフの気持ちに合わせ、こう告げたそうです。
「大切なことを正直に話してくれてありがとう。今まで悩んでつらかっただろう。それに気づいてやれなくて本当にごめんな。けれども、会社としては今大事な時期でもあるんだ。だから、これからも一緒に働いて欲しい。これから先のことを一緒に考えよう」
そうしてAさんとスタッフは話し合いの場を持ち、スタッフの現状を確認するとともに、あらためて仕事への思いを伝え、仕事の目的を共有することができたAさんとスタッフはまた一緒に働くことができるようになったそうです。
このようなことは頭で理解できたからといってすぐに実践できるものではないかもしれません。特に、感情が高ぶっているときはそうでしょう。しかし、警察官の皆さんもトレーニングをしていると報道で観ましたが、使う言葉を「禁止(否定)+命令」から、「合わせる+導く」に意識を変えることで、職場の同僚といい関係を築き、一体感のある職場にしていけるのではないかと思います。
ここまで読んで「相手は社会人なのに、そこまで気を使って伝えなければいけないのか」「もっと強く言わなければ相手からなめられてしまうのではないか」と思う人もいるでしょう。以前は私もそう思っていました。けれども「禁止(否定)+命令」では職場の空気が悪くなったり、同僚や部下の口数が少なくなったりして、お世辞にも一体感がある職場とはいえませんでした。
もちろん、時には強い口調で「禁止(否定)+命令」することが必要な場合もあるでしょう。しかし、相手に拒絶されては意味がありません。同僚や部下に行動を変えてほしいなと思ったとき、DJポリスがそうであったように「合わせる+導く」を意識すると、「この人なら分かってくれる」という信頼感が生まれ、要求を受け入れてもらいやすくなるでしょう。
あなたもいつか、「DJビジネスマン」といわれる日が来るかもしれません。
関連記事
- 不安や悩みを相談できない――そんな人にオススメの方法
職場の人間関係に悩んだり、過大な目標に悲鳴を上げている人も多いのでは。「悩みや不安は人に相談したほうがいい」といった声をよく聞くが、そもそも相談するのが苦手な人はどうすればいいのか。そんな人に「ココロの整理の仕方」を紹介する。 - 上司が部下に言ってはいけない、10のセリフ
会社の中で「課長」が与える影響力は大きい。現場におけるキーパーソンであり、課長次第で、業績も部下の成長も大きく左右される。今の時代、課長が身につけておくべき能力は何だろうか。本連載では、課長が身につけておくべき「上司力」について考えていきたい。 - 「どうしても自信が持てない」「課題だらけですぐパニック」――情けない自分にさよならするには?
必要以上に考えすぎ、誰かに心配してほしい、過去に負った深い傷に反応してしまう――これまでうつのさまざまなパターンを見てきましたが、今回で最後です。自分に自信が持てなくて落ち込みが止まらない。仕事、家庭、自分――課題が一気に押し寄せるとパニックに陥ってしまう。どうしたらそんな自分を卒業できるでしょうか? - うつ病にならないようにする方法
ここ数年増加してきている、うつ病患者。「自分はうつ病になりやすそうな性格だ」と自覚していたちきりんさんは、予防策としていくつかの努力を続けてきたそうです。 - 仕事の生産性を上げるために、私が職場の机でやめたこと
職場の机の上には、実際には仕事と関係ないことも、最高の仕事を生み出す能力に影響を与えるものもすべてあります。自分の机をワークステーションとして考え直してみませんか。 - 職場の将来性、人間関係……5人に4人が仕事で悩みを抱えている
近年、頻繁に取り上げられるようになった職場でのメンタルヘルス問題。「職場の将来性」や「職場の人間関係」など、5人に4人が職場で悩みを抱えているようだ。特定非営利活動法人しごとのみらい調べ。 - やる気は「出す」ものではなく「出る」もの
自分はやる気があるのにほかのスタッフがやる気がなく、「やる気を出そうよ」といってみても、冷たい目で見られるだけ……。楽しく仕事ができる「働きやすい職場」には、仲間のやる気が大事です。「褒める」をテーマに、仲間のやる気を引き出す会話の方法を伝えます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.