マッキンゼーは「アンケート」を仕事にしない:マッキンゼー流仕事術(2/2 ページ)
「なぜ、このお店を選びましたか?」というようなアンケートをしても、想定されるようなデータしか集まりません。クライアントにとってバリュー(価値)がある仕事は、単なるアンケートから得た情報からは得られないのです。
仮説から思考と分析をスタートさせる
「若い女性と男性ビジネスパーソン両方に利用される新食材を使った新業態はあり得るか?」
こうした仮説(イシュー)から思考と分析をスタートさせることで、YES/NOどちらの可能性も落とさずに検証することがコンサルティングに求められるわけです。このとき、クライアントは期間限定のイベント会場で新食材を使った新業態カフェを実験的に立ち上げていたのですが、その会場でアンケートを行い、どのセグメント(客層)にこの新食材がうけるのか? どのようなスタイルで販売できるか? 検証することにしました。
さて、どんなアンケートにすればいいのか。「なぜ、このお店を選びましたか?」というようなふつうのアンケートをしても、想定されるようなデータしか集まりません。「クライアントにとってバリュー(価値)ある仕事は、単なるアンケートから得た情報からでは得られない」――マッキンゼーには、そういった考え方があります。AとBのどちらが好きですか? と尋ねるような仕事はするなという意味でもあります。
そんな単純なアンケートでは、クライアントが想定している以上のバリューを提供することはできないからです。どんなアンケート設計をすれば、想定を超えるような発見ができるのだろう。社内のリサーチスペシャリストなどにも相談し、データベースで絞込みをしながら苦労してアンケートを作りました。
イベント会場でアンケートを行うときも、来場した老若男女の行動を観察したり、さりげなくヒアリングを行ったりします。機械的にアンケートだけを集めても意味がないのです。例えば若い女性と男性ビジネスパーソンの両方に利用される場合、どのような「食べる」シチュエーションを提供するといいのか? というサブイシューに広げ、朝食としてビジネスパーソンが利用するか?といった仮説も検証できるように、アンケートの内容を幅広くする工夫もしました。
食べる時間帯や、食への嗜好、日ごろの食のスタイル(家カフェが好きか、外カフェが好きかなど)といったことも含めて、さまざまな視点からアンケートを実行したのです。最初に私が作ったアンケート案は、顕在的なニーズは拾えても潜在的なものが出てこないアンケートでした。でもそれでは、単なるアンケートのためのアンケートになってしまいます。
ここでもやはり重要なのは「So What?(だから何?)」の考え方です。アンケートを作ることが目的ではなく、そのアンケートで何ができるかを考え、そこから見つけたバリューを使って、どんなストーリーが描けるかまで落とし込まれていることが必要です。
自分でも「これならいける」と思うものにしてから、マネジャーに「このアンケートで実施したいと思います」という相談をするのがマッキンゼーの流儀。中身が固まっていない不完全なものは、例え社内の上司への報告であっても出すべきではない。あらゆるプロセスで完全なものを積み上げていくことが、バリューにつながるという考え方なのです。
関連記事
- マッキンゼー卒業生が、入社1年で「一生使える」仕事の技術を持てるワケ
なぜ、マッキンゼー出身者は各業界で活躍できるのでしょうか? その秘密はマッキンゼーの新入社員研修にありました。 - 『マッキンゼー現代の経営戦略』――6つの戦略フレームワーク
絶版後、数万円で取り引きされていた経営書、それが『マッキンゼー現代の経営戦略』だ。大前研一率いるマッキンゼーが、40社の経営者を集めて行なったセミナーをまとめたもので、戦略構築の基本を知るために外せない1冊である。 - シリコンバレー発「日米をつなぐ」働き方――渡辺千賀さん
日米の企業をつなぐ仕事をしながら、自分に合ったスタイルを選び取って働いている。そんな渡辺さんの仕事術とは――。 - 「永久ベンチャー」で有り続ける――南場智子氏、だからこそDeNAは強い
DeNA創業者で、現在は取締役としてDeNAの経営に携わる南場智子氏。6月に出版した『不格好経営―チームDeNAの挑戦』で驚くほど赤裸々に失敗談もつづっている。南場氏が本書に込めた思いを聞いた。 - “専門分野を極める”ための、情報収集術と整理術
みなさんは、仕事に役立つ情報をどのように集め、活用していますか? 今回は、業界情報の収集・整理を効率的に行う方法をご紹介します。 - 安倍政権のTOEFL必修化は必要? 「日本人の9割に英語はいらない」著者、元マイクロソフト社長成毛眞氏に聞く
元マイクロソフト社長で2011年に話題となった書籍『日本人の9割に英語はいらない』を出版した成毛眞氏。いま、安倍政権の下でTOEFLの必修化などが打ち出されているが、氏はそれをどのように見ているのか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.