『マッキンゼー流仕事術』について
なぜ、マッキンゼー出身者は各業界で活躍できるのか? その秘密はマッキンゼーの新入社員研修にありました。本連載ではマッキンゼーの厳しい新人研修を著者のエピソードと共に紹介しながら、そこで叩き込まれるマッキンゼー流問題解決の基本を解説しています。
この記事は2013年4月27日に発売されたソフトバンククリエイティブの『マッキンゼー流 入社1年目問題解決の教科書』(大嶋祥誉著)から抜粋、再編集したものです。
一般的なプレゼンというと、パワーポイントなどのツールで作られた資料を見せながら、流れるように進んでいくものをイメージされるでしょうか。それはまるで、最初から最後までプレゼンをする側に「答え」があって、プレゼンを受ける側は、その「答え」がいかに間違っていないかの説明を延々と受けるようなものです。
確かに、そういったプレゼンも存在します。ですが本来のプレゼンは、最初から何もかも完璧に決まっているようで、決まっていないですし、何も決まっていないようで実は決まっているということもある非常に有機的なもの。どちらか一方が作り上げるものではなく、プレゼンをする側と受ける側で一緒に作るものです。
マッキンゼーのプレゼンも、実はそういった要素も含んだもの。1〜10までを説明することがプレゼンではないと考えるからです。プレゼンテーションを受ける相手の内部で「芽が出る」のを促進させ、芽が出ようとしているのを感じながらプレゼンするのが良いプレゼンです。
「共感と共有のあるプレゼンテーション」と言うこともできるかもしれません。では、どうすれば、共感と共有のあるプレゼンができるのでしょうか。まず、プレゼンには3つの外せない要素があることを知っておいてほしいと思います。
- プレゼン資料を作る
- 見せるプレゼン資料にする
- 実際にプレゼンをする
どんなプレゼンも、この3つの要素が揃わなければうまくいきません。でも、その前に、もう1つ大切なこと。それは、「そもそも相手に共感と共有をもたらしたいと本当に思っているか」どうかということです。自分が言いたいことだけをとにかく伝えたい、というのではプレゼンとは呼べません。相手が大人数でもたった1人でも同じ。プレゼンの3要素に取り掛かる前に「私は、相手と何を共感共有したいのか」と、自問して迷わず答えが出るようなら、これから説明する作業に取り掛かっても大丈夫です。
最初からパワポは使わない
人に何かを伝えるために、最初からパワーポイントなどのツールに向き合うのはあまりお勧めしません。その前に自分の中で物事の事実、その理由、そしてそこから導かれる提案までのストーリーをつなげる作業ができていることのほうが重要。自分の中でストーリーが消化できてからパワーポイントなどに向かったほうが、絶対に人に伝わる確率は高くなるのです。
プレゼンを受ける相手も、「この人は本当に大事なところをつかんでいる」ということを実感するからです。プレゼン資料を作るときに、絶対に押えておかなくてはいけないのは「ストーリー」です。
しかもそのストーリーが何を伝えたいのかが一言で言えるように、問いの核心が明らかになっていなければダメです。商品戦略の見直しということであれば、それは価格戦略なのか、マーケティングなのか、あるいはラインアップなのか、何を見直すのが核心なのかということが最初に明らかになっているかどうか。
あれもこれもと出てくるようであれば、それはまだ問いの核心が明確になっていないことになります。野菜や果物を育てるのと同じ。最後にいちばん大きく育てたい実だけを残して、その実に栄養が行き届くように小さい実はつかまなければ成果は出ないのですから。そうして、いちばん大事に育てたい「実」がストーリーの核心ということになります。
けれども、いきなり「この実がいちばん大切な実です」と訴えても、相手はなぜそうなのかよく分かりません。そこで、なぜこの実がいちばん大切なのか、相手の心に響くストーリーが重要になるというわけです。
例えばクライアントに新規事業として「水を売る」ということを提案したいとします。さあ、大変です。だって、水ですよ。もう世の中には、たくさんのミネラルウォーターが出回っていますし、特別な水のサーバを宅配する事業だってあります。そんな中で、あえてなぜクライアントは水を売るべきか、水を売るにはどうすればいいのか。
競合と比べて、あえて選ばれる理由は何か。何がすごい水なのか。価格の優位性はあるのか。それらを成り立たせている要因は何か。絶対に競合がまねのできないKFS(KeyFactor For Success=成功の鍵)はどこにあるのか──。「これならいけます!」といえる戦略がストーリーに落とし込まれていなければ提案には値しません。
提案はしたけれど、クライアントが検討する気にもなれなかったというようなものは、そもそも提案が間違っているということ。もっと言えば、そもそも事業そのものを展開する必要があるのか、というところまで考えてストーリーを作ることが重要なのです。
例えばミネラルウォーター市場は一定の規模で推移していて、特にボリュームゾーンの商品はどれも抜きん出たシェアのものはないので、同じ価格帯で機能性のあるミネラルウォーターを展開すれば、新規でもシェア獲得できる、というような戦略的なストーリーに落とし込むのです。
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