夏野剛氏が語る教育の未来――モンテッソーリ教育から英語必修化まで:企業家に聞く:夏野剛氏(2/2 ページ)
ニコニコ動画を展開するドワンゴなどで取締役を務める傍ら、慶應義塾大学で招聘(しょうへい)教授として教壇に立つ夏野剛氏。2人の子どもの父親でもある同氏に日本の教育問題を中心に話を聞いた。
グローバル人材は何人必要?
まつもと: これまで、元マイクロソフト社長の成毛眞さん、DeNA創業者で取締役の南場智子さんにお話を伺ってきましたが、それとも通じるものがありますね。成毛さんは『日本人の9割には英語はいらない』という刺激的なタイトルの著書も出版しています。
夏野氏: グローバル人材が何人必要なのか? というのは極めて重要な課題ですよね。僕はこれは日本の貿易依存度から考えられると思います。いま日本の貿易依存度は20%を切っています。輸出依存度が17%くらい。この数字はここ10年くらいずっと変わっていません。つまり日本の経済の8割は内需で成り立っている=内的サービスが多い。また海外からの渡航者は1000万人くらいで落ち着いてしまっている。そういう人たちを相手にする商売というのもそんなに多くないってことです。つまりほとんどのことが日本語で完結しているわけです。
まつもと: 確かに。海外からの渡航者を3倍にしようという計画はありますが、実情は仰る通りですね。
夏野氏: ここで参考になるのが米国です。実は米国民のうち約3分の2はパスポートを持っていない。そして3分の1は州の外に出たことがない。でも、米国はグローバル国家ですよね。つまりどういうことかというと、トップ数%がグローバル人材である、ということです。多くてもトップ10%程度がそうであれば、グローバル国家たり得るということなんです。
まつもと: 確かにワシントンやニューヨークのような都市圏ではそういったスキルを持った人が多い印象ですが、地方都市に行くと全然様子が異なりますね。
夏野氏: あとはシリコンバレー周辺なんかもそうだろうね。一方マイアミなんか、3分の1はスパニッシュだからね。そもそも英語を喋れない人が多い。TVもスペイン語放送がメインだったりするから。グローバル国家であることって、何も国民全員が英語を喋れることが要件ではない、ということです。
まつもと: 成毛さんが仰る1割には徹底的な教育を、という話にも通じますね。
夏野氏: アメリカとの対比でいうと日本は海外旅行大国でもあります。1700万人もが海外に毎年に行っている。10年も経てば国民全員が行っているくらいの感覚ですよね(笑)。そういう意味では、旅行で困らないくらいの英語はみんな身に付けた方が良いとはいえるでしょう。でもそれと「グローバルで活躍できる人材」のための教育というのは全然違う話です。
グローバル人材教育とは先ほどお話ししたように、多様性への受容力を向上していくとか、「尖ったことができる」スキルを磨いていかないといけない。グローバルで活躍できるトップ人材というのは皆と同じことが普通にできるだけでは足りない。「これなら誰にも負けない」という才能を磨かないと世界で戦えないですから。
まつもと: 夏野さんは、楽天やユニクロでの英語公用化や、大学入試でのTOEFL導入というような動きはどう見ているのでしょうか?
夏野氏: 企業での英語導入は、教育課程のそれとは意味が異なっている点には注意が必要です。例えば三木谷さんは、楽天をグローバル企業に育てようとしている。つまり日本におけるトップ10%の集団へという認識なのだからそこに違和感はありません。また、TOEFL導入も、従来の日本人が作っていた英語テストを、グローバル標準のTOEFLに入れ替えようというものですから、間違ってないと思いますね。いまの大学受験の英語やTOEICって米国人も解けないようなおかしなものになってますから(笑)。
まつもと: レベルが高すぎて、英語の先生が教えることができない、ということはありませんか?
夏野氏: ということであれば、先生が変わらないといけないでしょうね。TOEFLのオンライン教材も山ほどあるわけですから、独習でもかなり対応できるはずですしね。大学に進学するなら、文献にあたるためにグローバルレベルの英語は必要。そして、日本人の9割は英語がなくても生活はできる、ということは、大学の受験者数が減る、ということになります。「大学卒」の価値が下がっているなか、大学全入という考え方も改めるべきでしょう(続く)。
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