体育会系の人間はもう要らない!? 夏野剛氏に聞く、グローバル時代に必要な教育:企業家に聞く【夏野剛氏】(3/3 ページ)
ITの普及で新しい働き方が可能となったいま、多様性のある人材を育てるには「自分のやりたいこと」と正面から向き合える教育環境を整えることが必要だと夏野剛氏は述べる。
多様性教育は企業にも生かせる
夏野氏: そうだね。ドワンゴはとにかく良い意味でのオタクが多い(笑)。みんな得意分野を持っている半面好き勝手だし、年齢と役職はひも付いていないし。お金とかルールで縛るってことはできない。
だから、女子マネージャー称する人材を雇い朝ラジオ体操するみたいな、“やる気に直接訴えかける”方法を試みたりしている(笑)。会社も引っ越してオフィスが新しくなったということもあって、みんなのやる気は高まっていますよ。そういったことも含めて環境作りが大事だと思ってます。それは役員をやっている他の会社にも提言していることですね。
実際そういう環境作りをしていると、いったんドワンゴを辞めてもまた戻ってくる人も多いんです。他で知見や見聞を広めて、それをドワンゴで生かしてくれればそれで良い。そもそも、代表取締役がジブリの見習い社員やってるくらいだからね(笑)。ドワンゴは「去る者は追わず」が原則。来る者は……まあ、こちらにも選ぶ権利はあるけどね(笑)。採用の際も学歴を一切見ていないし。役員の経歴や顔ぶれをみても、多様性に富んだ会社だなってことはすぐ分かってもらえると思います。
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まつもと: ドワンゴのユニークな方々を見ていると、確かに「自分のやりたいこと」を他人がどうだ、ということとは関係なく突き詰めた人も多いように思えますね。
夏野氏: 実際、モンテッソーリ教育を取り入れた学校の様子を見ると、浮いているとか、喧嘩を始めたとかといったトラブル以外は、先生が一切子供に介入しない。いろいろな道具だけは用意して、あとは子供達のなすがままに過ごさせる。学校によっては「習い事も一切させないでください。もしさせたいのならば、他の学校へどうぞ」という方針のところもあるくらいです。
まつもと: よく「子供の自主性」と言ったりしますが、そこまで徹底しているわけですね。
夏野氏: 読み書きとか英語を早くから学ばせようという親御さんもおられますけど、「時間が経てば忘れてしまいます」=無駄というわけです。自分が「やりたい」と思ったときに初めてやればいい。うちの子も、ひらがなをお姉ちゃんが書けるのを見て、下の子が自分から練習を始めました。
まつもと: 「誰も言ってないのに自分から始めた」というのが大事なんですね。
夏野氏: そう。うちは全く「勉強しなさい」などは言っていません。でも、2人とも成績は悪くないよ。すごく良くもないけどね(笑)。
まつもと: そういう環境で自分のやりたいことと正面から向き合う方法を身に付けた子どもは、大きくなっても道を切り開くスキルは高そうです。就職活動で初めてその課題と向き合って、悩む大学生が多いことも思い起こされます。
夏野氏: 僕も子どもたちがこれからどうなるか分からないけれど、そうだといいね。あと就活に関していうと、僕は企業側(=求人側)が悪いと思います。だって、リクルートスーツを着ずに受けたら、まず落とされるじゃないですか。なのに「個性がない」っておじさんたちは嘆く。企業側がそれを強要しているんじゃないかって言いたいですね(笑)。
就活をしている学生は、選ぶ企業に比べればずっと立場が弱いわけです。立場が弱いから、社会のルールに合わせていかないと考えるのは当然ですよね。そこで個性を殺す方向に向かうのだとしたら、その原因は学生を採用する側にあります。
まつもと: ドワンゴは服装自由ですよね?
夏野氏: もちろん。でも、就活生は他の企業も回るから、スーツを着てきちゃうんだよね。入社式でもその流れで着て来ちゃうんです。だから僕は「今日で最後だよ。もうそんなの着てくる必要ない」ってあいさつしています。だって役員が誰も着てないんだもん(笑)。2日目からはもうみんな好き勝手な服装で来ますね。
まつもと: 偉い人が着てないんじゃ、説得力がありますよね(笑)。
夏野氏: でしょう(笑)。
僕自身、アメリカのビジネススクールに留学していたときにその多様性に衝撃を受けたんです。学生もいろんな国や地域から来ているし、そもそも教授たちの人種も多様だしね。学校も「ウチの学校はダイバーシティ(多様性)があります」というのを売り文句にしている。人種だけじゃなく、性別や職歴などさまざまなデータを示しながらね。僕が行っていた学校も33%がアメリカ国籍ではない学生でしたから。
そうなってくると、英語だって何が正しいのかもう分からなくなってくるんです。ただ、別に綺麗な英語を喋れるのが目的ではなくて、ビジネス上のソリューションを編み出して授業に貢献するのが目的なので、それで構わないわけです。その様子は現実のグローバルなビジネスシーンとも合致する。まあ、教える側の先生は大変だったと思いますけどね(笑)。
僕がいま教えているSFCにも、英語だけで教えている大学院のクラスがあります。そこではもう半分以上が留学生という状況になってきている。日本でもようやくそういう環境は生まれて始めていますね。
まつもと: なるほど。「多様性」とグローバル時代の英語、本当の意味での「自主・自立」、そのための教育システムの在り方など、多岐に渡るお話が伺えたと思います。ありがとうございました。
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