断られそうな頼み事を上手に聞き入れてもらうコツ:ビジネスチームハック
「ちょっと無理かも」というお願いを聞いてもらうための“攻略法”。フットインザドアという用語は知らなくても、その手法を試している人は多いかもしれません。
会社の同僚に頼みごとがあるものの、そのまま伝えてしまうと断られてしまいそうなとき、みなさんはどうしていますか?
小さな要求から始めて、徐々に頼みごとの難易度を上げていく方法を試す人も多いのでは。これは、心理学の用語で「フットインザドアテクニック(段階的要請法)」という技法です。
成功させるには2つのコツがあります。1つは、目的とする大きな依頼にたどりつく前に断られてしまわないように、途中の依頼は相手が承諾してくれそうな依頼にしておくこと。もう1つは、途中の依頼で「応じてくれた見返り」を出さないこと。特に後者については考えられていないことが多いようです。
途中でペンをもらって満足してしまった
筆者は以前、羽田空港でフットインザドアを使った販促活動に遭遇したことがあります。
最初は「新しいペンの書き心地を試してもらっている」というところから始まりました。時間があったので何となく応じたら「アンケートに答えてほしい」といいます。それを書き終えるとペンはプレゼントされました。
次に、航空会社と提携したクレジットカードの申し込みの案内が始まりました。しかし筆者は、アンケートに答えた報酬としてペンをもらったということに満足しています。すでにクレジットカードに申し込むための動機付けは失われています。
セールストークがどのような展開になったとしても筆者は断ったと思うのですが、担当者は「途中で報酬を与えない」というポイントを外してしまっているでのす。
どうしてフットインザドアが有効なのか?
「なぜ、フットインザドアが有効であるのか」という解説はいろいろとありますが、一般には「小さな要求を受けてしまうと、より大きな要求を退けにくく感じる」と説明されています。このような心理が発生する理由として、ダリル・ベムの自己知覚理論が持ち出されます。
自己知覚理論によると、報酬や感情によって行動を起こしたということが明確でない場合に、自分の行動の理由を説明するべく、自分のとった行動と状況とを手がかりとして、自分の内面を「推論する」のだといいます。
つまり、「こういう依頼を受けた状況において、自分は人の求めによく応じる人間だ」と推定してしまったので、この推定がその後の行動にも影響を与え続けるというわけです。
いわんとすることは何となく理解できるでしょう。筆者自身、空港で「ペンの書き心地のチェック」を求められたとき、あまり深く考えずに応諾し、それによって同じ人からの頼み事に断りにくい心情が形成されました。
これは状況があいまいだからこそ発生する心理です。ペンの書き心地をチェックするという依頼については、積極的に応じる理由も断る理由も筆者は持ってなかったのです。
どうして途中で報酬を与えてはいけないのか?
一度、応諾してしまうと自分はそういう人間なのだという気が何となくします。少なくともそのときはそうでした。だから続けてのアンケートにも答えたのです。最初にアンケートへの回答を求められたら応じなかったでしょう。
しかし、そこでペンをもらってしまいました。すると不思議なもので、筆者は最初からペンが欲しかった気がしてしまったのです。ペンをもらうという目的を持ってアンケートに答えたわけではないのですから、このような感覚は錯誤(勘違い)です。
つまり、筆者はまず「小さな頼み事をされれば応諾するような人間だからアンケートに答えたのだ」と自分のことを値踏みしたのに対し、ペンをもらった途端に「私はペンが欲しくてアンケートに答えたのだ」と考え直してしまったのです。その瞬間「応諾する自分」は忘れ去ったわけです。
そこへ「クレジットカードにお申し込みください」では、受け入れる理由がありません。ペンをもらってなくてもどうだったかは分かりませんが、ペンをもらったことによって決定的に断りやすくなったことは間違いありません。
筆者:佐々木正悟
心理学ジャーナリスト。専門は認知心理学。1973年北海道生まれ。1997年獨協大学卒業後、ドコモサービスに派遣社員として入社。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、2004年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。
著書に『なぜ、仕事が予定どおりに終わらないのか?』『先送りせずにすぐやる人に変わる方法』『クラウド時代のタスク管理の技術』などがある。
ブログ「ライフハック心理学」主宰。
TwitterID:@nokiba
Facebook:佐々木正悟
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