次世代の無線通信技術といえば、HSDPAやWiMAXが話題に上ることが多い。しかし、もうひとつ忘れてはならない技術がある。京セラが推進する「iBurst」がそれだ。
オーストラリアのベンチャー企業PBA(Personal Broadband Australia)が初めて商用化した技術で、京セラが基地局やクライアント端末の開発、提供を行っている。今年4月からは、南アフリカの通信事業者WBS(Wireless Business Solutions)が無線ブロードバンドサービスと位置づけた商用サービスを開始。この2国でサービス提供されている段階だ(3月31日の記事参照)。国内ではまだ商用化の予定はないが、京セラが実験局免許を取得して(2004年12月20日の記事参照)、横浜事業所にアンテナを設置している。
6月2日には、その横浜でiBurstを普及させることを目的とするフォーラム「iBurstフォーラム」が開催された。会場では報道関係者向けにデモが行われ、京セラもフォーラムのコアメンバーとして技術を積極的にアピールした。
iBurstの技術上の特徴として、第一に挙げられるのは周波数利用効率の良さ。利用する周波数帯にもよるが、実験では2GHz帯で5MHz幅を利用し、基地局スループットで32.4Mbpsを実現している。内訳は、上り8.0Mbps、下り24.4Mbps。ユーザー単位では、1クライアントあたり最大1Mbpsのスループットを実現する。
「5MHz幅で、30Mbpsを実現する。割り算すると(1Hz幅あたり)6bpsになる。3Gの技術ではせいぜい(1Hz幅あたりのスループットが)1bpsだ。周波数利用効率は、5倍から10倍こちらが優れている」(京セラ)
条件にもよるが、1つの基地局によって見通しで半径12〜13キロをカバーできる。「高層ビルなどが立ち並ぶ都心部では、1キロを下回るぐらいだろうか」(京セラ)。基地局の敷設は少なくてすむため、事業者としてもコストがかからずにすむという。
今後のさらなる高速化も予定されている。iBurstフォーラムのチェアマンであるジム・クーニー氏は、「12カ月以内に2Mbpsから4Mbpsに高速化する」と話す。VoIPをサポート可能な点もポイントで、2005年12月にはVoIPサービスが商用化される見込みだという。
京セラによれば、現在VoIP技術は「フェーズ1」。この段階でも、レイヤ1(物理層)のパワーコントロールなどを最適化しているほか、レイヤ2(データリンク層)でセッション制御の最適化を行っている。さらに、ネットワーク機器側で米CiscoのQoS機能を実装しており、これによる音声品質改善を図っている。
実際に、VoIPアプリケーションをPCで立ち上げての通話デモも行われていた。実験環境とはいえ、音質は確かにクリア。京セラは、時速100キロの車内での通話も可能なほか、この状態での高速ハンドオーバーも可能だとアピールしていた。
会場ではまた、利用時の実環境に近づけるため“21台同時接続”した状況で通信していた。このスループットを測定したのが下のグラフで、21クライアントの数値を重ねてプロットしている。10秒ごとに各クライアントのスループットが落ち込んでいるが、これは一定周期で基地局をモニタリングするという動作のためだ。
iBurstフォーラムでは、同技術をオーストラリア、南アフリカ以外の国へも普及させると意気込む。既にフランス、英国、韓国、タイ、台湾、香港など各国の研修派遣団を受け入れているという。
日本でもサービスが展開されるのかが気になるが、これについては解決しなければならない問題も多い。まず、総務省がiBurstにどの帯域を何MHz幅を割り当てる予定なのかが定まっていない。
またそもそも、iBurstを採用して事業を展開してくれる通信事業者を探す必要がある。京セラは「基地局はすぐに提供できる」と強調するが、国内での商用化時期は全く未定といえる。
とはいえ、京セラは横浜に各事業者を招いて、技術を批評してもらっているという。京セラの通信システム機器統括事業部、ワイヤレスブロードバンド事業部長の五十里誠は「2Mbpsの高速化した先には、将来的に10Mbps超の高速化も考えている。iBurstを(3Gのおきかえとして)ネーションワイドに展開するのでなく、3Gのシステムとハンドオーバーさせて(1部エリアを高速化させる)デュアルサービスにしてもいい」と話していた。
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