年末に改めて問う「FMCって何が嬉しいの」?(2/2 ページ)

» 2005年12月27日 19時37分 公開
[杉浦正武,ITmedia]
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 固定ネットワークと移動体ネットワークの統合は、多くの通信事業者が積極的に取り組んでいる問題。旧型の交換機を用いた電話ネットワークから脱却してIP網を構築すれば、大幅なコスト削減につながる。

 例えば前出のKDDI小野寺氏は、KDDIのネットワークを統合するプロセスを明確に描いている。まず移動体であるCDMA2000の電話交換網は、3GPP2の定めるMMD(MultiMedia Domain)に移行する。GSMの交換網は、3GPPの定めるIMS(IP Multimedia Subsystem)に移行する。一方で固定電話の交換網も、ITU-Tの定めるNGN(Next Generation Network)に移行。その上で、3つのネットワークを有機的に統合するのだという。

 「FMCだといって事業を統合しても、携帯の利益を固定に移しただけだった……ということになりかねない。ネットワークを統合したIP網を構築して、インフラにプラスアルファの要素を持たせたい」

 この話には確かに“次世代ネットワーク”の香りが漂う。ただ、インフラレベルの議論がどうユーザーにインパクトを与えるかと考えると、そこには疑問符もつく。現在のところ、明確なユーザーメリットは打ち出せていないからだ。FMC対応ケータイを自慢するユーザーが、「何がすごいのか」と聞かれ、「実は通信のバックボーンが効率化されていて……」と話しても、今1つ説得力に乏しいだろう。

シームレスハンドオーバーが可能

 比較的“固定寄り”である無線LANやWiMAXなどの通信技術と、CDMAの移動体向け無線技術をシームレスにハンドオーバーさせることこそ、FMCの真の姿であるとする議論がある。

 例えばソフトバンクはノーテルネットワークスとともに、WiMAXとWi-Fi、W-CDMAという3つの無線通信方式をハンドオーバーさせるデモをアピールしていた(10月26日の記事参照)。これにより、すべての通信方式に対応したクライアントを用意して、通信インフラの状況に応じて通信を自動切り替えすることが可能だ(7月4日の記事参照)。国内ではカバーエリアの問題からなかなかブレイクせずにいる公衆無線LANサービスも、携帯とセットになることで真価を発揮する可能性がある。

 こうなるとユーザーメリットの明確化につながる感もあるが、一方で「つまるところはインフラの話」という印象もぬぐえない。移動体が高速化して、エリアを広げていく中で、無線LANとも連携するようになった。それ自体は素晴らしいことだが、これがはたしてFMCが指し示す革命的なサービスなのか。

アプリケーションレベルのトピックはないのか?

 ウィルコム経営企画本部長の喜久川政樹氏に、FMCとは何なのか? と質問をぶつけたことがある。同氏は「これは個人的な意見であり、ウィルコムの方向性を示すものではない」と断りつつ、アプリケーションレイヤーの融合に注目したいと話す。

 「携帯は高機能化し、PDA化していく。海外などでは(スマートフォンと位置づけられる)『BlackBerry』などが人気だが、それもPCのメール環境を再生できるからだ」。喜久川氏としては、やはりビジネスユーザーに照準を合わせて利便性の高いサービスを提供したいようだ。

 もちろん、これとて古くからあるテーマ。とはいえ日本ではハイエンドユーザーでない限りPCと携帯を連携させて使うユーザーはそう多くない。現状ではボーダフォンが打ち出した「702NK II」による「ボーダフォン・オフィス・メール」(12月15日の記事参照)などが注目されている段階だ。FMCでこの流れが本格化する可能性はある。

 コンシューマー向けの話題を考えるなら、音楽やゲームコンテンツのダウンロードサービスも議論されるべきだろう。ボーダフォンは携帯を絡めたブロードバンドコンテンツの流通サービス「Vodafone live!BB」を提供しているが(2004年11月10の記事参照)、FMCとこうしたサービスは相性がよさそうだ。

 FMCがユーザーにどんなメリットをもたらすのか、答えは簡単ではないし、1つに限定されるものでもない。ただ言えることとして、現状ではFMCという言葉だけが一人歩きし、多くの概念を包含するキーワードになっている。2006年は、事業者が最終的にエンドユーザーに分かりやすいサービスを提案してくる年になるだろう。各社の“具体案”を楽しみにしたい。

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