Big Pipe:ブロードバンドは儲かるの?

【国内記事】 2001年8月6日更新

 果たして,ブロードバンド事業は儲かるのか? 前回はブロードバンドの勝ち組と負け組の分類と,儲け方としての主軸事業と補完事業のミックス戦略をまとめた。だがミックス戦略を構築すれば儲かるのか? この不況の中,消費の紐はゆるくなるのだろうか? 結局,「インターネット」が流行したときと変わらないのではないだろうか? 巷ではこのような意見が多い。

 ブロードバンドの収益源は,消費者から徴収する形態,コンテンツホルダーから徴収する形態,広告主から徴収する形態,の大きく3つに分けられる。(図1)

<ブロードバンドサービスの収益源>

図1

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○消費者から費用を徴収
 1. 接続料金
  ▼アクセス回線料金
  ▼ISP接続料金
 2. コンテンツ利用料
  ▼ダウンロードコンテンツ購入代金
  ▼ストリーミング利用料
   @月額利用料金
   Aペイパービュー
 3. EC購入代金手数料

○コンテンツホルダーから費用を徴収
 1. ポータル利用料(暖簾代)
 2. 配信サービス料金
  ▼ホスティングサービス
  ▼ネットワークマネジメント
  ▼キャッシング
 3. 制作支援サービス
  ▼エンコーディング
  ▼編集・加工
  ▼著作権管理
  ▼マーケティング

○広告主から広告代金を徴収

 

 消費者から徴収するものには,接続料金,コンテンツの利用料,ECの購入代金手数料という方法がある。ブロードバンド時代に突入した今,コンテンツでお金が稼げる環境が整いつつある。この点でインターネット時代とは異なる。またECにしてもオーディオ・ビジュアルのマーチャンダイジングが可能となり,買い物がしやすくなる(もちろん,それだけで購入するかは別問題)。アクセス回線事業者の場合,接続料金の低価格化に代わり,コンテンツ・サービス利用料,ECの購入代金手数料で儲けようとしている。これはISP事業者も同様だ。

 次に,コンテンツホルダーから徴収するモデルについて。暖簾代としてのポータル利用料,ホスティングからキャッシングまでの配信サービス,コンテンツ制作支援サービスの3つがある。

 ポータル利用料徴収のモデルを確立させるためには,多くのポータルサイトが乱立する中において強固なブランド力を形成しなければならない。インターネット時代,楽天はこのビジネスを構築し,成功した。ブロードバンド時代にも,このようなポータルが登場する可能性は非常に大きい。そして,楽天がブロードバンド時代にもこのビジネスを維持し続けるか,新興勢力が台頭するか見物である。

 配信サービスは,現在ブロードバンドサービスの舞台裏として,2001年に入ってから急ピッチで整備されているものである。Jストリームやブロードバンドエクスチェンジ,アカマイ,アイ・ビームなどの企業が挙げられる。コンテンツ制作支援サービスはWeb製作者,ビデオ製作者,印刷会社,広告代理店が注力している。また,ここに着目した企業が制作代行から著作権管理やマーケティングまで手掛けるコンテンツアグリゲーター(コンテンツ収集・編集家)として新会社を設立している。AII,B-BATなどはその代表例であろう。またISP事業者やアクセス回線事業者がコンテンツ配信サービスやコンテンツアグリゲートサービスをはじめるケースが増加している。それによりコンテンツホルダーを囲い込み,アクセス回線収入の低収益化をカバーすることが狙いだ。また配信サービスと制作支援サービスを兼務している事業者も多い。

 最後に,広告収入の徴収モデルがある。インターネット時代はバナー広告が中心であったが,ブロードバンド時代が同じ形態であるとは限らない。広告もブロードバンドに対応した形で登場するだろう。既にベネフィットオンラインが三菱商事と,東急エージェンシーがPCCWJと提携し,動画広告の配信をはじめようとしている。ただインターネット時代からインターネット広告の効果には疑問の声があった。やはりブロードバンドでも同じように言われるだろう。しかし,ブロードバンドとは通信網で放送ができる時代である。ということは,ブロードバンドによって既存のテレビ放送視聴率が低下し,既存の放送ビジネスが成り立たなくなるとともに,それを土台にしたテレビ広告ビジネスも次第に崩壊して行くだろう。そのとき,テレビ広告のウェイトがどのくらい低下し,ブロードバンド上での広告のウェイトがどのくらい高まるのか。ブロードバンド時代には,全メディアの広告効果を見直すことが必要になる。

 さて,話はそれたが,ブロードバンドサービス事業者(ISP,アクセス回線事業者,ポータル事業者,コンテンツデリバリネットワーク事業者,コンテンツアグリゲーターなど)は,これら収益源からキチンと収益を確保することができるのだろうか。

 消費者は,魅力あるコンテンツがそろわないと,ブロードバンドサービスには加入しないし,コンテンツホルダーは消費者が一定数確保できないと本格的には有力コンテンツを提供しないし,広告主はある規模の消費者が見込めないと本格的には広告展開しないだろう。

 卵が先か,鶏が先か,という論争と全く同じ構図である。

 既にブロードバンドサービスを展開している事業者は,中長期的にはこれらの収益源が複合的に絡み合い,ビジネスが展開されるのは分かっているものの,ゼロからそこまで行き着く過程でどのように収益を確保できるのか,悩ましく思っているはずだ。

 個人的には,ある程度ターゲットを絞り込み,マーケティング及びコンテンツの集積を行なうことから始めるべきだと思う。ヘビーユーザーを取り込んでニッチ市場を形成し,ユーザー・コンテンツ・広告主の三角関係の中から,より広範なユーザーを巻き込み,ある程度(100万ユーザー?)の市場を形成するというパターンを,まず構築すべきではないかと思う(図2)。

図2 ターゲットセグメンテーションからの市場拡大化

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 ここ最近のブロードバンド・サービスは,総合的にコンテンツを集め,ターゲットもないまま,サービスを提供している事業者が多い。これはまだ明確なターゲットが見えていないという点もあるが,それ以上に,「賭け組」(先週のコラムを参照)としてまず顧客数を確保するために,あらゆるユーザーを取り込まなければならないと考えているからだ。しかし,それでは難しい。ユーザー確保を第一義とするビジネスモデルでは,目標に行き着くまでに莫大な資金が必要となる。EC時代とは異なり,ビジネスモデルを語るだけでは資金は集まらない。キチンと収益を確保しつつ,一歩一歩着実に事業を進めていくビジネスが資金市場では望まれている。将来的に,地上波キーテレビ局がブロードバンドサービス事業に本気になり,テレビとブロードバンドの融合サービスが登場した場合には,マス・マーケティングを展開する可能性も生じるが,それを新興のブロードバンド事業者が行うには,コスト面からいっても困難だ。

 これでは,かつてのマルチメディアプレイヤー(3DO,ピピンアットマーク,CD-I,マーティなど)と同じ道を辿ることになる。何でも出来るプレーヤーとして売り出しだが,何を誰に提供したいのか分からず,全く売れなかったものである。彼らは,ハードウェアを活用しているが,B to Cのコンテンツビジネスとして現在のブロードバンド・サービスと同じである。結局,マルチメディア時代は専用端末のビデオゲームビジネスを除き,ことごとく失敗している。

 一方,ソニーの「PlayStation」は,ゲーム専用端末として成功した。ヘビーユーザーのゲームマニアをコアとして100万〜300万人のユーザーを集めたあと,簡単なゲームもそろえてライトユーザーを開拓。その結果,国内2000万ユーザーの勝ち組市場を形成した。「PlayStation2」ではエンタテイメントプレイヤーとの位置付けでブロードバンドビジネスを展開しようとしているが,それはPlayStationのビジネスの延長線上にある。ゲームをメインにしながら,その周辺にエンタテイメントサービスを形成することで,ヘビーユーザーからライトユーザーまでを確保する考えである(理論どおりには上手くいっていないようだが)。

 既に市場参入しているブロードバンド・サービス事業者にも,マーケティングの常道を考えながら,事業展開してもらいたい。これまで,いくつかのブロードバンド・サービス事業者と会う機会があったが,失礼な話だけれども成功するとは思えないものばかりだった。これは,アクセス回線事業者も含めての話である。ECブームの時にビジネス経験なしのビジネスモデル論者が始めたベンチャー企業と同じに見えて仕方がないのである。

[根本昌彦,ITmedia]

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