“宝くじ付き”ADSL？　過酷な事業者間競争

コンシューマー向け通信インフラの実状を知るには，一般家庭を訪ねるのが早道だ。今回は，韓国外国語大学近くの住宅街に住む金融コンサルタント，Kim Yeon Hwanさん宅を訪ねた。

【国内記事】

2001年8月10日更新

　いきなり余談で恐縮だが，韓国の賃貸住宅には「チョンセ」（全税）と呼ばれるユニークな賃貸料支払方法がある。チョンセとは，借り主が貸し主（大家）に高額の保証金を預け，その代わり月々の賃貸料を免除されるというもの。貸し主は，保証金を金融市場で運用して利益を得る。解約時には，預けた保証金の全額が借り主に戻るため，実質的な支払いはないのだが，保証金はそれなりに高額だ。たいていの場合，借り主の年収よりも高くなるという。以前は，韓国の賃貸住宅のほとんどが，この賃料支払い方法を採用していたが，金利の低下とともに数が減っている。今回，訪問したKimさん宅は，このチョンセ方式だった。

2LDKの賃貸住宅に妹さんと二人で暮らすKimさんは，このアパートに入居して約3年。お隣に美人女子大生が住んでいるところがお気に入りとか

　部屋に上がりこむと，さっそく気になる回線を見せてもらう。サービスは，SK TelecomのCATVインターネット「Syncroad Pro」だ。試しに日本の計測サイトで回線速度を調べてみたところ，370Kbps程度のスピードが出ていた。

　しかし，Kimさんは，回線の種類や最大速度を全く知らずに使っていたという。「入居時には，既に回線が引かれていた。電話代を払うよりも得だと思い，契約しただけ」というKimさん。なんともアバウトだ。

ケーブルモデムは3Com製

　しかし，話を聞いているうちに，彼が無頓着なわけではないことが分かってきた。韓国では，とくにPCやインターネットに詳しくない人でも気軽にブロードバンドインフラを導入できる環境が整っており，電気や水道と同じ感覚でCATVやDSLの契約をする。アパートの玄関や郵便受け，電柱など，人目に付くあらゆる場所に常時接続サービスのチラシが貼り付けられ，中には「即日開通」を謳うものもあった。ユーザーは，その中から気に入ったサービスを選び，電話するだけでよい。

近所を数メートル歩いただけで，いくつかのチラシをゲットできる

商品券，宝くじプレゼント

　料金は，CATV，DSLサービスとも月額2万3000ウォンから2万8000ウォン（日本円なら2200〜2600円）で，契約年数によってディスカウントする事業者もある。たとえば，韓国版NTTといわれるKorea TelecomのADSLサービス「Megapass」では，2年契約で10％オフ，3年契約なら15％オフとなる。Yahoo! BBの登場によって日本でもブロードバンド回線の低価格化が進みつつあるが，こうした料金設定はまだない。

　チラシに書かれている特典もユニークだ。たとえば，前述のMegapassでは……

○初期費用無料
○契約月の料金は無料
○LANカード無料貸し出し
○ポータルサイト無期限無料
○電話線はなくてもOK
○月額2万5500ウォンで使い放題
○デパート商品券プレゼント！
○宝くじプレゼント！

　と，およそインターネットには結びつかない特典まで用意されていた。宝くじや商品券が選択の決め手になるとは思えないが，家計を握る主婦層には有効なのだろうか。考えてみれば，マイラインでNTT東日本を登録すると「お掃除し隊」がやってくるのも，同じくらい本来のサービスからかけ離れているように思う。このような特典が付くということはつまり，韓国では，インターネットが電話並みに認知されているということか。

そろそろ「ベストエフォート」やめますか？

　もう1つ，興味深い点がある。それは，どのチラシをみても全く回線速度を書いていないことだ。これは，「ユーザーの期待を過剰に煽るという理由で，昨年，行政側から各事業者にストップがかけられた」（Kim氏）ため。それぞれのサービスには「Pro」「Lite」などといった複数のメニューがあるのだが，料金以外の違いがほとんど分からない（ちなみに，KTの最上位メニューは最大8Mbps，下位メニューは最大2Mbps）。

　周知の通り，基本的にCATVもDSLもベストエフォートのサービスだ。しかしKimさんによると，1年前はまさに「言ったもの勝ちの状態」であり，広告に書かれた数字と実効速度がかけ離れたケースも多く報告されたという。その結果，ユーザーからの苦情が事業者と行政に殺到，最大速度を広告などに表記しないことで決着した。

　このあたり，日本のユーザーや回線事業者も他人事ではない。韓国のような対応がユーザーメリットに繋がるかどうかは判断の分かれるところだが（少なくとも，メニューが分かり難い），必ずしも予備知識を持ったユーザーばかりではないのも事実だ。インフラの拡大に伴い，国内でも遠からず同じ問題に突き当たることになるだろう。

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