Big Pipe:VoDにみる米国映画業界の勢力図

【国内記事】 2001年9月28日更新

 1993年,当時の米国副大統領Al Goa氏が提唱した「Information Super Highway」構想から始まったマルチメディア・ブーム。その中で,そのキラーアプリとして注目されたのが,VoD(ビデオ・オン・デマンド)による映画配信である。当時はフロリダ州でTimeWarnerが行った実験レベルで終わったが,2000年に入り,CATVインターネットやADSLなどのブロードバンド・ネットワークインフラが整備され,普及する下地が整ってきた。2001年になり,映画配信事業,特にハリウッドの大手映画会社がビデオ・オン・デマンドに本腰を入れ始めている。

 ハリウッドの映画配信事業は,現在2大陣営に分かれて進められている。1つはソニー陣営で,もう1つがディズニー陣営だ。

サイト名/配信時期 Moviefly/年内〜来春
出資企業 SPE(Sony Pictures Entertainment),Universal Studio,MGM(Metro-Goldwyn-Mayer Studios),Paramount Pictures,Warner Bros.
配信手段 インターネット/CATV
価格 4ドル程度
サービス内容 ホームページで映画を検索し,自分のパソコンにダウンロードする。高速ネット接続なら2時間の映画を40分程度で取り込める。保存したファイルを開いてから24時間は何回でも再生できる。

サイト名/配信時期 movies.com/2002年
出資企業 Disney,20th Century Fox Film
配信手段 CATV/インターネット
価格 4ドル程度
サービス内容 VoDに対応したCATVを通じてもサービスを受けられる。新作も現行のCATVで1回ごとに料金を支払う「ペイ・パー・ビュー」方式で流すより前に新サービスだけで提供する。

サイト名/配信時期 MIRAMAX Cafe/配信開始
出資企業 Walt Disney
配信手段 インターネット
価格 3.49ドル
サービス内容 サイトサウンド・ドット・コムのウェブサイトでダウンロードできる。ダウンロードしたファイルは,電子メールに添付して転送可能だが,受け取った側が見るには視聴料金を支払わなければならないようにして海賊版が出回るのを防ぐ。利用者がファイルを開ける前に,必ず料金を支払うサイトを経由する仕組みにする。24時間視聴可能。

サイト名/配信時期
出資企業 SPE
配信手段 インターネット
価格 料金未定
サービス内容 SPEでは個人のPCでエンターテイメント・コンテンツを制作し,そのコンテンツをPCやデジタルカメラ,モバイル機器,インターネットを通して共有することができるスクリーンブラストを開発している。ターゲットは高速大容量の通信環境を持つ若者層で,グループの持つ映画の1場面や所属アーティストの音楽を素材として提供するほか,専用の加工・編集ソフトもダウンロードできるようにする。

 ソニー陣営はSPE(Sony Pictures Entertainment),MGM(Metro-Goldwyn-Mayer Studios),Paramount Pictures,Universal Studios,Warner Bros.の5社が合弁で著作権管理システムを駆使してオンデマンドの配信サービスを行なう。合弁会社名は「Moviefly」である。このプラットフォームを提供するのがSPE傘下のSPDE(Sony Pictures Digital Entertainment)である。今回提供するものはインターネットとパソコンをベースにしたサービスであり,データ容量は500Mバイトクラス。したがって,フルスクリーン再生は難しく,画面は小さいものになるという。サービス開始時期は早くて年末を予定している。配信するのは最新リリース映画のほかに,さまざまなジャンルの旧作,古典作品などであるが,今後はメジャーだけではなく,マイナーな映画製作会社にも事業の参加を呼びかけて行く。

 ディズニー陣営は,DisneyとNewsがCATVとインターネットを利用して動画配信を行う合弁会社「Movies.com」を折半出資で設立した。Disneyと20th Century Fox Filmの映画,ライブコンサート,映画情報をダウンロードできるサービスである。

 もともと,ディズニーとソニーは独自でも2000年当初に事業展開をするとしていたが,要するにそのプラットフォームを利用して他社を巻き込んだ陣営作りを急いでいたのである。実際の著作権システムや課金・決済システム,プラットフォームは不明だが,早速水面下では各社が動いている。Moviefly側にはSony,AOLTimeWaner,IBM,RealNetworks,
InterTrust,On2Technologiesなどが,AOLと対立するディズニー陣営のMovies.comには,Microsoftがつくものと思われる。ただAT&Tについては不透明。また,Enron Broadband Servicesは大手レンタルビデオチェーンのBlockbusterと提携し,独自のビデオ・オン・デマンドを開始する。

 映画配信事業を行なう背景としては

(1)Napsterのピア・ツー・ピア(P2P)による音楽配信事業の動向を見て,映画事業で著作権管理システム等の先手を打たなければ映画版のP2Pが市場に広がってしまうと懸念していること

(2)映画の流通市場としてパッケージのビデオ,VHS,ネットワークの有料放送に代わる新たなチャネルを確保し,2次流通市場の拡大を狙うこと

が理由として挙げられる。だが,映画配信事業が新規のマーケットを確立するのか,それとも既存のDVD,ビデオカセットのレンタル,セル市場や有料放送市場のある部分を侵食することになり,結果として2次市場全体規模はそのまま変わらず,という事態になるのか,そのあたりはまだ未知数である。

 ある関係者は,映画配信事業について「2002年に全体としてレンタル市場の10%の市場が形成されればよい」と考えている。

 そのターゲットとしては“Speed Crazy”な人間。専用線でブロードバンド環境が整備されている会社の従業員,あるいは学生やブロードバンド・オタクの家庭PCユーザーであり,PCで2時間のコンテンツを見ても耐えることができる(というよりもPCで映画がフルスクリーンで見られることに感動する)ユーザーを描いている。一方,家庭用のデジタルTVやSTBなどでのテレビ視聴型のサービスは,まずインフラが普及しなければ実現不可能であり,それにはまだ数年かかるとしている。

日本への進出はあるか?

 両陣営とも日本への進出は未定としているが,米国での成功を経て,日本市場への進出を本格展開するものと思われる。テレビ局や商社,ISP,コンテンツアグリゲーターからの話では既に接触が始まっているという。ブロードバンド・コンテンツの大本命(?)といわれるハリウッド映画,その動向如何によってブロードバンド・コンテンツ事業の可能性は大きく変わるかもしれない。

[根本昌彦,ITmedia]

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