ブロードバンドへの“アンチテーゼ”としての映像ポータル――111.tv

ISPや通信事業者によって立ち上げられる映像ポータルサイト。しかしその中には,“ブロードバンド”を前面に出さない方針のサイトも存在する。

【国内記事】 2001年11月13日更新

 映像コンテンツは日々増えている。最近では大手ISPや動画サイトで次々と新しい動画がアップされており,ユーザーが動画コンテンツを目にする機会も増えた。

 活況を呈する映像コンテンツ業界だが,実際にコンテンツを配信する側はどのような思いで運営してるのだろうか? 先日映像ポータルとして「111.tv」(ワンワンワンドットティーヴィー)をオープンしたKDDIのIP事業企画部,新規事業グループリーダーの久永公紀氏に話を聞いた。

KDDIのIP事業企画部,新規事業グループリーダー久永公紀氏

 久永氏は111.tvオープンの理由について,「ブロードバンド化が進む中で,今後コンテンツ市場も大きくなる」ことを挙げる(11月8日の記事参照)。

 「KDDIとしては従来から(コンテンツ配信に関する認証,課金などの)プラットフォーム機能を持っているが,コンテンツサイトおよび消費者にメリットある取り組みをやるべきだろう,ということで,マスメディア的な動画配信サービスを提供することになった」

 ただし,これまでのような映像配信サイトとは異なるこだわりがあるようだ。同氏はWebによる映像コンテンツの配信について,すぐ“高速通信によりVHS,DVD並みのクオリティの映像が実現する”と強調されることに疑念を呈する。

 「111.tvは,そういった意見へのアンチテーゼとしたい」(久永氏)

新しいメディアとしての「111.tv」

 久永氏がブロードバンドサービスで強調するのは,必ずしもテレビ番組と似たコンテンツの提供を目指す必要はないということ。従来と同じやりかたで映像を流していたのでは,やはり既存のメディアにかなわないという。111.tvでは,「付加価値を付けて,インターネットでしか見られないようなコンテンツを提供していく」(久永氏)。

 具体的には,映像とテキストを上手く融合させるなどして魅力あるサイトづくりを目指す。111.tvのメインコンテンツの1つ「111.tv編集マガジン」では,コンテンツをクリックすると本のかたちをしたウインドウが開く仕様になっている。本には基本的にテキストが掲載されているが,その文章の一部をクリックすると動画が再生される。これにより,映像とテキストを関連付けて提供することが可能となるという。

111.tvのコンテンツの1つ,「スタッフる!」より。本の中のテキストの一部に動画ファイルへのリンクがはってある

文章の一部をクリックすると映像コンテンツが開く

 サイトにはコンテンツ制作者サイド,視聴者サイド双方から意見・情報を発信する場を設け,両者のつながりを深めるようにする。掲示板やアンケートにより,視聴者がほかのユーザーに感想を伝えられる仕組みも提供するという。インターネットの持つコミュニティ機能を有効に利用することで,従来のメディアに対抗したい考えだ。「インターネットの機能を活用したい。(こうした利用法は)今後のメディアのあり方の本流になるのではないか」(久永氏)。

 同氏は6種・49作品用意されている映像コンテンツについて,どれが特にキラーコンテンツであるとは語らない。テキストのナビゲーションをたどり,映像コンテンツへ導く――そのシステムそのものが,まさに“キラーコンテンツ”との認識のようだ。

先行きは見えぬ挑戦

 111.tvでは現在,映画,音楽,アニメーションなどの動画およびテキストベースで編集されたコンテンツが用意されている。KDDIのコンテンツ配信プラットフォームを利用してシステムが構築されており,課金やストリーミングサーバなどはKDDIの自前のインフラを利用している。サイトオープン特別企画として,12月までに会員登録したユーザーは年末まで全コンテンツ月額900円で視聴が可能だ。

 今後の展開について,久永氏はまだ決まっていない部分が多いと話す。「このまま(のシステム)でいくわけではない。ペイパービューにすることもあるかもしれないが,サービスが始まっていきなり全部ペイパービューというのも難しいだろう」

 広告モデルは考えていないのかとの問いには「やる可能性はあるし,やるべきだ」(久永氏)。現在は広告をとれるだけの,メディアとしての力が足りないとの認識のようだ。ビジネスモデルを含めて,サイトの課題は多いといえる。

 とはいえ,サイトの基本理念である“新しいメディアの創出”は,はっきりと打ち出されている。「サイトのユーザーインタフェースはユーザーの反応次第で変わる可能性がある」(久永氏)など現状ではやや試験的な要素が強いものの,動画サイトとして意欲的な取り組みであることに間違いはない。

 あちこちでそのサービス形態が模索されている,ブロードバンド時代の動画コンテンツ。KDDIは,“ブロードバンド”にこだわりすぎない方法でのサービスを検討している。

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[杉浦正武,ITmedia]

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