スカイファイバーと不動産業の微妙な関係

赤外線に近いレーザービームでビルの間をメッシュ状につなぎ,622Mbpsのラストワンマイルを提供するスカイファイバー。現在は商用サービスに向けた実験段階だが,その事業は「多分に不動産屋の要素を含むもの」という。

【国内記事】 2002年2月12日更新

 382.17THz帯という赤外線に近いレーザービームでビルの間をメッシュ状につなぎ,622Mbpsのラストワンマイルを提供する。「空の光ファイバー」というべきサービスを予定しているのが,昨年11月に第1種通信事業者の許可を取得したスカイファイバーだ。先週,行われたOBN協議会(ビル間高速光空間通信網推進協議会)のフォーラムで,同社の中野修吾社長が事業戦略を明らかにした。中野氏によると,その事業は「多分に不動産屋の要素を含んでいる」という。

 スカイファイバーのように,空間を使って拠点同士を直線的に結ぶ光m無線ネットワークインフラは「FSO」(Free Space Optic)と呼ばれる。ただ,FSOは光を遮蔽する障害物に弱く,また気象条件にも左右されるため,その信頼性を疑問視する声が多い。

 しかし,米国に甚大な被害を与えた昨年9月の同時多発テロが,皮肉にもFSOの有効性を再認識させる契機となった。事件直後,完全に通信が断絶した世界貿易センタービル周辺地域に対して,わずか数日で高速通信を復旧させる手段となったのがFSOだったからだ。

メンテナンスフリーのノード

 FSOの特徴は,ノードを設置する際の手軽さと高速性を併せ持っていること。このため,最近は緊急時の通信手段として,また有線インフラを敷設しにくい場所に対するラストワンマイルとして注目を集めている。米国では既に,TERABEAMAirFiberなどいくつかの通信事業者がFSOの商用サービスを展開中だ。

 スカイファイバーの技術は,前述の通信事業者の1つ,米Airfiberが開発したもの。4方向のマルチポイント通信が可能なノードを使い,いくつかのビルをメッシュ状につないでクラスタを形作る。通信経路を複数用意することで,鳥などの障害物が1つのリンクを切断しても,瞬間的にリルート(迂回)できるのが特徴だ。

 また,ノードの発光部は,左右360度,上下各20度の視界があり,GPSを使った自動焦点追跡・検索システムによって常にリンクを最適に保つ仕組み。AirFiberでは,米Nortel Networksと共同で,「あえて地震と霧の多いサンディエゴを選んで」(同氏)実証実験を行い,その信頼性を確認したという。


屋上に設置することが前提のノードは,かなりのヘビーデューティ仕様だ。きょう体は防弾用の強化プラスチック製で,寒冷地に設置する際も結露しないようにヒーターを内蔵。上部は鳥がとまれない角度の曲面加工を施し,糞などで汚れることを防ぐ。高さ89センチ,幅30センチのコンパクトな筒状だが,支柱や土台部分を加えると2メートル80センチ程度になる

「ノード間の伝送距離は500メートルほどだが,ビル5つ程度をメッシュ状にすれば,強固なネットワークが構築できる。ノードは8年間のメンテナンス・フリーを保証する。これを500棟のビルにおいても,3人(3交代で24時間)でメンテナンスできるだろう」(中野氏)。

不動産屋の仕事?

 しかしながら,問題は「ビルにノードを設置するまで」の作業だ。ビルの屋上に入るのはセキュリティ面から理解を得るのが難しく,また屋上のコンクリートは当然ながら防水加工のため,リベットなどを打ち込んでノードを固定することができない。

 そこで同社は,まずノードの設置作業を簡素化した。ノードの土台に円形のタンクを設置し,屋上に運び込んでから200リットルの水を入れる。ノードの総重量は約400キロとなり,大型台風の風圧でも通信に影響することはないという。また,設置したノードの調整作業は,GPSと集中管理システムで100%自動化済み。支柱の設置から水入れ,ノード調整まで合わせても「作業員2人で1週間に4〜5本は余裕で工事できる」。

 また,中野社長は「NTTは光ファイバーがほとんどの商用地域に敷設済みだとしているが,ビルに引き込むための工事費はビルオーナーの負担になる」と指摘する。

 これに対してスカイファイバーでは,オーナーの負担なし(アクセスラインに限る)でビルをインテリジェント化できること,通信機器の屋上使用料を支払うこと,機器を置くだけなので簡単に原状回復が可能であることなどを伝え,理解を得るという。また,既に多数設置されている携帯電話のバックボーン増設を睨み,キャリア各社にも採用を働きかける。

「携帯用のアンテナ,そしてブロードバンド接続によるテナント賃料値上げ。2方向の収入で(ビルオーナーの)リスクヘッジを図る。一番のポイントは,“やったら儲かる”と理解してもらうこと」(同氏)。

 もっとも,面識のない通信事業者がいきなり訪ねても信頼を得るのは難しいため,三菱地所などの不動産会社と協調してブランド化を進める方針だ。丸の内で行われている共同実証実験は,その前段階といえる。

新しい無線技術でマンションにも

 このほか,中野社長は,新しい無線技術を持つ企業と提携して,メッシュネットワークから離れた場所にあるビルやマンションにもラストワンマイルを提供する計画を明らかにした。未発表のため,技術的な詳細はふせたが,60GHz帯を使うこの無線技術では,5キロの距離を1.2Gbpsで伝送できるという。

 通常,この周波数帯での伝送距離は100〜200メートル程度に限られており,実現すれば画期的。既存マンションなどのラストワンマイルとして,有力な選択肢になることが期待できるだろう。

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[芹澤隆徳,ITmedia]

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