「株主として全力で支援していく」――伊藤忠,エキサイトをネット事業の中核にエキサイトを子会社化した伊藤忠。ネット戦略の再構築の一助としたい考えだ。一方,新生エキサイトは出会い系サービス人気を追い風に,課金コンテンツを強化する方針である。
伊藤忠商事は先月,経営破綻した米Excite@Homeが保有する日本法人エキサイトの株式を買い取り,エキサイトを子会社化した。出資比率は約20%から約85%に引き上げられている(2月4日の記事参照)。 Excite@Homeが破産申請を行ったのは,2001年9月。伊藤忠商事執行役員で情報産業部門長の小林栄三氏によれば,伊藤忠では「8月ぐらいから危ないという話はあった。その段階から,エキサイト存続のために話し合いを続けてきた」という。 Excite@Homeの経営破綻により,広帯域インターネットアクセスプロバイダ事業の危うさを指摘する声もあがった。だが,エキサイトはExcite@Homeとは異なる日本独自のビジネスを展開している。「(エキサイトのビジネスには)微塵の疑問も抱いていない」と小林氏は強調する。 「経営権の取得に時間がかかったのは,リーガルイシューのため。株主として全力で支援していく。Excite@Homeと同じ轍は踏まない」(同氏)。 エキサイトを子会社化した伊藤忠だが,ITバブル崩壊以後,いわゆるドットコム企業は苦戦が続いている。伊藤忠は,どこに勝機があると見たのだろうか? この点について,伊藤忠の情報産業ビジネス部長・井上裕雄氏は,「エキサイトを既存のネットビジネスの中核に据え,シナジー効果を高めていく」と説明する。 伊藤忠が出資するコンシューマー向けネット企業には,映画製作資金調達サイトのシネマネー,妊娠・出産・育児の総合ポータルサイトであるe-baby,ならびに自動車販売支援サイトのオートバイテルなど21社があるが,「どこも苦しい状態」(井上氏)。そこで,ブランド力のあるエキサイトをポータルとして活用し,こうしたネット企業への誘導を促進する――それが伊藤忠の狙いのようだ。 「ページビューは不要」伊藤忠に救われたエキサイトだが,今後,どうやって成長路線を保っていくのだろうか。エキサイトの山村幸広代表取締役ゼネラルマネージャーは,事業方針を「売り上げが入らないコンテンツはやらない。課金でも広告でもいい,何らかの形で売り上げに貢献するコンテンツだけを重点的に展開する」と説明,「ページビューしか取れないコンテンツは不要」とまで言い切った。 ページビューの増加が広告売り上げの増加につながるというビジネスモデルは,もはや破たんしたも同然だが,ここまで「ページビュー不要論」を明確にするポータルも珍しい。だが,この大胆な発言には,着実に課金ビジネスが成長しているという裏づけがあるようだ。 エキサイトの売り上げは,2001年度が30億円,2002年度には33億円を見込んでいる。内訳を見ると,2001年度,2002年度ともに広告売り上げが18億円と横ばいながら,2002年度には,携帯課金が2001年の10億円から12億円に増加,Web課金(PCからアクセスするコンテンツ)は2億円を見込んでいる(2001年はゼロ)。
課金コンテンツ収入の増加により,広告収入依存度を低下させ,2003年度は売り上げに占める広告収入の比率が50%を切る見通しだ。「当面の目標は,広告収入の割合を50%以下に抑えること。安定した収入源を確保する」(山村氏)。 現在,エキサイトの課金コンテンツを支えているのは,出会い系サービスである。iモード,Jスカイ,ezwebに対応した「エキサイトフレンズ」(300円/月)の有料会員数は,2001年12月時点で36万人。年間12億円の事業規模になっている。 「2001年7月に単月黒字を達成した。Excite@Homeのデータ移管費用などが発生したため,昨年8〜12月期は一時的に赤字になったが,1〜3月期は黒字に戻る見通しだ。来年度はコンスタントに利益を出し,累損を解消していく」(山村氏)。 「都会に住むシティ派」をターゲットにまた,エキサイトでは,課金ビジネスの強化とあわせて,ユーザーの絞り込みを行う方針だ。「都会に住むシティ派のM1F1層(20〜34歳の男女)をターゲットにしたサイト作りを行う。シニアもキッズもやらない。エキサイトはシティ派のための“パートナー・ポータル・サイト”になる。これは大きな方向転換だ」(山村氏)。 山村氏は,ユーザー層を特定するのは,広告主への訴求力を高めるためだと説明する。「M1F1層をターゲットにしたテレビ番組や雑誌に,多くの広告が入っている。広告主のメディアバイイングの考え方にあわせるなら,地域・年代・対費用効果を明確に説明しなければならない。下から上まで,左も右もカバーするポータルでは広告はとれない」(同氏)。 新生エキサイトの戦略を歯切れよく説明した山村氏。「アンチスタンダード,アンチヤフー」という挑発的な発言は,以前と変わらぬ勢いを感じさせた。ただ,現時点では,出会い系サービス以外に有料コンテンツの具体的なプランは見えてこない。それがちょっと気になるところではあるが,たかが出会い系,されど出会い系……なのかもしれない。 関連記事 [中村琢磨,ITmedia] Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved. モバイルショップ
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