IBMが示すコンテンツビジネスの方向性IBMの試算によると,映像やゲームを含む全世界のデジタルコンテンツの量は,全人口が毎日25Mバイトずつ制作している規模だという。溢れるコンテンツをどのようにビジネスに結びつけるのか。IBMの提案は“パートナーシップ”だ。
米IBMは,2月22日にオープンなテクノロジーフレームワーク「Digital Media Factory」を発表した。IBMの持つe-ビジネスインフラに加え,パートナー企業の持つ技術を組み合わせて提供するソリューションビジネスだ。プロモーションのために来日したIBMのデジタルメディア&コンテンツ担当副社長のJorgen Rosqvist氏,日本アイ・ビー・エムの通信・メディア・公益システム事業部ソリューション推進事業部長の伊藤雅朗氏らに,日米のコンテンツビジネスについて話を聞いた。
Digital Media Factoryの特長は,単にソフトウェアやハードウェアを販売するだけではなく,ビジネスやシステムデザインに関する総合的なコンサルテーションも含まれている点だ。その適用範囲は広く,PCやSTBを対象とした配信,携帯電話のようなワイヤレスデバイス,キオスク端末,あるいはそれらを組み合わせたる複合的な配信ビジネスまでを網羅する。 もっとも,フレームワークとして体系化したのは今回が初めてだが,コア技術の1つである著作権管理&コンテンツ配信システム「EMMS」(Elestronic Media Management System)や,コンテンツ管理システムの「Content Manager」などは既に多くの導入実績を持っている。国内の例で言えば,NTTドコモの携帯電話向け音楽配信システムや,ローソンにあるキオスク端末「ロッピー」なども手がけている。 また,IBM Global Service Asia Pacificでデジタルメディアを担当するTimothy OBrien氏によると,「IBMはビジネス面により多くの根をはっているが,エンターテイメント企業とも太いパイプを持っている」という。Paramount Filmがフィルム映像のデジタルアーカイブ化するにあたり,システムを提供したのがIBMの最初の仕事。米CNNやBBCがニュース映像をデジタル化し,編集の作業効率を上げた例もある。 最近は,Napstar騒動が引き金となり,ハリウッドを中心とするショウビジネス界はデジタル配信を必要以上に警戒するようになってしまったが,一方で製作現場のデジタル化は急速に進んでいる。「デジタル技術をアナログのワークフローに当てはめるのは,もはや当たり前。制作から配信までの分業を生態系(エコシステム)のように連携させなければならない」(Rosqvist氏)。
コンテンツビジネスの行く末しかし,日本では少し事情が異なるようだ。日本アイ・ビー・エムの伊藤氏は,日本のリッチメディア事情,とくにブロードバンドコンテンツ配信に警鐘を鳴らす。 過去10年間で日本のネットワークコストは5分の1にまで下がり,さまざまな企業が「ブロードバンドコンテンツ」事業に手を伸ばせるようになった。しかし,「これまで通信ばかりを扱っていた企業がコンテンツビジネスや著作権に弱いのは当たり前。だから失敗する」(伊藤氏)。 一方で,既存の有力コンテンツプロバイダーたちは,「および腰」といわれつつも新しいメディアに注目し,水面下で動き始めている。通信のノウハウがない彼らは,小規模な事業を展開しつつデータを集め,攻勢に転じる時期を探っている。彼らが本格的にブロードバンドをターゲットにしたとき,通信事業者兼「にわかコンテンツプロバイダー」に勝ち目はないだろう。 実際,伊藤氏によると,IBMに商談を持ちかけるコンテンツプロバイダーたちは,一様に「どの企業とパートナーシップを組んだらよいか」「どうすれば儲かるのか」と問い掛けるという。その際,IBM自らはコンテンツにも通信事業にも手を出さず,ビジネスパートナーと競合することはないため,仲介役に徹することができる。 「IBMに期待されているのは,総合的なコンサルテーションとシステムデザイン。われわれは,コンテンツシンジケーターと手を組み,インフラとコンテンツがWin-Winの関係を築く手伝いをする」(伊藤氏)。 自社だけで展開するよりも,パートナーシップを重視することが長期的なメリットをもたらす。そのためにシステムと環境を整えておくことは,コンテンツを囲い込むことより有益だという。伊藤氏の指摘は,長期的な視点に立ったものだ。 「今後数年のレンジで事業を考えるときは,今までより速いスピードでネットワーク環境が変化することを念頭に置いておくべきだ。今できることと,2〜3年後にできることを見極め,各企業が進路を決めることが重要だと思う」(伊藤氏)。
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