Big Pipe:ブロードバンドユーザーの心理学

アメリカの社会心理学者,Everett M. Rogersが提示した「Diffusion Process」は,社会に新しいものが普及していくプロセスを説明するモデルだ。これに日本のブロードバンド市場を当てはめてみると……?

【国内記事】 2002年4月3日更新

マーケットの浸透プロセスを考察する際に有効な手段となるのが「Diffusion Process」である。アメリカの社会心理学者,Everett M. Rogersが提示した,社会に新しいものが普及していくプロセスを説明するモデルだ。これを,ブロードバンドという新しいインフラが浸透するモデルに当てはめてみると――。

Diffusion Processは,先行指標となるユーザー像を分析したり,次世代のユーザー特性,または市場が成長して行く際の社会心理学的な側面を反映させるものとして有効といわれている。DSE戦略マーケティング研究所ではブロードバンド利用に関するユーザー調査を昨年末に実施,そのデータをもとにDiffusion Processのマーケットグループに分類した。

 マーケットグループは,Innovator(革新者)が2.5%, Early Adopter(少数初期採用者)13.5%, Early Majority(前期採用多数者)34.0%, Late Majority(後期採用多数者)34.0%,Laggard(遅滞者)が16.0%となる。この5つのグループは,流行に敏感な層,慎重な層,そして流行を無視(あるいは,あえて避ける)層まで,インフラが普及していく過程を5段階で分類している。

日本のブロードバンドの普及状況を当てはめて見たのが下図だ。


Diffusion Processによるブロードバンド区分(クリックで拡大)

Innovatorの段階は2001年6月に終了し,現在はEarly Adopterの段階で普及率は5.7%である。弊社調査から算出した普及率予測では,2003年3月にEarly Adopterを終了し,マスマーケットのEarly Majorityに突入する。

 このEarly Majorityが終了するのが2007年5月。従って,われわれがブロードバンドビジネスを考察するとき,現段階ではEarly Adopter,将来的にはEarly Majorityの動向を分析すればよい。

各グループの特徴をまとめると以下のようになる。

分類Innovator(革新者)
導入時期と市場規模〜2001年5月,2.5%
デモグラフィック特性未婚者,学生,企業ユーザーなどの男性が中心,CATVインターネットや1.5Mbps ADSLの利用者が多い。年齢は,20〜30代が中心
利用目的常時接続と定額制が主目的
特徴IT愛好家やゲームマニアが先行して利用。ゲームやアダルト,初期のストリーミング放送(ライブ画面)を楽しむ。ただし,ユーザーによる偏りが大きく,先行指標とはなりえない。長時間利用のヘビーユーザーではある

分類Early Adopter(少数初期採用者)
導入時期と構成比率2001年6月〜2003年3月,13.5%
デモグラフィック特性女性が増加し,年齢的にも30〜40代まで広がる。8Mbps ADSL利用者が増加
利用目的スピード重視
特徴明確な利用目的はもたないが,数字(回線速度)には拘る。現在は,このレイヤーに前期に属する。女性の利用の増加がポイント

分類Early Majority(前期多数者)
導入時期と構成比率2003年4月〜2007年5月,34%
デモグラフィック特性ファミリー層が増加。年齢は30〜50代まで拡大する。マンション居住者なども増える
利用目的映画・音楽コンテンツやECに関心が高い。ブロードバンドで多彩なアプリケーションを利用
特徴実用主義者が多く,目的意識を明確に持っている。年収はEarly Adopterに比べて低下するものの,情報消費支出で突出したユーザーが居る。つまりコンテンツ購入に関してはこのレイヤーが中心となる。ブロードバンドの中心ユーザー

分類Late Majority(後期多数者)
導入時期と構成比率2007年5月〜2012年6月,34%
デモグラフィック特性主婦層にも浸透し,女性が41%増加。また45歳以上の高齢者層にも拡大する
利用目的
特徴流行おくれのグループ。高年齢層に多い

分類Laggard(遅滞者)
導入時期と構成比率2012年7月〜2016年12月(16%)
デモグラフィック特性50歳以降の高年齢層が中心
利用目的
特徴ブロードバンドに全く無関心な層。情報メディア全般に関しても無関心。

InnovatorからEarly Adopterへの転換期は,Yahoo!BBがADSLサービス参入を宣言した2001年6月にあたる。各段階にはメインユーザー,利用目的の違いが明確に表れているが, InnovatorはIT愛好家,ゲームマニアなどの先駆者的ユーザーがメインで,常時接続性を重視する。

 Early Adopterは若年サラリーマン,大学生などが中心で,通信料金の支払いに対するハードルが低い(多少高くても加入する)。一方でスピードを重要視しており,光ファイバーへの期待も大きい。

 Early Majorityは,現在ナローバンドで満足している層。実用主義者であり,中高年サラリーマン,OL,小中高校生が中心となる。携帯電話を使ったインターネット,メールの利用で満足しているため,ブロードバンドが必要なコンテンツやサービスが充実しなければサービスにも加入しない。彼らがブロードバンドへ移行する時期を2003年3月と予測している。

 Late MajorityおよびLaggardは,主婦や高齢者といった非ネットユーザーが中心である。このグループは,テレビの視聴時間が長めで,パソコンに対するなじみは薄い。

 われわれは,2007年5月以降にLate Majorityがブロードバンドインターネットを開始すると見ているが,カギは情報家電の普及が握っている。例えば,テレビ画面を利用したブロードバンドインターネットが早期に実現するなら,このグループを予測より早い時期にブロードバンドユーザーに引き込むことができるだろう。

参考文献:『Diffusion of Innovations』; Everett M. Rogers

[根本昌彦,ITmedia]

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