ニュース 2002年5月23日 10:40 PM 更新

NTTが「ユニバーサルサービス基金」に反発する理由

情報通信審議会の答申を受け、「ユニバーサルサービス基金に係る総務省令」にゴーサインが出た。しかし東西NTTは「基金が実施されても、適格事業者の申請を行うかどうかは白紙の状態」としている

 5月23日、情報通信審議会(電気通信事業部会)において、「ユニバーサルサービス基金に係る総務省令」がほぼ原案どおりで了承された。しかし、これに対してNTT持株会社および東西地域会社が一斉に反論。「総務省案は、基金としての実効性が全く期待できない」と激しい口調だ。

 ユニバーサルサービスとは、全国一律の料金で提供されるべき、いわば生活に必要不可欠と判断されたサービスを指す。通信事業においては、加入電話と公衆電話、緊急通報の各サービスを全国同料金で提供することを「基礎的電気通信役務」としてNTT東西地域会社に課している。

 しかし、NTT東西地域会社は、地方の不採算地域における電話サービスを支え続けるコスト負担が重く、都市に限ってサービスを提供している新電電などに比べて不利であると、かねてから主張してきた。このため、通信事業者各社が費用を出し合って基金を設立し、ユニバーサルサービスの維持に充てるとする案が提出された。 これが「ユニバーサルサービス基金」だ。

相殺してから?

 基金によって赤字を補填されるはずのNTTが、反対の立場に立った理由は2つ。1つは、総務省側がコストを算出する際のルールに「長期増分費用方式」を採用するということ。

 これは、補填を受ける側の事業者が、採算地域から不採算地域へ社内補填(相殺)したうえで、それでも埋めきれない費用が発生していた場合にのみ、基金が動く仕組みだ。「適格電気通信事業者(この場合は東西NTT)の非効率性を排除しやすい」(総務省)ための措置で、この案には、KDDIやC&W IDC、テレコムサービス協会などが賛同の意見を寄せている。

 しかしNTT側は、相殺型の長期増分費用方式は「採算地域と不採算地域双方を提供する適格事業者」(NTT)と「採算地域のみを提供する事業者」(その他の通信事業者)との間で競争上の不平等を生じさせると指摘している。

 「不採算地域を対象に会計ベースで判断し、赤字なら適用されるという形が望ましい。相殺型は諸外国でも採用されておらず、そもそも“ユニバーサルファンド”という主旨にそぐわない」(NTT東日本)。もちろんその背景には、採算地域と非採算地域を相殺してしまっては、採算地域におけるNTTの競争力が低下するという懸念がある。

NTTは黒字?

 またNTT側は、総務省が政省令案に基づいて試算したNTTの収支試算値にも反発している。4月15日に公表された同省の試算値では、東西NTTを合わせて平成12年度に1348億円の黒字という結果が出た。これに対してNTT側によるヒストリカルベースの試算値では、ユニバーサルサービスに関わる収支だけで2080億円の赤字であると主張(同社のニュースリリースを参照)。その差、3400億円余はあまりに大きい。

 「総務省の試算は、最新かつ廉価な設備を使い、バーチャルなネットワークを構築するという算定方式で行われた。償却年数も16〜17年間と長く、コストを過小に評価するもの」(NTT)。NTT側がヒストリカルベースと呼ぶ実績ベースの試算結果とは大きな隔たりがあるという。試算に使われた機器が、実際にNTTが採用したものとメーカーが異なるなど、事実に即していないという点でNTTの主張は頷けるものだ。「コスト回収という考え方からすると、(事実と)相容れない算定方式」(NTT)。

 しかし、別の指摘もある。「補てんの対象となるコストは、NTTの非効率性と事業者間競争が生んだ“過去の負債”である」(イー・アクセス)。確かに、競争に用いた費用を、当の競争相手に負担させることになっては本末転倒だ。総務省が長期増分費用方式を提案したのも、「利用部門費用において、事業者間競争にかかる費用を負担させないように配慮した」ためだが、実際にそれを切り分けるのは難しいだろう。

申請できない? NTT

 いずれにしても、ユニバーサルサービスに係る総務省令案は、ほぼそのままの形で情報通信審議会を通過した。総務省は、近く関連する法整備に取りかかる見通しだ。

 ただ、NTT側は「基金が実施された場合でも、適格事業者の申請を行うかどうかは白紙の状態。総務省の試算が“NTTのユニバーサルサービスは黒字”という結論を出している以上、申請を行えない可能性もある」としている。

 また、ユニバーサルサービス基金は、施行後2年を目途に見直しが行われる予定になっているが、その際、NTT側は「実効性を持つ基金制度とするための抜本的な見直し」(同社)を要望していく構え。ユニバーサルサービスの提供を円滑化し、業者間の不公正をなくすための省令案だが、本来の目的を果たすまでには、いましばらくの議論が求められることになりそうだ。

関連記事
▼ 「ユニバーサルサービス基金負担は新規参入を阻害」イー・アクセス

関連リンク
▼ ユニバーサルサービス基金に係る総務省令に対するコメント(NTT東日本)
▼ 電気通信事業法等の一部を改正する法律の一部を施行するための政省令(ユニバーサルサービス関連)」に対する意見(NTT東日本)

[芹澤隆徳, ITmedia]

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