リビング+:ニュース 2003/02/06 23:59:00 更新

Interview
「ネットワーク医療は革命的」 〜東京医療センター

ブロードバンドを利用し、遠隔地からの指導の下で手術を行う。そんな遠隔医療を実用化している、国立病院東京医療センターに、利点、課題などを幅広く聞いた

 先月、ブロードバンドを活用した遠隔医療のデモが都内で行われた(記事参照)。実際の手術現場を、ネットワークで中継、報道向けに公開するという、業界でも例のない斬新な試みで、配信された映像は“新たなネットワーク社会”の可能性の象徴とも見えた。

 このデモを行ったのが、国立病院東京医療センターと慶應義塾大学病院。両病院はそれぞれFTTH、12M ADSLを導入しており、通信を暗号化した上での2点間接続を実現しているという。今回ZDNetは、国立東京医療センターにインタビューを行い、システム導入までの経緯や、遠隔医療の利点、また今後に向けた課題など、幅広く聞いた。答えてくれたのは外科医長・内視鏡センター長の磯部陽氏、手術診療部長、外科医長の窪地淳氏、外科医師の和田則仁氏の3人だ。

/broadband/0302/06/doctor1.jpg
 国立病院東京医療センターの病棟外観

ZDNet:まず、遠隔医療の利点を教えてください。

和田:遠隔医療での手術は、指導医なしでも、自分1人でできることが基本。しかし、現場に全く違う“目”が入ることが大きい。関わる人数は、増えれば増えるだけいい――。手術とは、そういうものだ。

窪地:異なる経験、ノウハウを持つ複数の人間が、ディスカッションできるのが利点。たとえば、おなかの中を切るにしても、ほかの病院の医師が「胆のうを目標に切るといい」とアドバイスをしているのを聞いて、なるほどと参考になった。遠隔医療によって、より短時間、より傷口の小さい、「よりよい手術」が実現できる。

磯部:医者の研修という意味からも、意義は大きい。たとえば、ほかの病院で行われている、さまざまな手術を見学することができる。興味ある症例の手術は、院内で行われるなら、見に行くこともできるが、外にまで出かけて見る、ということはなかなかできないもの。これまでは、学会で発表されるビデオを見て、勉強するぐらいだった。

/broadband/0301/17/doctor_1.jpg
 指導医は、ネット中継された映像を見ながら指示を与える(写真は、1月17日の記事より)

ZDNet:ブロードバンドによる遠隔医療システムを構築するまでの、経緯は。

和田:ネットワークを使っての医療自体は、1999年から行っている。当時はISDN 3回線を使用していたが、費用がかさむ上、ネットワーク帯域にも限度があった。

 ブロードバンドの導入にあたり、実は初めにADSLを引いたのだが、院内の配線で信号が減衰して、200Kbpsしか通信速度が出ないなど、試行錯誤した。現在はFTTHを利用しており、1−2Mbpsで通信している。帯域保証のない、インターネット上で通信を行っている点がポイントだ。

磯部:倫理的な問題が起きないように、きちんとした手順も踏んだ。院内には倫理委員会という、弁護士など外部の人間を含めた中立的な組織があるが、プロジェクトがここを通過するだけで半年かかっている。

 昨年の6月から技術的な問題を一つ一つ解決して、10月31日に胃切除の手術を行った。この時点から、実用化したといえる。

ZDNet:遠隔医療の課題は、何ですか。

窪地:執刀医と、指導医がある中で、責任の所在がはっきりしていないこと。医療行為として、法的な面がまだ整備されていない。

磯部:診療報酬をどう算定するかという問題もある。現状では、指導医はすべて、ボランティアでやることになってしまう。

 たとえば、川崎市立川崎病院と慶応大学医学部を接続した遠隔医療のケースでは、川崎市議会から予算がついて、医師への謝礼を払っていると聞く。医療の発展のために、保険料などでカバーする仕組みがほしい。

ZDNet:今後、ブロードバンドによる医療ネットワークを拡大させたい考えのようですが。

和田:病院−病院間を接続したり、病院−診療所間を接続したりして、情報を共有できる。実際、今回のシステムは数百万円レベルで導入可能で、普及の可能性はあるものと思う。

磯部:救急の現場で、活躍する可能性もある。無線で状況を飛ばせば、適切な応急処置を行えるだろう。また、幼児が急に体調を悪化させて、現場に専門の小児科医が少ないケースでも、内科の医師が小児科医の指導のもと、診察を行えるかもしれない。

窪地:現代は、「チーム医療」の時代。ブロードバンドによって、そのチームが拡大して、より強力になる。ネットワーク医学は、革命的なことだと思っている。

関連記事
▼“ブロードバンド・オペ”はもう実用段階

関連リンク
▼国立病院東京医療センター

[杉浦正武,ITmedia]



モバイルショップ

最新スペック搭載ゲームパソコン
高性能でゲームが快適なのは
ドスパラゲームパソコンガレリア!

最新CPU搭載パソコンはドスパラで!!
第3世代インテルCoreプロセッサー搭載PC ドスパラはスピード出荷でお届けします!!