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2003/05/26 22:37:00 更新 |
今度こそなんとかなるのか「テレビでインターネット」
「誰でも使えるように、テレビやゲーム専用機をインターネット端末にしてしまおう」というアイデア。誰もが一度は思いつくが「テレビやゲーム専用機を使ってうまくいったためしがない」という歴史的事実もみんな知っている。NECは低解像度端末のWebブラウズを改善する「セマンティック・ズーム」で、この触れてはいけないテーマに挑戦している
NECは5月26日、低解像度端末でも快適なWebブラウジングができる「セマンティック・ズーム」機能の開発を発表した。
NECが開発している「セマンティック・ズーム」。低解像度デバイスで単純に拡大表示するのではなく、レイアウトを解析して見出しの階層と段落ブロック単位で拡大処理を行う
この技術は、従来PCが中心だったWebページの表示をテレビ、PDA、携帯電話といった表示機能やポインティングデバイスに制約がある端末でも、支障なく行えることを目的としている。
Webサービスの利用範囲は拡大する一方。趣味の情報検索や、ショッピングといったホビー利用だけでなく、今や、公共性の高いサービスもWebによって提供される時代だ。この流れのボトルネックとなっているのが「誰もがPCでWebサービスを利用できるわけではない」(NEC インターネットシステム研究所所長 片山博氏)デジタルデバイドの問題だ。
このような状況で「Webコンテンツ利用がPC前提という考えは間違っている」(片山氏)というのがNECの考え。誰もが使えるように、テレビのようなすでに普及している一般的な端末でWebサービスが利用できる必要がある。
テレビのような低解像度の表示端末でWebサービスを利用する場合、これまでは、ブラウザにWebページの一部分を拡大して表示する機能を持たせるか、端末の解像度を考慮した専用のHTML言語で作成されたWebページのみを利用していた。
しかし、単純に一部分を拡大させるだけでは、Webページの全体像がつかみにくく、必要なサービスがすぐに見つからないなど、一覧性が低くくなる問題があった。また、現在のWebページは「マウスでクリックする」操作が一般的となっているが、PC以外の端末が採用しているポインティングデバイスはゲームコントローラにあるような十字キーがほとんど。このキーでは操作時にストレスがかかりやすい。
十字カーソルキーをポインティングデバイスに使うと、画面左のように縦横単位でポインタを移動するようになる。移動経路を見ても分かるように、時間がかかる方法だ。セマンティック・ズームは見出しの階層と段落ブロック単位の大まかな選択操作で目的のコンテンツにアクセスする
一方で、携帯電話のように、端末専用のHTMLを使い、表示解像度に合わせたレイアウトのWebページを作成する方法は、Webサービスの拡大や、利用端末の種類が増加するに伴ない「これから、さまざまな端末でWebページを見る必要が出てくるが、コンテンツ側でそれぞれの端末に合わせて作り分けるのは、もはや限界」(片山氏)。そのため、NECは、どんなコンテンツでも解像度に影響なく利用できるように、ブラウザのプラグインとして提供される「セマンティック・ズーム機能」を開発している。
この機能は、見出しのテキストだけを通常表示、本文を縮小表示にすることで、低解像度でもWebページ全体のレイアウトと構成が分かるようにする。また、操作性の悪いポインティングデバイスでも、ストレスなく操作できるように、見出し段落単位でアクティブカーソルのフォーカスを移動できる。
セマンティック・ズーム機能を使うためには、Webページの記述に、レイアウト情報を含むRDFをサポートしたXMLを使用する必要がある。また、ブラウザにもセマンティック・ズームプラグインを実装しなければならない。RDFで記述されたレイアウト情報を解析し、見出しの階層レベルと段落のブロックを抽出するのが、このプラグインの基本的な仕組みだ。
セマンティック・ズームはRDFを含んだXMLを解析し、見出しの階層と見出しに属する下位階層のテキストブロックを抽出する。見出しの表示位置とブロックを、表示する見出しの階層にあわせて拡大縮小して、低解像度でもレイアウトが分かるようにしている
セマンティック・ズームプラグインの処理フロー。サーバからコンテンツをダウンロードしたら、イメージを生成。ここまでは従来のHTMLと同じ処理。次いでダウンロードしたRDF記述を解析した結果から、表示階層に合わせた拡大縮小処理を行う。段落ブロック単位のフォーカスカーソルの移動制御はインタラクション制御で行う。端末に合わせた変換処理をすべてクライアント側で行っているのがセマンティック・ズームの特徴だ
NECインターネットシステム研究所は、この技術を使ってテレビ、PDA、カーナビゲーションといった低解像度デバイスで、PCを前提としたWebサービスの利用を目指している。ただし、最低でもQVGAの解像度が必要で、携帯電話については「現行の携帯電話での利用は厳しいと思われる。本格的な利用はこれから普及するQVGA搭載機種になるだろう」(NEC インターネットシステム研究所研究統括マネージャー山田敬嗣氏)と、している。
現在開発は、NetScapeやMozilla用のプラグインを使ってレイアウト表示検証を行っている段階。Internet Explorerなど、ほかのWebブラウザへ実装は「同じ手法で出来るので、それほど難しくない」(山田氏)。セマンティック・ズームプラグインを実装した端末の登場は1年後を予定している。
セマンティック・ズームの事業展開については「我々は研究所なので事業については発言できない」(片山氏)と、研究所としてはパテント取得も含めて現在白紙状態としながらも、「広く普及するために、多くの事業者が自由に使えるようにしていければ」(山田氏)と、普及を最優先に考えていることを明らかにした。
なお、セマンティック・ズームで、PDFページのレイアウト解析をサポートする予定は現在のところない。
研究は「通常のHTMLで記述されたWebページでも、レイアウトを解析してセマンティック・ズームが出来るようにすること」(山田氏)が最終目標。今回のRDFを使った方法は中間的な解決策としているが、実現の次期については「すべてのユーザーに満足してもらえるだけの確実な表示の見通しは立っていない」と回答した。
同一記述ファイルから端末ごとに表示を切り替える手法は、ほかのベンダーでも開発している。従来は切り替えるための設定ファイルをサーバ側に用意し、変換されたコードをそれぞれのクライアントがダウンロードしていた。セマンティック・ズームの特徴は、HTMLで記述されたコンテンツ情報と、RDFで記述されたレイアウト情報だけをサーバ側が用意。端末が見やすいように変換するのはクライアント側が行うところだ。コンテンツ事業者は新しく登場する端末にあわせて、設定ファイルを用意する負担から逃れられる
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[長浜和也,ITmedia]