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2003/08/12 23:59:00 更新 |
レビュー:NEC「AX20」&NetTune
PCユーザーには最適のビデオレコーダー「AX20」、でも音楽サーバは機能不足?
NECのHDDビデオレコーダー「AX20」が、オンキヨーの「NetTune」に対応した。まだAXシリーズの詳細レポートを行っていなかったこともあり、さっそく最新ファームウェアにアップデートしたAX20を試用してみた。
PC向けのビデオ/テレビサーバ機能を備え、PC用TVチューナーカードとも連携するユニークなハードディスクビデオレコーダー、NECのAXシリーズ最新機種「AX20」が、オンキヨーが提唱するプロトコル「NetTune」に対応した。NetTuneは、TCP/IPネットワークを通じて音楽を共有するためのプロトコル(2002年11月の記事参照)。操作レスポンスが良く、CDプレーヤー並みの多彩なトリックプレイを行える点が特徴だ。富士通の「ファミリーネットワークステーション」が既に対応しているほか、東芝も「TransCube」で将来的なサポートの可能性を示唆している。
先代「AX10」の3倍強の大容量HDD(250Gバイト)を搭載し、PCとの連携機能も強化された「AX20」。本体サイズは430(幅)×280(奥行き)×68(高さ)ミリ。価格はオープンだが、実売価格は12万5000円前後
インタフェースは、USB2.0×2、RJ45端子×1(100BASE-TX/10BASE-T)、SPDIF×1、オーディオ入力×2、オーディオ出力×1、ビデオ入力×2、ビデオ出力×1、TVアンテナ入力×1、TVアンテナ出力
リビングプラスでは、まだAXシリーズの詳細レポートを行っていなかったこともあり、さっそく最新ファームウェアにアップデートしたAX20を試用してみた。
多彩な機能でテレビ視聴のスタイルを拡張
以前取材したとき、NECのAX担当者は「うちはAV機器を持っていないから、まともにやったら勝負にならない」と話していたが、AX20はなかなか魅力的な製品だ。250Gバイトの大容量HDDを搭載し、ハードディスクレコーダーとしての機能に加え、PCに対してテレビのライブ映像や録画済み映像を配信するサーバ機能を有する。
さすがに大手コンピュータメーカーだけあり、PC用の視聴ソフトウェアも操作性がこなれている。AX20で録画した映像は、イーサネット経由でPCにダウンロードすることも可能。簡単なカット編集も同じソフトウェアで簡単に行える。記録型DVDドライブとDVDオーサリングソフトを持っていれば、AX20に録り溜めた映像をPC側でDVDに録画しておくことも可能だ。
しかも、このクライアントソフトは、NECが発売しているPC用のTVチューナーカード「SmartVision」シリーズの2.0以降と共通のもので、AX20のHDDから映像を抜き出し、SmartVisionをインストールしたPCに保存しておくといったことも可能になる。ただし、PC側からAX20の映像をネットワーク経由で再生することは可能だが、その逆はできない。
また、PCを用いればDVDを作成できるとはいえ、松下電器産業の「DiGA」シリーズや東芝の「RD」シリーズのような、ハイブリッドビデオレコーダーと同様の使い勝手とは考えない方がいい。これらの製品は、HDDに録画しておき、気に入ったものをDVDで保存する、というワークフローを省力化することに注力した製品だ。単にDVD制作だけならば、それらハイブリッド機の方が手軽だろう。
AX20の基本は、あくまでもハードディスクの力で、テレビの楽しみ方のスタイルを拡張する点にある。ソニーの製品でいえば、「CoCoon」チャンネルサーバに近い位置付けと機能性を持つ。
たとえば、AX20を起動すると、合わせているチャンネルの映像を常にタイムシフト用ファイルに記録し続ける。テレビに出力される映像は受信した映像そのままではなく、いったんMPEG2でタイムシフト用ファイルに記録したものを再生させたものだ。
軽快な再生コントロールと各種機能の操作性が魅力
なぜ、このような回りくどい手法を用いているのか。それは、いつでも好きな時にタイムシフト再生可能にするためだ。AXシリーズは常にタイムシフト映像を録画しているため、ポーズボタンを押してからタイムシフトに移行する製品のようなモタツキがない。また、ごく普通にAXシリーズで視聴中、ふと少し前に見た場面に戻りたいと思ったとき、(タイムシフト映像が残っている範囲内なら)簡単に時間を遡ることができる。
こうした時間シフトの操作は、通常の早送り、巻き戻し操作(それぞれ4倍、20倍、100倍でのサーチが可能)で行えるほか、あらかじめ設定しておいた間隔(デフォルトは15秒)で双方向にスキップさせることでもできる。
またシーンサーチ機能を用いれば、映像サムネイルを指定間隔(初期値10秒、そのほか30秒、1分、5分などの設定も可能)で前後時間方向に表示させ、目的のシーンまで移動することも可能だ。
サムネイルを見ながら操作可能なシーンサーチ。サムネイルの時間間隔も指定可能。タイムバーに表示されている区切りは、チャンネル切り替え、番組の切り替わりなどでコンテンツ内容が変化しているポイント。番組切り替わりはEPG情報から自動的にマークされる
これらの再生コントロールは、タイムシフト、録画済み映像に関わらず軽快でストレスを感じさせない。コンパクトなリモコンも操作性が良い。音声付きの高速再生機能がないのが残念だが、現在はAV機器を製造しなくなったメーカーとは思えないほど使い勝手は良い。
裏番組レバーを押し込むと、現在放送中の番組がリストアップされ、簡単に裏番組のチェックを行える
番組表の操作性や表示レスポンスも、この手の家電製品の中ではトップクラスだろう。裏番組ボタンを押せば現在放映中の番組が一覧され、専用レバーの操作で軽快に番組切り替え。番組表ボタンは非表示、放送局別、ジャンル別、時間帯別番組表がトグルで切り替わる。操作ガイダンスもわかりやすく画面上に表示されるため、リモコン操作に慣れてしまえばマニュアルなしで使いこなすことが可能だ。
放送局別の番組表。操作方法がわかりやすく図で表示されるほか、操作レスポンスも軽快
EPG情報を利用してジャンル別の番組表も表示できる
番組を指定してクリックすると、簡単な番組情報、デフォルトの画質設定、録画時間、必要な容量などが表示される
リモコン
なお、番組データは直接インターネットからダウンロードすることはできない。基本的にはデータ放送の「ADAMS-EPG」を用いたもので、最初の設定後、定期的に自動取得されるのを待つ必要がある。CATV回線などの場合、ADAMSが受信できないケースもあるようだが、その場合はPCからインターネット番組データ配信サービスの「ADAMS-EPG+」のデータを受信し、AX20にアップロードしなければならない。
録画品質は高画質、標準、長時間以外に、ユーザー設定の品質を登録できる。後々、DVD化する場合に無駄が発生しないよう、あらかじめ計算してトランスコードなしで記録できるように微調整をかけることもできる。
非常に残念な点は、SmartVision 2.1以降でサポートされている、ジャンルやキーワードを指定した「おまかせ録画予約」をサポートしていない点である。250Gバイトという大容量のハードディスクを搭載しているだけに、AXシリーズでも是非ともサポートしてほしいところだ。本機はLinuxベースのアップグレーダブルなアーキテクチャを採用しており、過去にもいくつかの機能アップがあった。「おまかせ録画予約」の将来的なサポートを期待したいところだ。
また、テレビチューナーが地上波のみというのも少々物足りない。BSチューナー、あるいはBSデジタルチューナー内蔵モデルの登場も待たれる。
デフォルトの予約設定を変更する場合は予約詳細画面で細かな予約情報の変更を行える。繰り返し録画の設定もここで行える
番組情報の中には、かなり詳しい説明も入っている。番組情報表示画面で[コラム]ボタンをクリックすると、番組内容に関する細かな説明を見ることも可能だ
録画映像の一覧。EPGから映像の名前が自動的に付与される。「番組名なし」となっているのは、EPG受信前に録画したもの
消化不良の部分もある音楽サーバ機能
さて、そのアップグレード機能を用いて7月に強化されたのが、NetTune対応の音楽サーバ機能である。このアップデートはAX20だけでなく「AX10」にも提供されている。
NetTuneの詳細は、オンキヨーのインタビュー記事を参照していただきたいが、AX20のアップデートでは
- NetTuneサーバ機能
- 保存された音楽データの再生機能
- NetTune対応のWindows用アップロード/再生ソフト「Network Audio Satellite」
の3つの機能が提供されている。なお、今回、NetTuneに対応したオーディオ機器を用意できなかったため、NetTuneサーバ機能は「Network Audio Satellite」でしか利用していない。
NetTuneサーバ機能はAX20本体の設定で、内蔵HDDの一部を音楽用に割り当てることで機能するようになる。振り分けをどのようにするかは、1Gバイト単位で任意の値を設定可能だ。
AX20に音楽ファイルをアップロードする場合は、AX20がオンになっているか、“SERVERモード”になっている必要がある。Network Audio Satelliteを起動し、アップロードボタンを押して音楽ファイル(MP3、WMA、WAVのいずれか)を指定する。アップロードファイルの分類をフォルダ分類で行うことはできず、IDタグを用いた自動分類、あるいはアップロード後にAX20内のメニューからジャンル指定などを行わなければならない。
メニュー画面。録画映像の一覧や番組表、予約一覧などはリモコンにショートカットが割り当てられているため、メニューから操作する必要はない。ただし音楽モードへの切り替えはショートカットキーがないため、メニューから操作しなければならない
ハードディスク使用状況は、わかりやすくグラフで表示される。予約済みの容量も示される
音楽サーバ機能を利用する場合は、デフォルトでは0Gバイトになっている音楽領域を増やしておく
このため、楽曲情報が埋め込まれていないMP3、WMAや、そもそもそうしたタグ情報がないWAVの場合は、アップロード後に一手間が必要となる。またアップロード時は複数ファイルを設定することが可能なものの、フォルダ単位での指定が不可能なため、音楽データを複数のフォルダに分けて管理している場合は、フォルダごとにアップロード作業を繰り返す必要がある。
また、ジャンルによる分類は、あらかじめプリセットされている日本語によるジャンル名にしか対応していない。たとえば、Windows Media Playerを用いて洋盤のCDを録音すると、ジャンル名には「Pops」「Jazz」など、英字によるジャンル名が自動セットされる。これをそれぞれ「ポップス」「ジャズ」と読み替えてくれればいいのだが、AX20に登録すると、これがすべて「その他」に分類されてしまうため、ここでも一手間必要となる。
音楽モード時のメニュー。アルバム別、アーティスト別、ジャンル別に自動分類されるほか、プレイリストを作成することも可能
アルバム別の音楽データ一覧。ジャンル名が「その他」になっているが、オリジナルのデータにはJazzが付与されていた。未知のジャンル名はすべて「その他」になってしまうようだ
アーティスト別の一覧表示例
音楽サーバの動作状況を示す画面。ハードディスクの使用状況に加え、音楽配信先のIPアドレスが表示される
再生中画面。ビデオやテレビを背景で表示させながら音楽を再生させることもできる
映像を扱うためのソフトウェアが非常に良いデキなだけに、Network Audio Satelliteの機能の低さが目立つ。だが、NECのPCにプリインストールされているジャストシステムの音楽管理ソフト「BeatJam」と連携するようになっており、BeatJamで作成したアルバムライブラリから一括で転送することも可能だ。その場合はタグ情報などの問題も生じない。
ただ、その場合も含め、音楽データをアップロードする際、PCのHDD上からはデータが消去されてしまうという問題もある。著作物を扱う上での作法として、このような対応が取られているものと思うが、ユーザー側の視点で見ると使いにくい部分。別途、コピーを作成しておけばいいだけとはいえ、著作権保護の機能とはなっておらず、単に面倒なだけ。少々余分な機能ではないだろうか。
さて、再生側の機能についても触れておこう。まず、Network Audio Satellite、AX20ともMP3とWAVしか再生できない。WMAに関しては、別のWMA対応NetTuneプレーヤ向けにアップロードできるだけで、AXシリーズのパッケージのみでは再生が行えないことになる。またAXシリーズ上での再生は、本体を音楽モードに切り替えなければならない。録画機能と排他ではなく、バックグラウンドでビデオ録画/再生は行えるものの、リモコン上には音楽プレーヤーを直接呼び出すキーも用意されていないため、少々操作は煩雑だ。
PCユーザーのためのビデオレコーダー
AX20は「NEC」という(AVではない)ブランドから想像するよりも、ずっときちんと作られたハードディスクビデオレコーダーである。NECはかつて、SmartVision HDの発売、直後に製造中止といった苦い経験をしているが、その経験がきちんと活かされ、単体のビデオレコーダーとしても使いやすく、なおかつPCと組み合わせることでよりその能力を引き出せる、独自の世界を構築することに成功した。
音楽サーバ/プレーヤー機能は、後から付け足したものだけに、こなれていない印象だが、ビデオレコーダーとしての部分のみでも十分に価格なりの価値を提供してくれる。ただし画質に関しては一言だけ付け加えさせて頂きたい。
本機に搭載されているテレビチューナーは、おそらく「SmartVision HG/V」に搭載されているものとほぼ同様の構成だと思われる。デジタルタイムベースコレクタ、ゴーストリデューサー、3次元Y/C分離回路などの機能を内蔵し、記録できる映像そのものは、多少輪郭が甘い傾向はあるものの、なかなか美しい。録画された映像をPCを用いてDVD化し、DVDプレーヤーで再生させると、その高画質を確認できる。
しかし映像出力部分の設定だろうが、コンポジットビデオ、Sビデオ、いずれの出力も全体的に暗く、ガンマカーブもほかのNTSC機器よりも暗め。その結果、全体的に暗くシャドウの潰れた絵になっている。テレビ側の調整機能で補正することもある程度は可能だが、シャドウの潰れは補正が効きにくい。できればAX20側に出力映像の画質設定機能が欲しいところだ。
またハードディスクビデオレコーダーで気になる動作音だが、動作時の音は比較的静かな方だろう。ハードディスクの回転音、シーク音はかなり静かだ。ただし冷却ファンの音は多少気になるかもしれない。広めのリビングなら気にならないが、ワンルームマンションで常に起動したままにしておくと、うるさく感じるだろう。なお、冷却ファンはSERVERモード時でも停止しない。このあたりのパワーマネジメントにも課題は残る。
少々厳しい指摘かもしれないが、逆にいえば、そうした細かな点が気になるほど、基本部分の作り方はしっかりしている。地上波のみのチューナーと合わせ、考慮しなければならないポイントは多いが、それをクリアするなら、PCユーザーにとって最適のハードディスクビデオレコーダーといえるだろう。
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[本田雅一,ITmedia]