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» 2018年10月30日 08時30分 公開

『Dr.スランプ』で「マシリト」と呼ばれた男・鳥嶋和彦の仕事哲学【後編】:「最近の若い奴は」と言う管理職は仕事をしていない――『ジャンプ』伝説の編集長が考える組織論 (5/5)

[今野大一,ITmedia]
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社長退任後の展望

――社長退任後はどのような人生の展望を持っていらっしゃいますか。

 先のことは分かりませんが、できれば才能がある人を世に出すことに関わりたいと思っています。漫画の世界には限りません。悩んでいる人はたくさんいます。ただ、その人の話を聞いたり、少し視点を変えたりするだけで、物事の見方は全く変わりますよね。そういうことに、これまで培ってきたことを生かし、役に立ちたいと思っています。

 知識と経験はありますが、感覚の部分はかなり衰えたと思います。自分でも自覚はしていますが(笑)。

――以前、いじめられて不登校になっていた小学生が、『ドラゴンボール』を読んで勇気をもらい、学校の校門をくぐれるようになったという逸話を聞いたことがあり、強く感銘を受けました。漫画編集を通して、多くの子どもたちと関わってこられた鳥嶋さんには、ぜひ教育的なことにも携わっていただきたいと勝手に思っているのですが、いかがですか。

 う〜〜ん。難しい問題だな。例えば、いじめや児童虐待といった問題がありますが、私はこれらの問題は決してなくならないと思っています。人間以外の動物が他者を攻撃するのは、「自分の存在を守るとき」だけです。自分の存在を守るとき以外に、誰かをいじめるのは人間だけなのです。なぜでしょう。私は、人間に知能があるからだと思います。だから厄介なのです。

 知能があるからこそ人間は物事を発明して進化してきました。ですが、発明によって得られることは、決して良いことばかりではありません。「ノーベル賞」のアルフレッド・ノーベルがダイナマイトを発明したことによって、岩を砕いたり新しいダムなどを作ったりすることができるようになりました。一方、ダイナマイトを戦争に使用すれば人を殺すこともできます。このように、物事には必ず二面性、表と裏の両面があるのです。

――知能があるからこそ、いじめが起こるというのは皮肉ですね。

 子どもは学校の人間関係の中で同じメンバーに固定されるので、大人と比べて圧倒的に不自由なのです。学校ではなく会社であれば、いじめがあっても、転職することができますね。気晴らしに旅行に行くこともできますし、お酒も飲める。でも子どもは資本力がないから常に「逃げ場がない」のです。家に帰れば親がいて、不登校になれば「学校に行け」といいます。学校に行けば先生がいて、生活ぶりが悪いと「お前はなんだ」といいます。クラブ活動では口うるさい顧問がいます。

 大人たちは自分が子どもだったとき、何に悩んでいたかを知っているはずですが、いつしか忘れてしまうのです。先ほど申し上げた企画を立てるときの発想法と一緒です。でも、考えることから逃げるので、「自分には無関係」と思ってしまう。難しい問題です。

――なるほど。大人が子どもだったころの自分の悩みを忘れてしまうように、マネジャーもかつて自分が何に悩んでいたのかを、忘れてしまうのかもしれないですね。しかし、部下の悩みを「自分とは関係ない」と思ってしまっては、マネジメントはできないように思われます。

 さきほども言いましたが、部下に関心を持ち、育てることが上司の仕事なのです。それといろいろな個性を生かせるようにチームを編成することも大切だと考えています。社員を1つの色に染める必要はないのだから。

 そのチームがいろいろな個性を生かせるようになっているか。一人一人の個性を許容できるようになっているのか――。会社をマネジメントするには、このことを常に考えている必要があると考えています。(終わり)

phot

【前編】(こちらから)では、集英社に入社するまで漫画をほとんど読んだことがなく、『ジャンプ』が嫌いだった新入社員時代に、鳥嶋さんがいかにして読者アンケートで1位を取ったのか、その方法論を聞いています。

【中編】(こちらから)では、鳥嶋さんが『ドラゴンボール』の作者である鳥山明さんと出会った経緯や、『ドラゴンボール』の人気が低迷した際に、いかにしてその困難を乗り越えたのかについてお届けしています。

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