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余命1年を宣告され単身渡米 がんを乗り越え「2度の世界女王」に輝いたバックギャモン選手「泣いてる時間を努力に変えよう」(4/5 ページ)

» 2019年01月28日 07時30分 公開
[今野大一ITmedia]

「ラストチャンスかもしれない」

 がんの治療中だった世界大会を、矢澤さんはこう振り返る。

 「体の痛みより、何もできない心の痛みの方が辛かったし、治療をしても助からない可能性がありましたから、その年がラストチャンスかもしれないと思いました。決勝戦では追い込まれ、自分の病気と試合の状況が重なったような気がしました。だから勝った瞬間はこれまで苦しかった思いが報われたような気がしたのです」

 そして闘病の中で学んだことも教えてくれた。

 「病気になってあらためて思いましたが、たくさんお金を残してもあまり意味がないと気付きました。派手な生活がしたいと思ったこともありません。家族のためといっても、夫も働いていますし、私には子どもはいません。将来生むこともできません。老後が本当にあるかどうかも分からない。だったら自分のやりたいことをするのが一番です。現在の自分に投資することが将来につながると思っています」

 確かに、若いときに旅行に行った記憶が将来によい影響を与えることもある。振り返れば、矢澤さんは大学時代に偶然赴いたエジプトの地で、バックギャモンと出会った。そして高額なソフトを買い、実力を付けたことによって東大の研究会に誘われることにもなり、後の世界制覇にもつながった。つまり過去の選択が全て現在の栄光につながっているのだ。

 サイコロの目がたとえ悪い結果をもたらしたとしても、矢澤さんは常に自分の最善の手を考え続け、人生を選択してきたのだ。矢澤さんは言う。「努力しても報われないことはたくさんありますが、自分の選択で最善の道を選ぶことができるのです」。

phot 2018年8月、モナコの世界選手権で2度目の優勝を成し遂げた
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