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» 2019年11月25日 19時28分 公開

【環球異見】デジタル通貨の行方

 紙幣や硬貨でないお金「デジタル通貨」の議論が活発だ。米ITの巨人フェイスブックは、米ドルなどの法定通貨に裏打ちされたデジタル通貨「リブラ」の構想を発表。リブラは国家主権の中核である通貨発行権を脅かしかねないと、主要国は強い懸念を示した。その間隙を突くように、中国は「デジタル人民元」発行の準備を加速させている。米中両国の対決構図も絡み、デジタル通貨の行方から目を離せない。

[産経新聞]
産経新聞

 紙幣や硬貨でないお金「デジタル通貨」の議論が活発だ。米ITの巨人フェイスブックは、米ドルなどの法定通貨に裏打ちされたデジタル通貨「リブラ」の構想を発表。リブラは国家主権の中核である通貨発行権を脅かしかねないと、主要国は強い懸念を示した。その間隙を突くように、中国は「デジタル人民元」発行の準備を加速させている。米中両国の対決構図も絡み、デジタル通貨の行方から目を離せない。


米国 ザ・ヒル

「リブラ」は通貨発行権脅かす

 米フェイスブックが計画する「リブラ」に米政府や国民が疑念の目を向けている。同社は個人情報の流出問題を起こし、信頼を失墜させた。国家が独占する「通貨発行権」をリブラが脅かす懸念も指摘され、「中国に先を越される」として計画推進への支持を訴えるフェイスブックに同調する声は少ない。

 同社が6月に計画を発表したリブラは、多数のコンピューターで取引を監視するデジタル技術「ブロックチェーン」を使った暗号資産(仮想通貨)の一種だ。

 通貨は元来、国家だけが発行し、管理してきた。だが、インターネット上で管理者が監視する同技術により、国家の管理を必要としないデジタル通貨の発行・運用が可能になった。

 米ジョージワシントン大学の社会学者、アミタイ・エツィオーニ教授は、政治専門紙「ザ・ヒル」への寄稿(12日、電子版)で「リブラは犯罪者たちにとって安全な(資金)逃避先にもなるだろう」と指摘。主権国家の管轄権が及ばないデジタル通貨は犯罪集団やテロ組織に利用されやすく、禁止すべきだと主張した。

 フェイスブックの交流サイトは利用者が23億人超。リブラは銀行口座を保有していなくてもスマートフォンで手軽に決済・送金できる。途上国を中心に利用が急増すれば、国家を超越した「グローバル通貨」となる可能性がある。中央銀行の金融政策が効果を発揮せず「国家が自国の経済を運営できない」(エツィオーニ氏)事態も想定される。

 米国中銀である連邦準備制度理事会(FRB)も15日の報告書で、リブラなどが「金融安定リスクとなり得る」と懸念を表明。米メディアは、FRBが問題点に「鋭く切り込んだ」と伝えた。

 これまでも「ビットコイン」などの仮想通貨が実用化されたが、膨大な利用者を持つフェイスブックがリブラを発行すれば影響は計り知れない。ただ、約8700万人分の個人情報流出が昨春、発覚した同社への不信は根深いままだ。

 そうした中、主要国はリブラに厳しい規制を課すと相次ぎ表明。先月下旬の議会証言で、同社のザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は「当局から認可を得られるまで発行しない」と述べ、来年前半に発行する計画の延期を認めた。

 一方、同氏は「中国が数カ月内に同様の事業に乗り出す」と強調し、米国が出遅れるべきではないと迫っている。ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、論評・分析サイト「プロジェクト・シンジケート」で、米ドルの覇権が中国のデジタル通貨に脅かされると示唆したザッカーバーグ氏は「行き過ぎだ」とした。ただ、中国が先行すれば「米国が使える政策手段は格段に少なくなる」と述べ、米国による不法資金の追跡や金融制裁の実施に悪影響が出る恐れを指摘している。(ワシントン 塩原永久)


中国 第一財経日報

国家管理で米ドルに挑戦

 リブラなどの暗号資産(仮想通貨)への懸念が欧米各国で強まるのを横目に、中国では「デジタル人民元」とも呼ばれるデジタル通貨の発行に向けた動きが活発になっている。

 中国経済紙の第一財経日報は10月29日付1面に、「ブロックチェーンが重要な突破口となり、中国中央銀行のデジタル通貨は先陣を切ることができるか」と題する記事を掲載。この中で、中国社会科学院金融政策研究センター主任の何海峰氏は「各国通貨の競争は(国際的な)ポジションだけではなく、将来の科学技術の先進性や信頼性によって決まる」との見方を示し、デジタル通貨の実用化を急ぐ必要性を訴えた。

 中国は、従来デジタル通貨に否定的とみられていた。「ビットコイン」などの仮想通貨を取り扱う交換所を閉鎖させるなど規制を強化していたためだが、2014年には中国人民銀行(中銀)がデジタル通貨の研究組織を立ち上げていた。スマートフォンのアプリを使った電子決済の急速な普及に加え、現金よりも管理しやすいことが背中を押していると指摘される。

 欧米ではデジタル通貨が通貨に関する国家主権を脅かすと懸念されているが、中国では中央銀行が発行主体となることで通貨と同じく集権的に管理するものとみられる。第一財経は「暗号資産の本来の性質は分散化にある」とした上で、人民銀のデジタル通貨は「中心化の管理モデルを堅持する」との見通しを示す。

 一方、デジタル通貨をめぐっては貿易戦争で対峙(たいじ)する米国の存在も指摘される。政府系シンクタンク、中国国際経済交流センターの黄奇帆副理事長は10月28日に行ったデジタル金融に関する講演で、現行の国際金融の仕組みを「米国が全世界で覇権を行使するための道具」と表現した。基軸通貨という強大な権限を持つドルへの警戒感が中国では強く、デジタル通貨をテコにドル一極体制を変化させる狙いもささやかれる。第一財経は「デジタル通貨は既に大局の赴くところとなっている」と分析し、各国間の競争が激化するとみている。(北京 三塚聖平)

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