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» 2020年07月16日 19時10分 公開

アニメ業界の「病巣」に迫る【前編】:アニメ版『ジョジョ』の総作画監督が語るアニメーター業界の「過酷な実態」 (3/4)

[伊藤誠之介,ITmedia]

人手不足の原因「3カ月で終了するアニメが多すぎる」

――アニメ業界は収入が低いとか、労働条件が厳しいという話は、昔からあったように思います。ただ、ここ最近はそうした声が急激に大きくなっていますが、それはなぜでしょうか?

 今までは会社とスタッフの間に、「良い作品を作りたい」という共通の認識があったと思うんです。だから「ここでケンカするよりは、作品さえ良くなるならガマンしよう」という心理が働いていたんだろうと。でも今は、そこが崩れていますよね。

――というと?

 作品の本数が多すぎて、個々の作品にそこまで感情移入できなくなっているんです。少なくとも私に関してはそうなりつつある。

 それから、人手が足りなくて1人にかかる比重が大きすぎるんです。だから「休みがないのでギャラを上げてくれ」という話にもなるし。一方ではそういうことを口約束で承諾しても、実際には払ってもらえない、みたいなことも増えているのかなと。

――今はアニメーターが足りていないのですか?

 全く足りていないと思います。でもそれはアニメーターだけではないですよ。美術【※】さんだって足りないし、いろんな部門で「人手が足りない」という話は聞きますね。

※美術:ここではアニメの背景となる背景美術を制作するセクションを指している

――人手が足りない最大の原因は、先ほど西位さんが言われたように、1シーズンに放映されるアニメの本数が多いからでしょうか?

 そうだと思います。ただ、作品の数自体もそうですけど、1つの作品の放映スパンがもう少し長ければ、まだもうちょっとマシだと思うんです。

――なるほど。今のTVアニメは半年、1年と続く作品が少なくて、1クール(3カ月)で終わる作品がほとんどですよね。1年続く作品でも、3カ月で終わる作品でも、最初に物語を考えたり、キャラクターデザインをしたりするのにかかる時間は、ほとんど変わらないわけですから。

 まだ形ができていない新規の作品にも、準備のプリプロ【※】期間で、大勢のスタッフが関わっているんです。今放映されているアニメの陰で、もっとたくさんのアニメが動いていると思ってもらえば、分かりやすいと思うんですけど。

 作品が1年続けば、プリプロの準備をしていたスタッフも、ローテーションで各話の制作に入ることができます。でも3カ月で終わる作品だと、準備が終わった段階で、そのスタッフには次の作品を準備する仕事が来ちゃうんです。そうすると各話のローテーションには入ることができなくなりますから。

 だから放映されるタイトルが多すぎるというよりは、1クールで終わる作品が多すぎるんですね。昔みたいに同じアニメを1年間続けてくれれば、もうちょっとみんなもこなれてくるし。

※プリプロ:プリプロダクションの略称。アニメや実写などの映像作品において、実制作に入る前に行う企画や脚本、美術デザインなどの準備作業段階を指している

――同じ作品を1年間続けることで、参加しているスタッフのスキルも上がっていくと? 

 もちろんそうです。

――それなのに現在は、3カ月で終わるアニメが多いのはなぜなんですか? 放映中に大ヒットすれば、ずっと続いていくものなんでしょうか?

 ヘタな鉄砲も数撃ちゃ当たるという考えなんじゃないですか。絶対にヒットすると確信できるようなレジェンド級の原作じゃないと、最初から1年間放送すると決めるのは難しいでしょうし。

 放映が始まって最初の数本で、ヒットするかどうかは分かるらしいんですよ。それでもしヒットしないと分かったものを、「予定通りだから」と1年続けていくのも難しいでしょうね。

phot Netflixで西位さんが手掛けた『聖闘士星矢: Knights of the Zodiac』は世界でも人気だ(同作のキャラクター「シオン」のコスプレをする人、写真提供:ロイター)

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