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» 2020年10月05日 09時40分 公開

『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』 写真家、アーティスト・高松聡 未来観や生き方に影響

 私は数年後に国際宇宙ステーションに滞在し、アーティストとして作品制作をすることを計画している。どうしてもこの目で地球を見て写真を撮りたいのだ。数年で、と急ぐ理由はいくつかあるが、あまり話したことがない理由がひとつある。

[産経新聞]
産経新聞

 私は数年後に国際宇宙ステーションに滞在し、アーティストとして作品制作をすることを計画している。どうしてもこの目で地球を見て写真を撮りたいのだ。数年で、と急ぐ理由はいくつかあるが、あまり話したことがない理由がひとつある。

photo 写真家、アーティストの高松聡さん

 私は現実体験と区別ができない仮想空間(VR)体験が生きている間に実現すると予測している。何百時間の厳しい訓練が不要、何十億円のコストも不要、事故のリスクもない宇宙飛行士体験が仮想空間で可能になると信じているのだ。視覚体験の仮想化から始まり五感すべての仮想体験化の研究と産業化が進むことに疑いの余地はない。未来の私は自宅から仮想空間の月に行き、火星に行くことだろう。私は基本的に怠惰なのだ。だからこそ、今のうちにロケットに揺さぶられて「本物の宇宙」に行き、この目で見て記憶に留(とど)めておきたいと強く思う。

 映画「マトリックス」のような仮想世界に無限の寿命で住むことや、「アバター」のような拡張現実で生きることが本当に可能なのか。長年の疑問に最終回答を与えてくれたのが本書である。

 著者、レイ・カーツワイルは天才発明家として多くの実績があるが、未来学者として極めて著名である。膨大なエビデンス(根拠)を収集し、テクノロジーの進化速度と加速度を「予測」している。決して「予言」の類いではない。入念に調べられた過去から現在までのテクノロジー進化速度の数値化とグラフによって一つ一つの予測は説明されており直感的に理解することができる。また近未来の技術的ブレイクスルーに必要な要素技術が既に存在し、研究開発中であることも示される。

photo ,「生物の限界を超え2045年、人類はついに特異点に到達する」−。米発明家による大胆な未来予測。

 つまりSF映画のような世界は遠い未来に実現するのかもしれない、ではなく確実に実現するのだ。しかもその達成時期も予測可能だという。私はエビデンスと論理構成がしっかりしていなければ簡単に同意しないタイプの人間だが、本書はその点で極めて優れており、大筋において否定することが困難であった。もちろん本書は仮想現実についてのみ書かれたものではない。人類がこれから直面するテクノロジーの指数関数的・爆発的加速について広範囲に書かれている。遺伝子工学、ナノ工学、ロボット工学がもたらす未来の可能性とリスク、コンピューターが人間の知能を超えること、人間がコンピューターと融合して新しい文明を築くであろうことが示される。本書はシンギュラリティ、つまり技術的特異点が生きている間に起きえることを私に突きつけた。私の未来観、そして現在の生き方にも多大な影響を与えた。出版(原書)から15年経過した今も新鮮さを失っていない。

 氏の予測では特異点は2045年。あと25年である。私は83歳になるがぜひとも特異点の先を見てみたい。それまでは「現実世界」のフロンティアをできるだけ体験しておきたいと切に願うのである。

                  ◇

【プロフィル】高松聡(たかまつ・さとし)

 昭和38年、栃木県生まれ。筑波大学基礎工学類卒業後、電通入社。世界で初めて宇宙ロケによるCMを制作。平成17年に独立。27年、日本の民間人初の国際宇宙ステーション搭乗資格を持つ宇宙飛行士となるべくロシアで訓練を終了。今年、東京で初の写真展を開催。(レイ・カーツワイル著、井上健監訳/NHK出版・3000円+税)

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