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» 2020年11月20日 17時10分 公開

パナソニックの誤算 脱家電の果て、やはり「本業」に活路

 「リングワンダリング」という言葉がある。吹雪や濃霧によって視界が悪い中で、自分では真っすぐ歩いているつもりなのに、いつの間にかぐるっと円を描くように元の場所に戻ってしまう現象をいう。山岳遭難の原因になる場合があるので、気をつけなければならない。(森一夫)

[SankeiBiz]
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 「リングワンダリング」という言葉がある。吹雪や濃霧によって視界が悪い中で、自分では真っすぐ歩いているつもりなのに、いつの間にかぐるっと円を描くように元の場所に戻ってしまう現象をいう。山岳遭難の原因になる場合があるので、気をつけなければならない。(森一夫)

photo 「パナソニック」のロゴ

 パナソニックを見ていて、この言葉を思いだした。来年6月に楠見雄規常務執行役員(55)に社長を譲り、会長になる津賀一宏氏(64)が社長に就任したのは2012年6月である。その13年3月期の連結売上高は7兆3030億円だった。

 20年3月期は7兆4906億円で、ほとんど成長していない。21年3月期は新型コロナウイルスの影響もあって、6兆5000億円にへこむ見通しだ。一時は創業100周年になる「18年度に連結売上高10兆円」を目指すと発表したが、目算が狂い取り下げている。

 前任の大坪文雄社長も「10兆円」の目標に挑んだが、達成できなかった。同じところをぐるぐる回っている印象を否めない。事業戦略に大きな誤算があったからだろう。

 21年3月期の第2四半期の決算で、利益面で健闘しているのは冷蔵庫、洗濯機などのいわゆる白物に代表される家電である。創業以来の家電が主役に返り咲いたかのような感がある。津賀社長は、大胆なリストラによって大赤字から脱却。消費者向けのB2Cから事業者向けのB2Bに事業の軸足を移すことで成長を図った。

 自動車産業や住宅関係に大きなビジネスチャンスを見込んで、例えば米国の電気自動車メーカー、テスラと組んで車載電池事業に大投資を行った。しかしこうした目玉事業がことごとくうまくいかず、業績低迷を招いたわけである。

 創業者の松下幸之助は家電王国を築いた。同社は電機業界のトップに立ち、1980年頃まで日本を代表する超優良企業として君臨した。その絶頂期に、半導体によるエレクトロニクス革命が始まる。これに危機感を覚えた当時の山下俊彦社長は84年に「総合家電メーカーから総合エレクトロニクスメーカーへの脱皮」を図る事業方針を打ち出した。

 以来、脱家電が同社の基本路線になり、津賀社長のB2B戦略もこの路線に沿う。筆者も当然の流れとみていたので結果論になるが、同社は家電の将来性を見切るのが早すぎたと思う。グローバルに見れば家電は依然、成長産業だ。中国、韓国のメーカーが台頭し、国内でもアイリスオーヤマのような企業が参入してきた。家電そのものもロボット化、ネットワーク化で大きく変わりつつある。

 松下電器産業からパナソニックに社名を変え、津賀社長は「何の会社か」自問自答を続けてきた。「くらしアップデート業」と答えを出したものの、しっくりこない。結局、家電が堅実に稼いでいる現状に照らして、「家電のパナソニック」に戻ってきたように見える。

 同社は22年4月に持ち株会社制に移行する。事業の売買がしやすくなる。楠見雄規次期社長は、強みを持てない事業は「冷徹かつ迅速に判断して、ポートフォリオから外す」と明言した。この事業再編は最後のチャンスになるだろう。それを生かすには自社の立ち位置を正確に認識する必要がある。

【プロフィル】森一夫 もり・かずお ジャーナリスト。早大卒。1972年日本経済新聞社入社。産業部編集委員、論説副主幹、特別編集委員などを経て2013年退職。著書は『日本の経営』(日本経済新聞社)、『中村邦夫「幸之助神話」を壊した男』(同)など。


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