新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動への悪影響が懸念される中で、日米の株式市場が歴史的な高値に沸いている。経済減速の中での株高を演出しているのは日本銀行や米連邦準備制度理事会(FRB)による未曽有の金融緩和で生じた「過剰流動性」だ。中央銀行が市場に流し込む資金が経済活動ではなく、株式市場に向かう状況は当面続きそうだが、実体経済と株価の間に隔たりが生じているのは明らかで、急落のリスクもはらんでいる。
29年半ぶりに2万6000円台で取引を終えた日経平均株価を示すボード=11月17日午後、東京・八重洲(酒巻俊介撮影)
ダウ工業株30種平均は11月24日、節目の3万ドルを突破し、史上最高値をつけた。ダウ平均は約4年前のトランプ米大統領の就任直後に2万ドルを超えており、トランプ氏は2つの大台突破を経験した初めての大統領となった。
日経平均株価も今月に入り、29年7カ月ぶりの高値をつけ、バブル経済崩壊後の最高値を更新し続けている。日米ともに3月につけた今年の最安値から5〜6割跳ね上がった計算だ。
一方、多くの企業はいまだにコロナ禍の打撃から立ち直れていない。SMBC日興証券によると、東京証券取引所1部に上場する企業の令和2年9月中間決算は、最終利益が前年同期から約4割落ち込んだ。さらに感染拡大の第3波を封じ込めるための取り組みは、経済活動を萎縮させることが避けられない。
国際通貨基金(IMF)によると、2020年の世界全体の実質国内総生産(GDP)は4.4%減となる見込み。リーマン・ショック後の09年(0.1%減)以来のマイナス成長だ。
こうした経済停滞の中での株高というチグハグな現象の背景にあるのが過剰流動性だ。過剰流動性とは市場にある資金(流動性)の量が正常な経済活動に必要な水準を大きく上回る状態が継続すること。市場にあふれかえった資金が株式市場に向かい、株価を押し上げると説明される。
今回、市場にある資金の量が増えたのはコロナ禍が世界的に拡大し始めた3月以降、主要中央銀行が協調して大規模な金融緩和に取り組んできたからだ。
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