アニメやマンガ、ドラマの舞台を旅する「聖地巡礼」。今や地方創生の一つとして定着している。ただ、実際にコンテンツの舞台として誘致することは現実的ではなく、地方自治体側としては、運良く自分たちの住んでいる場所が作品の舞台となるのを待つしかない実情もある。
そんな中、自ら元となるコンテンツを制作し、アニメ化となる原案を作る――そんな地方創生戦略のもとに動いていた作品がある。漫画『やくならマグカップも』(以下、『やくも』)だ。
『やくも』は陶芸に打ち込む女子高生を描いた作品で、「美濃焼」で知られる岐阜県多治見市を舞台にしている。2010年に同市で始まったプロジェクトで、フリーペーパーで漫画を連載しているほか、インターネット上でも無料公開した。さらに4月2日にテレビアニメも放送され、多治見市でも多様なコラボイベントの展開を予定している。まさに、『やくも』は地域住民がコンテンツを制作し、見事アニメ化を成し遂げた希有な例といえる。
その仕掛け人が、岐阜県多治見市に本社を置くIT企業「プラネット」の小池和人会長だ。同社の本業は歯科用システムなどを手掛けている一方、今回小池さんは漫画『やくも』を企画し、地方創生ビジネスもプロデュースした。
小池さんによると、その背景には東京ディズニーランドの生みの親である故・堀貞一郎さんとの切っても切り離せない関係があるという。東京ディズニーランドと『やくも』はどうつながっているのか。なぜ、コンテンツで地方創生を志そうと思ったのか。小池さんが師事した堀貞一郎さんとの逸話や、『やくも』の誕生秘話を取材で明かした。前後編でお届けする。
――『やくも』は小池さんの地元・多治見市を舞台にした作品で、アニメの「聖地」とするために多くの戦略を展開してきました。なぜそもそも物語を使った地方創生ビジネスを手掛けようと考えたのでしょうか。
私のいる岐阜県多治見市は、「美濃焼」という陶器をはじめ、生産業で栄えた町です。だからある意味では、観光で街を盛り上げようとする取り組みはあまりされてこなかったんです。ところが、近年の流れとして、生産業の拠点が中国などアジアに移っていってしまった。そうなると、どんどん産業がなくなっていくわけですね。体感としては、生産業を手掛ける企業の8、9割が潰れてしまった感覚があります。その中でも生き残った企業は、大量生産ではない、一つ一つ入念な手作りにこだわっている陶芸店ぐらいの状態でした。
そんな中、別の地域を盛り上げるビジネスを模索してきたんです。
――地場産業の衰退が、観光で地域振興をするきっかけだったのですね。
そういうことです。生産業以外を見ると、多治見市には国宝に指定された建物が境内に2つもある「永保寺」など、観光資源が意外とあります。また、27年にはリニア中央新幹線の駅が中津川市にできる予定もあり、観光客は今後増えると思っています。こうした社会の状況を鑑みて、観光を中心に多治見市から活性化をしたいと前々から思っていました。
――なぜ観光に着目したのでしょうか。
実は、東京ディズニーランドを1983年に開業するにあたって、総合プロデューサーとして誘致にご尽力された堀貞一郎という方がいました。2014年に85歳で亡くなられたんですが、私は2001年から亡くなられるまで堀先生に弟子入りしていたのです。
――東京ディズニーランドの生みの親に学ばれていたわけですね。
堀先生は東京ディズニーランドができた時から名前を存じ上げていたのですが、当時からすごい人がいるなぁと思っていました。もともと電通にいた方で、総合プロデューサーを務める前にも、テレビ放送が始まった黎明期に「シャボン玉ホリデー」(日本テレビ・1961年)など名番組のプロデューサーを務めていたり、1964年の東京オリンピックや70年の大阪万博でも多くの企画を手掛けられ、数々の賞も受賞していました。
東京ディズニーランドでは、誘致活動だけでなく街全体のプロデュースも手掛けられていました。当時私は20代で、前の会社ではスポーツジムを経営していたのですが、ジムを作ったのはいいけれど、どうやって人を集めたらいいのか悩んでいました。その時、堀先生が書いた『人を集める』(TBSブリタニカ・1987年)という本に出会い、感銘を受けるとともに実務においても生かすことができ本当に助けられました。
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