フジテレビの女子アナ“ステマ”疑惑が突き付ける「※ツイートは個人の見解です。」のウソ会社と“個人SNS”の関係(2/6 ページ)

» 2021年06月12日 11時59分 公開
[霜田明寛ITmedia]

宣伝や採用 企業が個人の影響力を頼りにしている部分も

 だが――彼女たちにも同情の余地がないわけではない。

 この数年、SNSで多くのフォロワー数を抱えるいわゆる『インフルエンサー』が、企業からお金をもらい、宣伝を投稿する形の“PR案件”が多く見られるようになっている。投稿が宣伝であることを明示すればそれらはステマにあたらず、インフルエンサーは案件によっては数十万から数百万円の報酬を受け取ることができる。

 それだけ、企業側は個人の影響力に力を感じ、お金を払ってでも乗っかろうとしているのだ。フォロワー数の多さで見れば、フジテレビの女性アナウンサーは、インフルエンサーよりよっぽど“インフルエンサー”である。

 今回、彼女たちが受け取った報酬はゼロとされている。あくまでも既存のサービスを無料にしてもらうサービスを受けてはいるものの、純粋な利益を得ているわけではないのだ。

 ステマ疑惑で名前があがった8人のうち5人は27歳以下であり、中にはミス・キャンパスコンテスト出身者もいる。世代的にも、また自分たちのいた環境をとってみても、自分たちのように多くフォロワーを抱える“インフルエンサー”の投稿が、大きな金銭的な価値を生むことは肌感覚で分かっていたはずだ。写真を掲載していた美容室の料金は、文春の報道によれば2万円~3万円程度である。彼女たちにとってみれば、自分たちの写真や名前を店の宣伝に使われることは、「得をした」どころか「損をした」と感じていても不思議ではない。

 正式に契約を交わすのであれば断るであろう自らには損な話も、サービスを受けた後に「載せていい?」と言われたら無碍(むげ)にできない事情もあるだろう(ちなみにここ数年のミス・キャンパスコンテストでは、ミス候補者たちが企業のPR投稿をすると●万円といったプランが存在している。また、運営する広告研究会が、企業から受け取った報酬を“中抜き”し、候補者には一銭も支払わないことがあるなど問題もはらんでいる)。

 また、他社だけではなく、所属先の企業が個人の影響力を頼りにしている部分もある。近年では番組のキャスティングをする際に、フォロワー数を基準にする場合も多いという。ネット上で影響力の大きい出演者が番組の告知をしてくれれば、それはネットとテレビの架け橋になる。大きく言えば、「テレビ離れ」といわれている若者たちが、テレビをつけるきっかけになる役割を期待されているといっていいだろう。

 アナウンサーは局にとっては、いくらでも宣伝してもらえる自前のインフルエンサーでもある。宣伝してくれるのは、番組の告知だけではない。最近では、企業の採用にSNSを使用するのは当たり前だ。「●●アナウンサーがインスタライブに登場!」といった正式な採用コンテンツまであり、コロナで開きづらくなったリアルでの企業説明会の代替の役割を果たしてもいる。

 宣伝や採用の現場で活用している背景にあるのは、企業が「●●さんのインスタに載っていたから」という影響力の大きさに気付き始めていることだ。そうなると、当のアナウンサーとしては普段は局の宣伝に自分のアカウントを使って“奉仕”しているのに、少しでも得をした瞬間に怒られる……と愚痴の1つでも言いたくなるだろう。

最近では「●●アナウンサーがインスタライブに登場!」といった正式な採用コンテンツまであり、コロナで開きづらくなったリアルでの企業説明会の代替の役割を果たしてもいる

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.