「ウチの部にとって一丁目一番地だから全員野球でえいやと片付けよう」
近ごろ、こんな「おっさんビジネス用語」がSNSで話題になっている。「全く意味が分からない」「知っているけど使わないよ」という感じで、世代間ギャップをネタに盛り上がっているのだ。
これが注目される背景には、若者たちの間で近年続いている「昭和レトロブーム」がある。「写ルンです」がエモい、レトロ喫茶店が映える、という流れと同じで、昭和・平成の企業戦士たちが使っていた意味不明なもの言いが、目新しくて面白がられているというワケだ。
そう聞くと、「日本は平和だなあ」とホッコリする人も多いかもしれないが、実はこの現象、日本経済にとってはあまり喜ばしいことではない。若者が「過去」に関心を抱き、面白がってしまうのは、「未来」に明るい希望を抱けないから、という可能性があるからだ。
「社会学の巨人」と呼ばれるジグムント・バウマンは、『退行の時代を生きる 人びとはなぜレトロトピアに魅せられるのか』(青土社)の中で、今の世界では「現在」に強い不安や不満を感じるがゆえに、「未来」に希望を持てず、輝いて見える「過去」へと現実逃避する風潮があると指摘。レトロ(懐古趣味)とユートピア(理想郷)を組み合わせた「レトロトピア」と呼んで警鐘を鳴らしている。この典型的なケースが、米トランプ大統領が掲げた「アメリカをもう一度偉大な国に」というスローガンだ。
つまり、日本において、「おっさんビジネス用語」をここまで面白がる風潮は、日本企業で働いている若いビジネスパーソンたちが「どうせウチの会社、この先もなんも変わらなそうだし」と閉塞感に包まれて、「今のおっさんたちが若かった時代のほうがなんでもアリで面白そうだよな」と現実逃避をしていることが原因かもしれないのだ。
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