生成AIを活用することで企業が得られるメリットは、業務の効率化だけではない。これまで人にしかできないと考えられてきた新たなアイデアの創出やリスクマネジメントを含めたフィードバックの提供にも期待できる。まさにビジネスモデルを根底から変革する可能性を持った技術だ。
しかし、企業の現状はどうか。多くの企業は文書の要約や議事録作成といった限定的な使い方にとどまっており、活用基盤を用意しても従業員による利用にはばらつきが見られる。全社での生成AI活用を実現して業務効率化の一歩先へ進むにはどうすればよいのか。「小手先の活用」から抜け出すタイミングに差し掛かっている。
生成AIの活用が進まない企業をサポートするために、さまざまなベンダーが製品やサービスを開発している。その中でもユニークなソリューションを提供しているのが博報堂テクノロジーズだ。同社は複数の“専門家AI”がアイデア創出を支援する「Nomatica(ノーマティカ)」を2024年9月にリリースした。
Nomaticaのプロダクト開発責任者である畠山卓也氏は、「2023年秋ごろの調査では、実は米国などよりも日本の方が生成AI活用に対する意欲が高い傾向にありました。しかし2024年現在、肝心の活用状況については米国の方が進んでいるとの調査結果が多数出ています」と語る。日本企業は生成AIを使う意欲はあるものの、実際の活用実績では米国企業に遅れているという。なぜだろうか。
「日本企業の場合、従業員がよく理解していない状態で生成AIを使える環境だけが導入されがちです。業務に合わせた具体的な利用方法がないため、文書の要約など基礎的な使い方に終始しています。一方の米国では、事業部単位でユースケースの確立を優先しています。社内業務だけでなく顧客向けのサービスにも生成AIを活用し、事業や企業価値の向上に焦点を当てています。日本もこの方向性を目指すべきでしょう」
生成AIを活用することで広がる可能性は、業務効率化にとどまらない。生成AIを使うことで、人手不足の解消や生産性の向上も期待できる。
「従来は人にしかできないと思われていた経験値から生まれるアウトプットも、簡単なものであればすでに生成AIが代替できます。将来的に、生成AIは人の『第2の脳』となるはずです」(畠山氏)
データサイエンティストとしてNomaticaの開発に携わる田中孝明氏は、生成AIを全社で活用して企業成長のエンジンにするためには、「使いこなせる一部の人」と「使いこなせない大半の人」の差を埋めることが必要だと感じている。
「ChatGPTなどの生成AIはチャット形式のインタフェースを持ち、文書や画像などのコンテンツ生成において基本的には何でもできます。しかし、何でもできるがゆえに使い方は難しく、社内で使いこなせている人は一部だけという例も多くあります。大半の人はどのように使えばいいのか分からない状態のまま、活用に至らずに終わってしまいます。この差を埋めるために、技術的に盛り上がりを見せている『マルチエージェント』を活用したソリューションを開発しました。それがNomaticaです」
Nomaticaは、専門知識や人格を持ったAIのペルソナを複数生成し、そのペルソナ同士が自社データなども活用し自律的に議論する「マルチエージェントブレストAI」と呼ばれるサービスだ。読み込ませたデータ(企画書など)に対するフィードバックやアイデア出しなどを行う仮想の“専門家”をAIで作り出し、いつでも相談や作業を依頼できる。
Nomaticaは、2023年12月に博報堂グループの社内向けに開発をスタートした。2024年3月に社内業務で利用を開始してプレスリリースを出したところ、多くの企業から「自社でも使いたい」という反響を受けた。6社とのトライアルを経て2024年9月に正規版のサービス提供を開始し、すでに多くのユースケースが生まれている。
「商品開発やマーケティング施策の発案、中期経営企画の作成といった知的労働を支援します。仮想の専門家AIを呼び出し、AI同士、または人とAIで多角的な議論が可能です」(畠山氏)
共通機能としてマーケター、クリエイティブディレクターやコンサルタントなど専門家のAIペルソナが用意されている他、自社のニーズに沿った専用の専門家AIも生成できる。
「専用の専門家AIを作成する場合、統計資料や売上データ、企画書や議事録、自社所有の研究論文や担当者のインタビュー記事などをHTMLやWord、Excel、PPT、PDF形式でご用意いただきます。これらのデータはRAG※などの技術で取り扱いやすいような構造化がされていないことも多いため、そうした場合は期待する専門家の人物像に近づくようにわれわれがチューニングします」(田中氏)
※RAG(Retrieval-Augmented Generation):検索拡張生成。外部情報の検索を組み合わせることで出力結果の最新化や根拠が明確になり、事実に基づかない情報を生成する現象(ハルシネーション)を抑制する効果などが期待される。
生成AIやマルチエージェントの最新技術を迅速に実装するため、頻繁にアップデートしている点もNomaticaの魅力だ。「海外で発表された論文の内容は常にチェックし、技術をNomaticaに取り入れています。ソリューションに適している技術だと判断した場合はそのまま提供し、そうでない場合は改修する――このサイクルを常に回すことで質の高い機能を維持しています」(田中氏)
Nomaticaには「相談モード」「アイデアモード」「レビューモード」がある。専門家AIに自由に相談したい、知見を得たい場合は相談モードを使用する。複数の専門家AIを集めて、人と一緒に一つのテーマを議論することも可能だ。この場合、司会進行もAIが担当する。「司会がテーマに応じて誰に話を振ったらよいか自動的に判断し、会話を進行することができます。参加している専門家AI全員に意見を出してもらったり、意見を批評してもらったりすることも可能です。アイデアになる前にざっくりした意見を求めたいときに適したモードです」(田中氏)
新しいビジネスを考えるなど、目的が明確な場合はアイデアモードを使用する。文章や画像を使ったPowerPointなどで多数のアイデアがアウトプットされる。レビューモードは、出てきたアイデアを目的に応じてレビューできる。社内に実在する決裁者のペルソナを専門家AIとして生成し、「稟議(りんぎ)が通るかどうか」を事前にチェックするという使用例もある。
NomaticaはSaaSとして提供されているため、短期間で利用を開始できることも特徴だ。博報堂テクノロジーズが用意した専門家AI(2024年10月現在で最大20種類ほど)を使う場合は、申し込みから1〜2週間ほどで利用を開始できる。自社専用の専門家AIを作る場合は自社データを提出してから2週間〜1カ月程度で利用できるようになるという。
「これだけの機能を持った生成AIサービスを自社で開発すると億単位の費用がかかるSI事業になります。AI技術は驚異的なスピードで進化し続けているため、完成した頃には新たな技術がスタンダードになっていることも十分考えられます。無理やり取り込もうとして、いびつなシステムになる可能性も否定できません。Nomaticaは、自社のシステムでは対応が難しい最先端のAI技術をいち早く手軽に利用できるサービスです。生成AI活用のハードルを大きく下げることができるはずです」(田中氏)
畠山氏は最後に、顧客と共に実施したNomaticaのワークショップを紹介する。ワークショップでは、ある商品開発をテーマに専門家AIと人がそれぞれアイデアを出し、参加者が自身で順位付けをした。専門家AIが出したもの、人が出したもの、双方を組み合わせてアレンジしたものを並べてレビューしたところ、参加者が優れていると評価したアイデアの多くは双方を組み合わせてアレンジしたものだったという。
「商品開発を例にすると、新奇性の高いアイデアを自分で生み出せなくても、アイデアのコアの部分をNomaticaに考えてもらい、そこに自社や自身の経験に基づいたプロモーション企画をエッセンスとして足す――といった活用方法も効果的です。企画書作成の効率化になるだけではなく、AIと人、どちらが欠けても生まれない新しいビジネスが誕生する可能性もあります。特に、商品のアイデアやプロモーションの検討についてはNomaticaを通して活用できる博報堂DYグループのナレッジが役立つはずです」(畠山氏)
博報堂テクノロジーズは、博報堂DYグループのDNA「生活者発想」を原点にプロダクト開発に取り組んでいる。ユーザー企業を含め、顧客を「生活者」と捉えてより良い体験を提供するため、ノウハウやナレッジを蓄積してきた。畠山氏は「Nomaticaには、われわれが持つノウハウやナレッジが『専門家AI』という形で存分に生かされています。この点は博報堂ブランドを信じていただければ」。そう話し、笑顔を見せる。
Nomaticaは、業務効率化や生産性向上はもちろん、「第2の脳」として人と共創して新しい価値を生み出す可能性を秘めている。博報堂テクノロジーズは、2024年11月20〜22日に幕張メッセで開催される「AI・人工知能EXPO」に出展してNomaticaのデモを行う予定だ。専門家AIと直接対話できるこの貴重な機会を、お見逃しなく(詳細は以下を参照)。
報道関係のお問い合わせ:博報堂テクノロジーズ広報窓口
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Nomaticaは、2024年11月20〜22日に幕張メッセで開催される「AI・人工知能EXPO」の博報堂テクノロジーズブースで実際に試すことができる。開催概要は以下の通り。ぜひ足を運んでみてほしい。
【日時】2024年11月20日(水)〜22日(金)
【場所】幕張メッセ(〒261-8550 千葉県千葉市美浜区中瀬2丁目1)
【参加】無料。登録はこちらから
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提供:株式会社博報堂テクノロジーズ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2024年12月6日