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スポーツカーサウンドと音楽のハーモニー    スポーツカーで音楽を聴く――これまでこの楽しみは、ある意味タブーと考えられていたかもしれない。エンジン音やエキゾーストノートといったサウンドをリアルに感じながらドライビングするのは、スポーツカーの醍醐味でもあるからだ。しかしBOSEは、スポーツカーサウンドと音楽との美しいハーモニーを提案してくれた。


Impression:ポルシェ × BOSE

東京・恵比寿のとあるビルの駐車場で、その「怪物」は静かに時を待っていた。試乗に用意されたのは「ポルシェ 911カレラ4S」。夏の空に負けないぐらいのコバルトブルーメタリックをまとった流麗なボディがまぶしい。最高出力355馬力(261kW)、0−100m加速タイム4.8秒、最高速度288km/h……。5速ティプトロニックS仕様のAT車であることに少しホッとする。

911カレラ4Sに搭載されたBose Sound Systemは、11基ものスピーカーをおごった「Bose サラウンド・サウンドシステム」。もちろん、車両の設計段階からポルシェとBOSEが共同開発した“911カレラ4シリーズ専用”のオーディオシステムだ。

スポーツカーらしい低い着座位置のシートに体を置き、ポルシェならではの“ボクサーエンジン”に火をいれると、伝統ある水平対向6気筒エンジンが心地よいサウンドを奏でる。エンスージアストなら、もうこの音だけでなにもいらない……となるのだろう。

インテリアに目を移すと、ポルシェ純正のシンプルなヘッドユニットがセンターコンソールに配されている。ここだけ見ると、このクルマが極上の音響空間を作り出すとは想像し難い。

お気に入りのCDを取り出し、スロットインにすべりこませる。試聴に選んだのは、Norah Jones「Come Away With Me」、Joe Sample「Feeling Good」、R.E.M.「Automatic for the People」。自分が普段、カーオーディオでよく聴く3枚をチョイスしてみた。

ポルシェ車内
ポルシェ車内

ボリュームを上げてみて「おやっ?」というのが第一印象。BOSEのほかのオーディオシステムでは、ボーカルがフロントガラス中央のちょい先あたりに定位するのだが、試乗した911カレラ4Sの場合は、それが運転席寄り、ステアリング上部のちょうど運転者の顔の前あたりに定位するのだ。駐車場で試聴しているとき、つまり停車時にはそれがやや違和感を覚えた。

だが、走り出してみてすぐに納得した。走行中の911カレラ4Sのタイトなキャビンでは、ドライバーの顔の前あたりに定位するその音像位置が実にすっとなじむのだ。おそらくハイウェイで高速巡航している時、さらにはアウトバーンで288km/hの最高速を挑んでいる時に、その音の一体感はさらに増すのであろう。車種ごとに最適なチューニングを施すBOSEの専用設計ならではの音響だ。試聴した「Come Away With Me」では、Norah Jonesの癒し系ボイスが、ステアリングの先、ちょうどドライビングアイポイントあたりから聴こえてくる。スポーツカーの運転を妨げず音楽に浸れるこの絶妙な音響セッティングに脱帽した。

心地よいサウンドに包まれる快感

911カレラ4S搭載のBose サラウンド・サウンドシステムには、通常の2chステレオCDの音源をマルチチャンネルサラウンド再生する「Centerpointシグナルプロセッシング」と、音楽とノイズを自動判別して音質を補正する「AUDIOPILOT」というBOSE独自技術が盛り込まれている。

Centerpointは、シグナルプロセッシング回路によってステレオ信号を分析し、独自の最適化アルゴリズムによって5.1chのサラウンド信号に変換、マルチスピーカーで再生する。個別のチャンネルと重低音を独自のアルゴリズムで組み合わせ、各シートポジションでバランスのとれたサラウンド再生を可能にする「SurroundStageシグナルプロセッシング」技術も搭載。これらはいわゆる擬似サラウンド技術だが、BOSE製の専用デジタルアンプに組み込まれたこの技術によって、立体感あるサラウンド音響をバランスよくリスナーに届けることができるのだ。

試聴したソースの中では、Joe Sample「Feeling Good」でその効果を存分に楽しむことができた。Centerpointをオンにすると、ジャジーなサウンドに包まれる極上の体験をポルシェというスポーツカーで得ることができる。ジャズだけでなくオーケストラなどさまざまな音の素材が入ったソースでは、断然Centerpointを効かせて聴いたほうがいい。R.E.M.「Automatic for the People」のようなオルタナティブサウンドでも、個人的にはCenterpointオンの方が心地よく聴くことができた。

走行ノイズに邪魔されないクリアな音響

ハイウェイなどスピードを上げて運転する時、カーオーディオの音量を上げてノイズに対処……というのはドライバーなら誰しも経験していることだろう。カーオーディオの中には、スピードに応じて音量調節する車速感応型ボリュームコントロールシステムというのもあるが、クルマのノイズは必ずしもスピードだけが原因ではない。低速でも窓やサンルーフを開けるとさまざまなノイズがキャビンに流れ込んでくる。またドシャ降りの雨天時や路面状態の違いなどでも、ノイズは連続的に変化して快適な音響を妨げるのだ。

 

別名で「走行ノイズ補償システム」と説明されるAUDIOPILOTは、エンジン音やロードノイズ、風切り音などといった走行中のさまざまなノイズが音楽へ与える影響を低減してくれる、スポーツカーにもってこいのテクノロジーだ。ステアリングコラム左に設置されたマイクロフォンが車室内の音響をモニターし、音楽成分とノイズ成分をリアルタイムに評価・分離。自動的、かつ連続的にリアルタイムで美しい音に調整する。

 

恵比寿の街並みを30〜40km/hで巡航するぐらいでは、AUDIOPILOTの効果は分からないかな……と内心不安だったが、オン/オフを何度か繰り返して走行してみると低速走行でもその違いははっきりとつかめた。特筆すべき点は、あの心地よいポルシェサウンドを残しつつノイズの影響を低減しているところだ。クルマを分かっている人が開発しているんだな、と感心しながら約1時間の試聴ドライブを終えた。

ポルシェ車内

ポルシェ

取材協力

ボーズ・オートモーティブ  http://www.bose.co.jp/auto/

取材・文/+D Style編集部

撮影/永山 昌克