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最新シネマ特集〜暗いところで待ち合わせ〜

それぞれの閉じた心をつないだのは、ホームが見える1つの窓。

 事故の後遺症で視力を失ってしまったミチル。唯一の同居人である父も亡くし、一人暮らしを始めた彼女の家の裏の駅で人身事故が発生する。そして、玄関のチャイムが鳴る。「どなたですか?」と声をかけるが、返事はない。その時、ミチルの横をすりぬけて、男が侵入した。男の名は大石アキヒロ。彼は事故の容疑者として追われているのだった…。

 海外作品への積極的な出演が続く田中麗奈が「視力も父をも失って閉じた世界に住む人物」という難役に挑んだ作品。事故に遭ったのは数年以内のことなので、「見えている」人生の方が長く、自分の家のという変化のない空間であれば自由に暮らせる。違和感は感じつつも、侵入者であるアキヒロには気づかない。
侵入者のアキヒロも、中国人とのハーフということで、日本でも中国でも疎外感を感じながら他者と常に距離をとって生きてきた。彼女を脅すこともせず、ただ静かに身を潜めるだけの侵入者もまた、閉じた世界からミチルの閉じた世界に移ってきただけなのだ。

 それぞれ「家の中」と「自分の中」という世界から抜け出せずにいるが、なぜアキヒロがこの家にやってきたのか、なぜそのまま居続けるのか。一言も言葉を交わさずに、もちろん目もあわせることもないまま、徐々に心を近づけていく二人の様が静かに描かれている。

 故・今村昌平監督の長男であり、今村作品の脚本家としても活躍していた天願大介が自らメガホンをとっている。サスペンスとしてはやや緊張感が足りないが、心の内に小さな闇を抱える者が光を取り戻すための一歩を描いた物語として見れば、このラストは心地いい。暗いところで待ち合わせをした二人には、この先歩む道がほのかに照らされている。

暗いところで待ち合わせ

監督:天願大介
出演:田中麗奈、チェン・ボーリン、井川遥、宮地真緒、佐野史郎、波岡一喜、岸部一徳、佐藤浩市
配給・宣伝:ファントム・フィルム

今秋、シネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー!!

http://www.kuraitokorode.com/

筆者プロフィール
北本祐子
+Dstyle編集担当。
雑誌編集畑から異動によりインターネットの世界にデビュー。
映画は本数よりも、好きな作品を何度も見る派。それでも、年間鑑賞作品数はDVDを入れると200本ぐらい。3度の飯もお酒も好きだけど、甘いものがもっと好き。会社の近くのパティスリー・サダハル・アオキのスイーツを食べ尽くすのが目下の目標。




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