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最新シネマ特集〜ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド〜

頭は2つ、身体は1つ 一瞬だけ輝いたミュージシャン

「1つの身体に頭を2つ」、トムとバリーは結合性双生児の兄弟。実の父親に売られ、バンドデビューすることを強制されながらも花開く二人の才能。悲しみや怒りを音楽にぶつけ、観客の心をつかむ詞と曲を生み出す一方で、心と身体は酒とドラッグにむしばまれていく。そこに投げ込まれた1通の手紙。微妙な均衡を保っていた二人の心はバランスを失い、短い栄光の舞台から堕ちてゆく。

テリー・ギリアム監督の未完成に終わった映画作りを追ったドキュメンタリー『ロスト・イン・ラマンチャ』で注目を浴びたキース・フルトン&ルイス・ペペがドキュメンタリーの手法を用いて撮った物語。実際にトムとバリーの双子も、ザ・バンバンというバンドも実在したが、実像を描いたものではなく、彼らをモチーフにした小説に基づいている。この小説自体も1977年に発表されたもので、30年もの時を経て、彼らの実像を知るものがほとんどいないのを逆手に取り、「ドキュメンタリー風」に作っているのが面白い。劇中歌も実際のものではない。ドキュメンタリー風に見せるために、人物が登場するごとにクレジットをいれているのが非常に効果的だ。まるで彼らの伝記を見ているように、観客を1974年に巻き込んでいる。彼らの心を代弁する印象的な歌の数々は全てこの作品のために作られたものだ。ほとんどの楽曲を作ったクライヴ・ランガーは、ザ・バンバンと同じ1974年にリヴァプールでデフ・スクールというバンドの中心人物で、まさにこの時代の真っ只中にいた人物。全ての仕掛けを揃えた上、無名の双子俳優を使い、ザ・バンバンを創り上げている。

公開劇場が渋谷のシネマライズからだというと、筆者は「ヘドヴィグ・アンド・ザ・アングリー・インチ」を思い出さずにはいられない。あのライブ会場のような熱気を伝えるスクリーン・プレイに酔った人には、この作品もハマるだろう。

ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド

出演:ハリー・トレッダウェイ、ルーク・トレッダウェイ、ブライアン・ディック、ショーン・ハリス、ケン・ラッセル
配給:アスミック・エース

2007年新春、シネマライズほか全国随時ロードショー!!

筆者プロフィール
北本祐子
+Dstyle編集担当。
雑誌編集畑から異動によりインターネットの世界にデビュー。
映画は本数よりも、好きな作品を何度も見る派。それでも、年間鑑賞作品数はDVDを入れると200本ぐらい。3度の飯もお酒も好きだけど、甘いものがもっと好き。会社の近くのパティスリー・サダハル・アオキのスイーツを食べ尽くすのが目下の目標。




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