指2本で探る宝箱――ペンタックス「K-7」(1):矢野渉の「金属魂」的、デジカメ試用記
カメラマン・矢野渉氏が被写体への愛を120%語り尽くす連載「金属魂」。番外編の今回は、ペンタックス「K-7」をカメラマンの視線から愛でる。
どうやらペンタックスという会社は、「小型・軽量」なカメラを作ることに社会的な使命を感じているようだ。かつてキヤノンのAE-1から始まった一眼レフの小型化は、オリンパスのOMシリーズを巻き込んで、「小型化戦争」などと呼ばれたことがある。しかし、1976年、そこにペンタックスがMXとMEという双子の最小、最軽量機を投入すると、この戦争はあっさりと終わってしまった。他社が白けてしまうほどMXとMEは小さく、「ペンタックスじゃしょうがないな」という空気になった。
2009年に登場したK-7にもその血統を感じる。しかし、*ist DからK20Dまでの過去の機種との決定的な違いはその「押し出し」だ。過去の機種はペンタプリズムのカバー部分が細く、しかも内側にえぐれているような曲線になっていて、貧相な印象をあたえていた。それに対してK-7はかっちりとした直線のデザイン。100%の視野率を確保するためにプリズムが大きくなっているにしろ、それをひとクラス上の高級感につなげている。長くペンタックスのファンだった人は、LXの標準ファインダーを連想するだろう。
このデザインとマグネシウムボディによってK-7は「中級機では最小・最軽量」の称号と「高級機にも劣らない高級感」を手に入れたわけだが、もちろんそれだけのカメラではない。長期貸与していただいた実機を触っていて、「このカメラの胆はグリップだ」と確信した。
ペンタックスはカメラのグリップにも熱い執念を燃やすメーカーである。ペンタックス67には木製の粋なグリップが用意されていたし、LXには、なんと自分でやすりで削り、カスタマイズするグリップが存在した。K-7の前モデルのK20Dは、すでに販売を終了しているのにもかかわらず、改造グリップラバーのサービスをしている。サービスマンが1時間の時間をかけて、5000円ほどの料金でグリップを交換してくれるのだが、企業としてこれで利益を得られるわけではない。言ってみれば企業としての良心、あるいは自分たちが世に送り出した商品への深い愛情を感じてしまう。
K20Dの改造グリップラバーも、オリジナルのものより大幅に前に突き出した形状をしているが、おそらくそれをベースに作られたK-7のグリップはさらにデフォルメされた形だ。グリップの要である中指の引っかかりが抜群にいい。これは長年写真を生活の糧としてきた人間にとってはとても嬉しいことだ。
常にシャッターチャンスをねらっている状況で、カメラをどう持ちますか?バッグに入れっぱなし?首からさげて?いやいや、人はずっと右手にカメラを握っているんです。
右手にカメラを保持する場合、大事なのはボディのバランスだ。力を入れず、ほとんど中指と薬指でぶら下げられるカメラが理想に近いと僕は思う。歴代のF2、F3、F4、F1、などは、重量級なのに指2本でぶら下げることができた。
K-7はこの感覚に近いものを持っている。もちろん軽量だから完全なホールドとはいかなかったが、中指の感触はこのクラスにしては最高の部類だと思う。おまけにカメラ背面の親指をサポートする部分が旧機種よりも盛り上がっていて、そこに親指を添えるとほぼ完全なホールドが完成した。
このカメラをひとことで表すなら、「ハイアマチュアのための宝箱」といったところか。このカメラを手に入れた者は酒場で、喫茶店で、同好の士にうんちくを垂れるのであろう。そしてそれを聞いたものは、その話が、まったく間違いなかったことに2度驚くことになる。
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