シャープは日本の電子書籍市場をどこへ導くのか次世代XMDFとGALAPAGOS(2/2 ページ)

» 2010年12月15日 00時00分 公開
[神尾寿,PR/ITmedia]
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次世代XMDFで「電子雑誌」「電子新聞」にも徹底的にこだわる

神尾寿

神尾 この10年、XMDFは携帯電話を母体にして発展してきたわけですが、次世代XMDFでさらに進化するわけですよね。これまでとの違いは、どのようなものなのでしょうか。

村松 次世代XMDFはすでに電子書籍の概念を超えたものになっています。ですから、われわれは「次世代XMDFソリューション」として紹介しています。

 まずフォーマットとしては、日本語の書籍がきちんと再現できるという従来の特徴を引き継ぎながら、(書籍よりも)さらに複雑な段組を持つ「雑誌」「新聞」に対応しました。また、紙の書籍の置き換えではないデジタルならではの本作りができるようにマルチメディア対応もしています。

神尾 雑誌・新聞はデジタル配信ビジネスとの相性はいいと言われていますが、フォーマット側の対応として、特にこだわったポイントはどこでしょうか。

中村 例えば、雑誌はレイアウトがとても重要ですが、これまでiPadなどに提供されている電子雑誌は画像形式が多いですね。全体のレイアウトを一覧して、ピンチイン・ピンチアウトで縮尺を変えながら、ユーザーが段組を追って読むというものです。しかし、これでは少し読みにくいですよね。

 一方、次世代XMDFでは、雑誌の段組みはそのままで、ピンチアウトすると(ページ全体ではなく)文字だけが拡大するという仕組みを作りました。こうすると文字はあふれますが、それはレイアウトを維持したまま文字だけをページめくりして追っていける。これだと雑誌の特徴であるレイアウトを生かしたまま、文字だけ読みやすくサイズを変えられるのです。

 また、次世代XMDFは紙の雑誌とサイマルで電子雑誌も作りたい出版社向けにハイブリッドビューというモードも用意しました。これはレイアウト全体を見るモードから切り替えると、本文は普通の電子書籍のように読み進められるというものです。こちらはPDFと本文テキストから比較的簡単に変換できますので、出版社様にはあまり手間をお掛けせずに、しかし読者が読みやすい電子雑誌が作れます。

神尾 段組みにこだわりながら、本文はしっかりと読みやすいというのは雑誌だけでなく新聞でも有効ですね。

雑誌の特徴であるレイアウトを生かしたまま、文字だけを読みやすいサイズに変えられるハイブリッドビューを採用。これにより、次世代XMDFソリューションはレイアウトを維持したまま文字だけをページめくりできるデジタルならではの本作りを実現した

中村 ええ。あと新聞の場合は、レイアウトだけでなくオーサリングの部分も重要になります。新聞は日々刊行するものですから、いちいち手動でオーサリングするわけにはいきません。そこで次世代XMDFのソリューションでは、サーバ側で新聞社と連携し、(新聞社から)データを直接受け取った上で次世代XMDFフォーマットに生成して配信する仕組みを構築しています。

 フォーマット以外の部分では、「自動配信」の仕組みにもこだわりました。これは定期配信という形で、ユーザーが購読を申し込んだものが決められた時間に配信されてくる。これによって新聞・雑誌の電子配信ビジネスがとてもやりやすくなります。

神尾 ユーザー側がコンテンツをダウンロードするために操作しなくてもいいのは楽ですね。雑誌・新聞ですと、日常的に読むものですから、いちいちチェックするのは面倒ですので。

中村 ユーザーが何もしなくても端末に届くことが重要ですね。さらにこのプッシュ型で届ける仕組みを利用して、ユーザーの好みに合った電子書籍や雑誌などを「おすすめ」という形でリコメンドします。GALAPAGOSですと、これは本体のメニュー内に表示されますから、とても見つけやすい。このおすすめ機能は、将来的にはフリーペーパーや電子チラシといったものにも活用できます。

 このように次世代XMDFでは、積極的にコンテンツを探さないようなユーザーでも、自分が欲しい書籍や雑誌・新聞を手に入れやすい家電感覚の利用環境を作っています。

GALAPAGOSの特徴は「液晶」と「UI」

笹岡孝佳氏 シャープ ネットワークサービス事業推進本部係長の笹岡孝佳氏

神尾 今回、次世代XMDFと対になるのがメディアタブレット「GALAPAGOS」です。昨今ではタブレット端末は数多く発表されていますが、その中でシャープ製のタブレットとしてこだわった点はどこでしょうか。

中村 まずは「液晶ディスプレイ」ですね。液晶がきれいであることはシャープの誇りとも言える部分ですが、それだけでなく、今回は端末のサイズにもこだわりました。GALAPAGOSの液晶は汎用品ではなく、サイズ・解像度ともに専用設計なのです。

神尾 コスト的には汎用品の方が有利ですが、あえてそれをしなかったわけですね。

中村 その通りです。GALAPAGOSのソリューションやコンテンツとの親和性を最重要視しました。そのこだわりが特に現れているのが、5.5型のモデルですね。これは片手で不安なく持てるサイズと形状を研究しました。

笹岡 手にすっぽりと収まるサイズの中で最も大きな液晶サイズになるよう、紙で幾つもモックを作成しては作り直し、最終的に残ったのがこの大きさだったのです。

神尾 電車通勤での利用を重視したわけですね。

中村 わたしも海外製のタブレット端末を複数試しましたが、やはり日本の電車通勤で安心して使える端末ではないですね。片手で持てて、最も大きく持ちやすい液晶サイズや形状はどのようなものか。紙でたくさんの(ディスプレイサイズの)パターンを作って研究しました。それに合わせて液晶パネルを専用品にしたのです。

神尾 縦長の縦横比も特徴的ですよね。実際に手にしてみると、形状もそうですが重量配分が最適で予想以上に持ちやすい。これは「片手で持つこと」を前提に設計されたからこそですね。

 GALAPAGOSには10.8型のモデルも用意されていますが、こちらはどのようなユーザーをターゲットにしているのでしょうか。

中村 5.5型のモバイルタイプが都市部の電車通勤利用者なのに対して、10.8型は家庭の主婦層ですね。われわれの調査によると、ここにも大きな需要があり、そこでは大画面で美しい表現が好まれることが分かっています。特にファッション誌などは10.8型と相性がよいと考えています。

神尾 確かに10.8型ですと、レイアウト全体が見られますから、雑誌向きですね。

中村 あと重要なのが、横向きにしたときに「見開き」がきちんと表現できることです。雑誌ではコンテンツを強調したいとき、ページを見開きで使うことが多いですから、10.8型ではその再現性にもこだわっています。

神尾 液晶ディスプレイ以外にこだわったところはありますでしょうか。

中村 UI(ユーザーインタフェース)ですね。GALAPAGOSはオープンソースのOSを採用していますが、メディアタブレット端末として必要な機能だけをしっかりとUIとして作り込み、ユーザーが操作に迷わないように腐心しています。そのあたりが汎用機でスマートフォンとの共通性が高いほかのタブレット端末との違いです。

 また、もうひとつUIのこだわりとして、「ストア」機能を本体側のUIに組み込んでいることがあります。これによりユーザーはオンラインのストアを特に意識することなく、ほしいコンテンツを探したり、おすすめコンテンツの情報を見ることができるのです。

神尾 タブレット端末はスマートフォンよりもさらに幅広いユーザー層に向けた商品ですので、家電的に誰もが簡単に使えるUIというのは重要ですね。そのあたりの今後の進化にも期待したいところです。

紙媒体のよさとデジタルの融合を支えたい

神尾 今回、次世代XMDFとGALAPAGOSを投入し、電子書籍市場に一石を投じるわけですが、シャープが考える電子書籍の未来とはどのようなものなのでしょうか。

中村 いまメディアが多様化する中で、日常的に本や雑誌・新聞を読まない人も増えてきている。しかし、本や雑誌・新聞には情報がきちんと整理・集約されてパッケージ化されているよさがあります。このような活字メディアのよさを、デジタルの時代にもしっかりと伝えていきたい。その上では、出版社の力がとても大切です。電子書籍が普及すると出版社の役割が減るという意見もありますが、そんなことはありません。デジタルの世界では確かに多くの情報が低コストで流通しますが、一方で、読者にとって必要なものを適切な形でまとめる・届けることが今後さらに重要になります。そこでは出版社や新聞社が持つ出版のノウハウはとても大切です。

 このような紙媒体の時代のよさやノウハウをしっかりと継承した上で、デジタルならではの編集をし、それをデジタル世代に根付かせていきたい。その下支えを、次世代XMDFとGALAPAGOSができたらと考えています。

神尾 本日はありがとうございました。


 日本の出版市場は書籍・雑誌ともに下がり続けている。出版科学研究所の調査によると、2009年の日本の出版市場規模は2兆円の大台を割り込み、1兆9356億円。5年連続の減少になったという。とりわけ落ち込みが激しいのが、月刊誌・週刊誌など雑誌だ。筆者の周りを見回しても、ここ数年、老舗の専門誌や一般誌が休刊・廃刊になったという寂しい話をずいぶんと聞いた。

 しかし、日本人は基本的に「読むこと」が好きだ。日本の識字率は世界的に見てもすこぶる高く、人々は多くの本や雑誌、新聞を読むことを日常的な楽しみとしている。ITやインターネットの世界を見ても、携帯メールやブログ、Twitterなど文字中心のコミュニケーションと日本人は相性がいい。出版市場の不況は確かであるが、人々が読むことを捨てたわけではないと思うし、そうだと信じたい。

 次世代XMDFとGALAPAGOSは、日本人の「読むこと」へのこだわりをデジタルの世界でも実現しようとしている。日本語表現の機微を高いレベルでデジタルでも再現し、“通勤中に読む”という日本ならではの読書文化にもモバイルに特化することで対応した。また、今の出版不況で最も落ち込みの著しい雑誌ビジネスを、デジタルで展開できるような仕掛けもこらした。電子書籍市場はまだ揺らん期であり、そのすう勢は定かではないが、次世代XMDFとGALAPAGOSが「日本人の読者」と「日本の出版文化」を重視したものであることは間違いないだろう。あとは、シャープがこの取り組みを広げられるか、だ。

 次世代XMDFとGALAPAGOSが日本の出版業界の福音となるか。その動向を期待を持って見守りたい。

「紙媒体のよさとデジタルの融合を支えるための下支えを次世代XMDFとGALAPAGOSで」と力強く宣言するシャープの開発陣と神尾氏。写真左から笹岡氏、村松氏、神尾氏、中村氏

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