インタビュー
» 2012年12月12日 13時15分 公開

メディアでの「学者」の意見、どう接すればいい? 『世界の経営学者はいま何を考えているのか』著者・入山章栄インタビュー (2/3)

[新刊JP]
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日本の経営は海外の研究者にどう見られている?

―― 経営学について少しは知っていると思っていたところもあるのですが、本書を読んでいると、知らないことが多くて驚きました。

入山 先ほども言いましたが、良いか悪いかは別にして、日本の中で議論されていることと、国際標準で議論されていることは結構違っています。ただ、この本に書いてあることのほとんどは基本的なことですね。タイトルにもあるように『フロンティア』の基本の話を書いています。

―― どのような人に読んでほしいと思って執筆されたのですか?

入山  この本は、国際標準の経営学ではこういった研究がされているということを、幅広く日本人に知ってほしいという位置付けで書いています。だから、ビジネスの示唆になることもあるでしょうから、普通のビジネスマンはもちろんのこと、経営学を勉強している学生や、経営に興味を持っている学生でも読み解けるはずです。

―― では、経営学の国際的な最先端を知りたいと思ったときにはどうすればいいのでしょうか。

入山 これは本の後がきにも書いていますが、結局は原書で論文を読むしかないんですね。

 日本では独自の経営学が研究されていることが多いので、海外の文献や資料が少ないという実情があります。ただ、今では海外で博士号を取られている方も多くなってきていて、国際的な学会に出られている方もいらっしゃるので、そういった方々が書いた本を読むのは1つありますね。また、『ハーバード・ビジネス・レビュー』もこの本で述べているように本当の学術誌ではないですけれど、読んでおくと役に立つかもしれません。日本の『一橋ビジネスレビュー』も有用な情報が書かれているはずです。

 ただ、本当のフロンティアを知りたいと思ったら、原書の学術論文を自分で読むのが一番です。さらにその先が知りたいとなると、学術論文でも遅くて、現在進行形で経営学の知は開拓されているので、そのコミュニティーに飛び込んで、学会に参加して、学術誌に投稿される前の段階の、今、真っ最中の研究を聞くしかないですね。

 それと、これは日本でもそうですが、米国では学者間の交流が盛んで、研究成果の情報交換もよくしています。これが本当のフロンティアだと思いますし、たぶんコミュニティーに入らないと手に入らないものでしょうね。

―― わたしは日本の大学院しか知りませんから海外については分からないのですが、大学院には研究をしようとしている人、自分のテーマを持って取り組んでいる人が多くいる一方で、就職できなかった学生たちが行くという側面もありますよね。

入山 それはすごくよく分かります。

―― だから、こうした本を通して経営学の面白さに気づいて、研究者を志して海外に出ていく人が増えればいいかなと思いました。研究って本当に面白いと思わないとなかなかできないことですよね。

入山 その通りだと思いますね。研究が面白いと思えることも大事ですし、後は米国でいえば研究者って一人一人が個人事業主なんです。だから競争もし烈だし、そこで勝ち上がっていかないといけない。これは厳しいことですが、反面、自分の好きなことができるというのは魅力的ですね。また、ほかの職業と比べると自由です。服装とかも軽装でいいですし(笑)。

―― この本でも少し触れられていますが、日本にも少し前、MBA(経営学修士)がブーム化したことがありました。でも正直なところ、MBAを取得する意味はあるのですか?

入山 意味というのをどう考えるかでしょうね。MBAは役割が1つだけではありません。勉強をして知識を得ることも役割の1つですが、ハードな勉強をさせられるので勉強する行為そのものが鍛えられますし、後はネットワーキングも重要な要素です。つまり、たくさんの優秀な同期たちと勉強して、そこで生まれる友情や仲間意識を求めてMBAを取りたいという人が、米国では本当に多いです。修了生にも優秀なビジネスマンが多いですし、そのネットワークを得るために通うという人も結構いるんですよ。

 だから、ハーバード大学やペンシルベニア大学に行きたいというのは、良い教授がいて、良い授業が受けられるからだけではなくて、同期が優秀で、世界のトップで活躍している人たちが多いから、そういう人たちとネットワークを持っておきたいという目的があるからなんですね。

 一側面だけ見るとMBAは意味があるのかどうかは分かりませんが、総合的に見ると意味はあるはずです。ただ日本のビジネススクールの多くがそのレベルに達しているかどうかは、僕は日本のビジネススクールを経験したことがないので分かりません。

―― もう1つ、正直なところを聞きたいのですが、日本のアカデミア、特に社会科学、その中の経営学の分野は、海外からどのような評価を受けているんですか?

入山 経営学に関して言いますと、米国の研究者は日本の経営学についてそもそもあまりよく知らないと思います。それは、先にも述べたように日本人がそんなに情報発信をしていないということも大きいかもしれません。ただ、例えば野中郁次郎さんのような方々の研究は、引用している人がとても多くいますし、重要とされています。だから、日本が軽んじられているのではなく、評価されている部分も多くあります。

―― 昔、ジェイムズ・アベグレンの『日本の経営』が注目され、日本式の経営が脚光を浴びましたが、今でも日本の経営を研究している研究者は多いのですか?

入山 極めて少なくなってきていますね。ただ、面白いと思うのが、去年、おととしとアカデミー・オブ・マネジメントという世界最大の経営学会があって、国別でのセッションをするんですね。ちょっと前までは中国やインドが人気で、何百人もの聴講者が集まっていたんです。

―― 日本でいうところの分科会ですね。

入山 そうそう、そんな感じです。学会自体の参加者が1万人近くいるのですが、何百人ってやはり多いんですよ。でも、最近は中国もインドも時代遅れで、トレンドはアフリカらしいですよ(笑)。この前、大御所教授とご飯を食べに行ったときに、これからは中国でもインドでもなく、アフリカを見ておかないと駄目だよって言われました。でも、中国やインドもまだまだすごい人数が集まります。

 それで、日本のセッションが一昨年あったのですが、参加者が20人いなかったくらいで、その3分の1くらいが日本人でした。残りはドイツ人研究者だったり、日本に興味のある人たちですね。そのとき話題に上ったのが、「何で日本は注目されなくなったか」ということでした。

―― それは何だか寂しいですね。

入山 そうなんですよ。決して発表者に非があったわけじゃないのですが……。ただ、繰り返しますが、全体的なトレンドはそうなっているけれど、日本がまったく注目されていないわけではないですし、研究されていないわけでもありません。今でも日本のデータを使った研究が学術誌に掲載されているし、決して注目されていないわけではありませんよ。

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