林信行が語る「iOS用主力電子書籍サービスとして歩み始めたGALAPAGOS STORE」

Apple製品に対する深い造詣で知られるジャーナリストの林信行氏が、リニューアルしたiOS向け「GALAPAGOS STORE」アプリをレビュー。デザインやユーザビリティに対して厳しい鑑識眼を持つ同氏に、新アプリはどう映ったのか。

» 2012年12月25日 10時00分 公開
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最近、お気に入りの本棚

photo フリージャーナリスト・コンサルタントの林信行氏。IT、モバイル、デザイン、アートなど幅広い分野で活躍している。Apple製品への造詣は特に深く、Appleに関連した書籍に多数関わっている

 今、筆者のiPadの“本棚”にある本を紹介させてほしい。『日経ビジネス』『Pen』の気になった特集号、『CREA Traveller』のイタリア特集。それと自分が関わった本も、話が出たついでに紹介できるように持っている。解説を書いたケン・シーガル著の『Think Simple―アップルを生みだす熱狂的哲学』、監修を担当した日経BP社のムック『スティーブ・ジョブズは何を遺したのか』だ。

 これに加えて、お気に入りゲーム「FIFA13 ワールドクラスサッカー」がもっと楽しくなるように、海外サッカー情報が満載の『WORLD SOCCER DIGEST』も買っている。これは月2回の刊行だが、毎号自動的に本棚に届く。

 漫画もある。実は漫画はここ数年あまり読んでいなかったのだが、人に勧められて読み始めた『宇宙兄弟』は最新巻まで一気に大人買いしてしまった。『ゴルゴ13』も友人に勧められているのだが、100巻以上を読むのは大変そうなので、代わりに同じさいとう・たかを氏の『サバイバル』を、これまた大人買いした。


photo 日経ビジネス 2012年12月3日号/日経BP社、PEN 12/15号/阪急コミュニケーションズ、CREA Traveller Autumn No31/文藝春秋、WORLD SOCCER DIGEST 12/20号/日本スポーツ企画出版社、Think Simple ケン・シーガル 林信行 高橋則明/NHK出版、スティーブ・ジョブズは何を遺したのか/日経BP社、宇宙兄弟 小山宙哉/講談社、サバイバル さいとう・たかを/リイド社

 新聞、雑誌、ムック、ハードカバーにコミック本――。硬軟取り混ぜたこれだけバラエティーのある書籍が、すべて1つの本棚にまとまっているのが筆者の自慢だ。皆さんはこれがどこのサービスの本棚か分かるだろうか。そう、シャープが提供する電子書籍サービス「GALAPAGOS STORE」だ。

 GALAPAGOS STOREには現在、新聞、雑誌、書籍などすべて合わせて8万点以上の電子書籍がそろっている。有料メールマガジンの取り扱いなどはあるが、基本的には個人による自費出版系の電子書籍などは扱っておらず、主流の出版社の書籍を主としてこれだけの点数を誇っている。

 2012年の秋以降、幾つかの電子書籍端末が発表され、「電子書籍」という言葉がにわかに華やかさを取り戻している。では、いざ“ちゃんと本を読もう”と思ったとき、選ぶべきサービスはどれか――。紙の本屋のように幅広いジャンルで十分な書籍をそろえ、なおかつiPhone、iPadにも対応しているサービスを選ぶとなれば、GALAPAGOS STOREが有力だと筆者は考えている。同ストアは2012年8月にRetinaディスプレイ表示にも対応したiOS版アプリをリリース。iOS定番の日本語電子書籍サービスとしての地盤を固めつつある。


photo 林氏の「本棚」を見せてもらった。デザインやビジネスの本はもちろん、友人からオススメされた漫画も並んでいる

2010年が電子書籍をダメにした?

photo 2010年に登場した初代「iPad」

 日本では、これまで何度か「電子書籍元年」と呼ばれる年があった。前回は2010年、iPadの発表を受けてのことだった。

 この時、出版業界の人々はiPadという新しいデバイスを見て衝撃を受けた。そして「ついに電子書籍の時代が来てしまった」と焦り、書籍、雑誌、新聞の電子化について議論を始めた。ほとんどの出版社はそれでも動かなかった(動けなかった)が、中には慌てて自分の出版社の電子書籍アプリを作ったところもあった。

 アプリ開発者にとって、出版社の電子書籍アプリ開発は千歳一隅のチャンスだった。オリジナルのアプリを開発してApp Storeで1位を取るのは、よほどのスキルとセンスがないと無理だが、全国に4000社近くある出版社からアプリ開発を受注できれば、その開発と運用で収益を上げられる。そのため出版社に激しい営業をかけていた開発会社もあったようだ。だが、こうして皆が慌てて動いた結果、出版社による本棚アプリが市場に乱立してしまったのは記憶に新しい。

 本棚アプリが乱立すると、買った本を読もうとした時に「どの本はどの出版社の本だから、あの本棚に入っている」といったことをユーザーがいちいち覚えていないといけない――。これでは紙の本よりもかえって不便だ。家の本棚を想像してほしい。新しい順や作家順、あるいは本の大きさ順に本を並べている人はいたとしても、出版社別に本を並べている人はそういないだろう。

 人々が望んでいたのは、そんな不自然な本棚ではない。そこさえ探せば読みたいと思った本が確実に出てくる、横断的な本棚だ。そして今、iPhone/iPadに対応した日本向けサービスとしては、扱うジャンルが幅広く作品数も多いGALAPAGOS STOREが、その理想に最も近いと筆者は思っている。それだけに、このストアを使っていると本を選ぶときの視野がより広くなり、本そのものの楽しみが広がる。


photo シャープ デジタル情報家電事業本部 モバイルソリューション事業部の松本融氏

 そういえば、GALAPAGOS事業を担当するシャープのデジタル情報家電事業本部 モバイルソリューション事業部の松本融氏は、こんなことを言っていた。

 「GALAPAGOSの狙いは本の楽しさを提示すること。GALAPAGOSのアプリケーションをインストールしてもらうと、本との出会いが次々と生まれてくることを実感してもらいたい」

 現に筆者も、最近すっかり読まなくなっていた漫画をGALAPAGOS STOREのおかげで再び読み始めた。だからこそ松本氏のこの言葉には実感が持てる。

 本との出会いといえば、GALAPAGOS STOREを使い始めてから、ストア内のビジネス書や雑誌のランキングもよく見るようになった。App Storeのブックカテゴリーのランキングを見ると、すべてのジャンルの本がごちゃまぜで、中には読書用のアプリも混じっており、しかも、順位がかなり固定化されてしまっている。GALAPAGOS STOREのランキングは、もっとリアルな書店のそれに近く、本の発売日に連動して動いている感じがある。

魅力的な本棚を目指した、iOSアプリ新バージョン

 このように筆者はGALAPAGOS STOREを全面的に応援したいのだが、もちろん課題がないわけではない。リリース当初のiOS版アプリは、フラストレーションがたまることも多かった。例えば、飛行機に乗っていざ本を読もうとiPadを開くと、本棚から本が消えていたことがあった。飛行機内では通信ができない機内モードなので、当然、再ダウンロードはできず本はお預けとなった(なお、このバグは現在、修正されている)。

 たくさん本を買ったからこその苦労もあった。本棚が書籍名をただズラリと並べただけのものだったので、購入した本が増えるとスクロール量も増えてしまい、目的の本が見つけにくくなったのだ。特に新聞や雑誌などの定期刊行物を取っていると、作品点数がどんどん増えて大変だった。

 しかし、こうした問題は今回リリースされたバージョン1.1.0のアップデートによって解決する。製品の見た目の印象もまったく変わってしまう大きなアップデートにも関わらず、バージョン数を0.1しか増やさずに“まだまだメジャーアップデートとするにはやり残したところがたくさんある”と暗に訴えるシャープの謙虚さは、ちょっと評価したい(もちろん、実際にまだまだ進化すべき部分はある)。

 さて、このバージョン1.1.0の最大の目玉は、iPad上で“本棚らしい本棚”が表示されるようになったことだ。新デザインの本棚では、1画面に5×5=25冊(※1)の本が表示され、雑誌や複数巻からなる本は1つのアイコンに束ねられるようになった。その結果、限られた画面スペースでより多くの本を見渡すことができる。また、本の並び順を「購入順」「読んだ順」「タイトル順」「著者順」などで並べ替えることもできるので、目的の本を見つけやすい。

※1 表示冊数は、端末の表示解像度により異なります。

photo アップデートで分かりやすくなった本棚のデザイン

 便利になっているのだが、歯がゆい部分もある。1つは本棚の上に表示されるカラフルな線で描かれた表示。「これは一体何だろう?」と思ってタップしたりスワイプしたりしてみるが、反応がない。筆者は、あれはデザイン上の間違いだと思う。もし、筆者同様にあの部分を押して戸惑った方がいたら、ぜひ上にある「Tweet」ボタンで「私も押した」とツイートして、シャープの開発者にシグナルを送ってほしい。

 GALAPAGOS STOREの本棚は上下スワイプと左右スワイプの2つの操作を受け付ける。画面に表示しきれていない残りの本を表示するには、本棚を上にスクロールさせればよい。では横にスワイプするとどうなるのか。実は新バージョンの本棚には、「未読・おすすめ」、「すべて」(購入した全作品の表示)、「お気に入り」、そして定期購読物だけをまとめて表示する「定期購読」の4モードがある。これを切り替えるのが横スワイプで、先に触れたカラフルな表示は、この横スワイプをした時に“今どのモードにいるのか”を教えるためのものなのだ。


photo 横スワイプで4種類の本棚を切り替えられる

 個人的には、本棚そのものに「未読・おすすめ」「すべて」「お気に入り」「定期購読」と表示して、横スワイプで本棚と一緒に横に流れるようにすれば、もっとシンプルで分かりやすいと思っている。iOSには優れたデザインのソフトがたくさんあるので、ぜひその辺りから学んでさらにデザインを洗練させてほしい。とはいえ今回の新機能からは、不器用ながらも本の管理方法にバリエーションを持たせ、「本の楽しみ」を増やそうという姿勢が感じ取れる。

カスタマイズできる本棚

photo フォルダ機能により本棚のカスタマイズが可能に

 新バージョンでは、ただ用意された分類で本を整理するだけでなく、ユーザーが自分のスタイルにあわせて本棚をカスタマイズできるのも大きなポイントだ。例えば「仕事関係」や「趣味」といった具合に、自分なりの本棚を作って買った本を整理できる。

 先の松本氏は「iPadなどのタブレットは家で他の家族と共用で使われていることも多い」と指摘していた。このカスタマイズ機能を使って、購入した本を「お父さん用」、「お母さん用」、「子供用」といった具合に仕分けすることもできる、と説明してくれた。

 そこで、もう1つ大事になってくる機能がある。「シークレット」機能だ。自分は読みたいが、子供の目には触れさせたくないような本は、新たに追加された「シークレット」機能で隠せばよい。同機能は、シークレットモードをONにするとあらかじめ指定した隠したい本が本棚から消え、OFFに切り替えると再び表示されるというもので、解除のためのパスコードロックなどは設けられていない。極めて単純な機能ではあるが、とりあえず当面は目的を果たしてくれるはずだ。

 また、カスタマイズといえば、本棚の背景に表示される壁紙も自由にカスタマイズできる。標準で用意された壁紙はいかにもシャープらしい色合いや絵柄のものだが、アルバムにある写真や画像も壁紙にできるので、自分なりのこだわりがある人は用意するといいだろう。

開発陣の心意気が詰まった「未読・おすすめ」機能

photo 「未読・おすすめ」本棚にあるオススメ書籍をタップすると、スムーズに試し読みできる

 ところで、まだ新バージョンを使っていない人にとって、4つある本棚のモードの中でも「未読・おすすめ」は一番分かりにくいモードだろう。実はこれこそが、「本の楽しさを提示」したいという松本氏をはじめとする開発陣の心意気が表れている部分だ。なんと、本棚に購入していない本が表示されるのである(このおすすめ機能は設定でオフにすることも可能)。端的に言うと、自宅の本棚に、本屋さんのオススメ本の本棚が届けられるようなイメージだ。GALAPAGOS STOREのイチオシ本が表示され、数ページ分を試し読みできる。

 ここで「気に入ったらからそのまま購入……」とできればいいのだが、残念ながらそうはいかない。自分でWebブラウザを起動してWeb版のGALAPAGOS STOREに行き、そこから本を検索して購入する必要がある(ちなみに、ホーム画面にWebサイトのショートカットをブックマークしておくと楽だ)。

 この面倒な仕組みはシャープのせいではない。Appleに売り上げの3割を支払う“アプリ内課金”の仕組みを使っていないアプリの宿命なのだ。Appleはこうしたアプリが、アプリ内にコンテンツ販売サイトへの直接リンクを設けることを許していない。

 シャープとしても、使いやすさのためにはアプリ内課金を使いたいところだろう。しかしそれを導入しないのは、出版社とユーザーに負担をかけず、自らもビジネスとして利益を生み出さなければならないというトレードオフの中で下した、苦渋の選択といえるかもしれない。App Storeの厳しい制約にもめげず、それでもなんとかユーザーに楽しい本をオススメしたい、という彼らの心意気を、少し買ってあげたい。

デザインのさらなる進化に期待

 さて、購入した本を読むときの画面は、これまでと同じユーザーインタフェースだ。筆者はこのアプリで何百ページも本を読んでいるので慣れているのだが、1つ指摘したいことがある。ページをめくろうとしても、画面の上下に操作ボタンが表示されている「操作モード」だとページがめくれない。

 開発側は大した問題ではないと思っているのかもしれないが、「なぜ突然、ページがめくれなくなったんだろう?」と不安になる初心者も多いはずだ。他社のアプリでは、どんな状態でもページをめくれる作りは当たり前。ぜひとも次のバージョンでは、この部分の操作性を改良してほしい。

 もっとも、洗練させるべき部分はまだあれど、GALAPAGOSの開発部隊には高い理想に向かって一歩一歩根気よく開発を続けていくひたむきさがあると感じる。今回はバージョン番号にして0.1の前進しかしていないが、その間にも開発陣は、洗練されたデザインのソフトウェアをつくる教本として高く評価されているAppleのiOSのデザインガイドラインを読み、多くを学び、できるところから修正をかけているという。さらには、そこから学んだデザインの要素をAndroid版などにも反映し始めているそうだ。となれば、iOSアプリがバージョン2.0へ進化するその時には、操作体系が一新されるくらいの大進化を期待したいところである。

海外勢 VS GALAPAGOSの戦いが始まる

 海外プレイヤーが続々と進出する中、GALAPAGOS STOREに勝算はあるのか、と気にしている人もいるかもしれない。しかし筆者は今現在、蔵書数の多さやサポートしているデバイスの種類、新聞から漫画までサポートする柔軟性、そして日本語のハンドリングについて、GALAPAGOS STOREは一定のアドバンテージを持っていると考えている。

 デザイン面で小慣れていない部分はあるが、1台1台のデバイスにじっくりと時間をかけて最適化しようという丁寧で正直なアプローチには好感が持てる。もし、ここにデザインの洗練が加われば、鬼に金棒のはずだ。

 SNSや写真共有サービスなどIT系サービスの世界では、グローバルに展開するプレイヤーとそうでないプレイヤーには資本力の部分で大きな差があり、どんなに日本だけで頑張っても、いずれは桁の違うユーザーを抱えたグローバルプレイヤーに飲み込まれてしまう――そんな感覚が業界に広がっている。しかし幸運にも電子書籍には、言葉の壁、出版文化の違いの壁がある。

 GALAPAGOS STOREがこの先どうなるのかは、皆さんの応援次第のところもあるが、最近では続々と応援団が増えてきているように思う。筆者も次のiOS版でさらなるデザインの刷新が図られると期待して、まだしばらく応援を続けたい。

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提供:シャープ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia eBook USER 編集部/掲載内容有効期限:2013年1月16日