スキャン代行業者の実力を比較する(後編):「スキャン代行サービス」大研究(5/5 ページ)
電子書籍の普及に伴って台頭してきた「スキャン代行サービス」。この代行サービスを取り扱う短期連載の第3回は、実際に各業者に発注し、サービスの内容を具体的に検証する「比較編」の後編をお届けする。
品質以前に顧客対応に大いに問題あり
ところで今回の6社の中には、品質重視のコースや、裁断なしでスキャンを行ってくれるコースを別途用意しているところもある。そちらであればクオリティ面で満足のいく結果を得られる可能性もあるが、別の理由でお勧めしない。というのも、今回試用した各業者の中には、成果物の品質を問う以前に、メール対応すら不十分な業者があまりに多かったためだ。
例えばECサイトで銀行振込で商品を注文した場合、注文受付時に自動応答メールが1回、その後入金確認時と発送時に1回ずつ、計3回の節目でメールが飛んでくる。入金確認と発送のメールが合体している場合もあるが、これはECサイトでは入金→発送のプロセスが連続しているからであり、入金を確認してから生産に着手するBTOタイプの商品であれば、入金を確認した段階でメールで知らせるのが一般的だろう。なぜなら万一入金にミスがあった場合、そのぶん生産の開始が遅れ、利用者の側が納期的に大きな損害を被るからだ。
ところが今回試用したスキャン代行サービスでは、こうした「節目でメールを送る」という最低限のルールが守られていない場合が多く見られた。今回はすべてに銀行振込を利用したので、申し込みの時点で1回、入金確認の時点で1回、本が業者に到着した時点で1回、納品連絡で1回、計4回のメールが送られてくるのが理想的、というより最低限必要になる。たまたま入金確認と本の到着確認がひとつになる場合はあるかもしれないが、工程にミスが発生していることに業者もしくはユーザーのどちらかが気づくには、この4つのプロセスは欠かせない。
しかし、特別対応であるBOOKSCANと正式な申し込みに至らなかったスキャポンを除外した5社の中で、今回このすべてをクリアしていた業者は「電私化.com」1社のみ。ほかの4社はいずれかのメールが欠けており、進行状況が分からずやきもきさせられることもしばしばだった。
こうした状況下で、別コースであれば成果物のクオリティは高くなりますよと言われても、信頼して任せる気にはとてもなれない。業者が同じである以上、コースを変えたからといって顧客対応の部分までグレードアップするとは考えにくいからだ。「低価格なんだからある程度は我慢すべき」という意見もあるかもしれないが、品質も顧客対応も、予想よりもレベルが低かったというのが今回試用しての率直な感想だ。
このほか、具体的な社名は記事に譲るとして、本来の支払い方法とは異なるメールの誤送信、納品メールの配信漏れ、メール本文内容の誤記、いきなり着払いで送りつけられる、揚げ句の果てには納期遅延など、一般では考えられないレベルの対応のオンパレードだった。今回は事前にリストアップしたスキャン代行業者の中から「株式会社・有限会社・合資会社」といった会社形態で請け負っている業者をチョイスしたのだが、にもかかわらずこの惨状である。余談だが、前回の記事を逆手に取って、「うちならもっときれいにできますよ」とTwitterで宣伝している個人業者も見られたが、機会があれば個人事業主にも対象を広げて、実態を調査すべく抜き打ちで実力評価の機会を設けてみたいところである。
どうしてもスキャン代行サービスを利用したい場合のチェックポイント
検証記事は以上となるが、それでも手間節約の観点からどうしてもスキャン代行サービスを利用したいというのであれば、どのような点を重視すべきか、今回の結果を踏まえてのチェックポイントをまとめておこう。繰り返しになるが、法的なリスクを度外視して考えた場合である。
- ポイント1 なるべくたくさんの本をまとめて発注する
単価が安いだけに、本を送る際の送料を考慮しておかないと、1冊あたり100円のはずが送料を入れると200円相当になってしまった、ということになりかねない。まとめて送れば送るほど安くなるので(もちろん宅配便の送料ランクにも依存する)、ある程度の冊数がたまってから一括発注する方がよいだろう。
同じ理由で、送料が割高になる遠隔地の業者は避けたほうがよい。また書籍を返送してくる業者は送料コストが倍になるので注意したい。
- ポイント2 必要なオプションを見極める
自前でスキャナを持っていなくとも、ファイル名の編集などはエクスプローラ上で行える。ファイルに書名や著者名をつける作業は、手入力で処理するとかなりの手間だが、オンラインで検索した結果をコピペするだけであれば、労力はぐっと削減できる。これによってコストを削減することは可能だろう。ただし同時依頼冊数が多いと本の見分けがつかなくなることもしばしばなので、善しあしだ。
- ポイント3 業者選びの際、納期はアテにしない
納期が短いからよい業者とは限らない。品質や対応面に問題があってリピーターが少ないために結果的に短納期になっている可能性もあるからだ。もっとも、納期がかかりすぎるのもユーザーの側からすると問題で、判断が難しいところである。これはなにもスキャン代行サービス業者に限ったことではないが「ホームページ上に納期がわかりやすく明示してあり、しかも繁忙の状況に合わせて日々書き換わっている業者」を選ぶのが、最低限ストレスをためないコツだと言えるだろう。
関連記事
- スキャン代行業者の実力を比較する(前編)
電子書籍の普及に伴って台頭してきた「スキャン代行サービス」。この代行サービスを取り扱う短期連載の第2回は、実際に各業者に発注し、サービスの内容を具体的に検証する。 - スキャン代行サービスの現状と内容比較
電子書籍の普及に伴って台頭してきた「スキャン代行サービス」。この代行サービスを取り扱う短期連載の第1回は、サービスの現状をまとめつつ、各社サービスの内容を比較する。 - iPadの使い道は「Web閲覧」が最多 電子書籍の“自炊”経験者は2割
iPadの用途で最多はWebの閲覧。紙の本を自分で電子書籍化する“自炊”の経験者は2割だった。 - 動画と写真で確認する――裁断&スキャンのコツ(裁断編)
書籍を「裁断→スキャン」してデジタルデータ化する行為を、俗に「自炊」と呼ぶ。この「自炊」のノウハウや細かいTipsを紹介する短期連載。第2回となる今回は、実際に裁断のステップを動画と写真を交えて説明しよう - 書籍を「裁断→スキャン」して電子書籍端末で読むメリットとデメリット
書籍を「裁断→スキャン」してデジタルデータ化する行為を、俗に「自炊」と呼ぶ。電子書籍のキラーコンテンツとなりそうなこの「自炊」のノウハウや細かいTipsを紹介する短期連載。第1回となる今回は、自炊のメリットとデメリットを考えてみたい。 - Kindle初の日本語マンガはいかにして誕生したか――電子書籍出版秘話
AmazonのKindleやAppleのiPadなど、電子書籍に関する動きが活発になってきた。日本語のマンガでいち早く電子出版を試みた小沢高広氏に話を聞いた。 - 僕から出版社にお金を分配する未来――電子書籍出版秘話
「僕にAmazonからお金が入って、僕の方から出版社にお金を払うという、ヘンなお金の動きが発生する可能性があります」というのは、Kindle Store初となる日本語マンガ「AOZORA Finder Rock(青空ファインダーロック)」を出した小沢高広氏。その真意とは。 - 電子書籍が「普及」または「普及しない」理由
あなたは電子書籍でどんなジャンルを読んでみたいですか? ORIMOの調査によると「コミック・アニメ」がトップ、次いで「小説」「雑誌」が続いた。 - 『電子書籍の衝撃』の衝撃――まだ全員が分水嶺
米国でiPadが異常な売れ行きです。このiPadの魅力が電子書籍です。先行するKindleを含めて、今年の秋以降は大きなプラットフォームが立ち上がりそう。そんな状況を解説したのが書籍『電子書籍の衝撃』でした。そこで筆者なりに電子書籍ビジネスについて考えて見たいと思います。 - 『電子書籍の衝撃』の衝撃――セルフパブリッシングは救世主か?
iPadやKindleがもたらす電子書籍という新しいプラットフォーム。出版業界にとっても読者にとっても大きな転換になりそうです。一方、ビジネスとしての出版を考えた場合、電子書籍はどのようなインパクトをもたらすのでしょうか。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.