電子書籍における漫画インタフェースを大いに語る(中編):うめ・小沢高広×一色登希彦×藤井あや(4/4 ページ)
漫画が電子書籍として配信されるケースが増えている中、漫画家の意見はどこまで反映されているのだろうか。うめ・小沢高広氏、一色登希彦氏、藤井あや氏という電子書籍の出版経験を持つ現役漫画家が思いのたけを語り尽くす対談特集の第2弾をお届けする。
「セリフが泣けるとかこのシーンキターとか、直接リンクしてもらうのは面白い」(一色)
── 「ぽこぽこ」も「Jコミ」もそうですが、最近はオンラインビューワの各ページにパーマネントリンクを用意し、Twitterやブログで紹介できるのがトレンドになっています。こうした機能についてはどうですか? 例えば、お話のクライマックスをダイレクトに呼び出せるからやめてほしいといった、マイナスな評価はないんでしょうか。
小沢 まあ、漫画はその1ページだけを見て感動できるわけではないですからね。出オチの1ページ目をさらされると厳しいかもしれないけど(笑)、でも大丈夫じゃないかな。
── 例えば、自分の作品から、エロシーンだけをまとめたリンク集が作られたりとか。
藤井 Twitterでそういうのは出てきそうですよね。
一色 本屋さんで漫画にビニールカバーがかけられるようになったことで、立ち読みができなくなったじゃないですか。それはWebでも同じで、この漫画はどんなものだろうと思って作家名で画像検索しても、そうそう漫画の中身が見られるものじゃない。そういう意味ではこうした機能を使って、このセリフが泣けるとか、このシーンキターみたいな感じで、直接リンクしてもらうのは面白いかもしれない。
小沢 描き手としても、そういうのが自分の作品につくと、あーよかったよかった、となる。
一色 ただ無審査だと、ニコ動みたいに作者にとって不愉快なものも貼り付けられるかもしれない。それを作者が心情的に許せない場合もあると思うので、すべての漫画でこれをやっていいわけじゃないかなと。
小沢 もちろんお買い上げいただいた漫画だから、面白いとかつまらないとかいう権利はあるんですよ。ただ、読み手が思っているほど、描き手はタフじゃないということも覚えておいてもらうといいかなっていう(笑)。
一色 そうなんですよ(一同爆笑)
── ソーシャル連携以外にも、宣伝ツールとしてのTwitterにも、いろいろ可能性がありそうですね。
藤井 ボーイズラブ系の小説なんかは新刊を発売する1週間くらい前から、見どころを抜き出してばんばんツイートしたりと、宣伝に使ってる版元さんはいますよ。小説の何ページか分を、新刊試し読みできます、今日のいつから流します、って言って、140字ずつ抜き出して。
小沢 いいですね、140字ずつ、多少の時間が空きながら、ぽこっぽこっと出てくるという。風流だなー(笑)。
一色 小説はテキストだからTwitterで流せる。いいですよね。
藤井 そうすると、それを見た女の子が、気になったセリフがあるとリツイートしたりするんですよ。ハーレクインも似たような感じじゃなかったでしたっけ。漫画ではそういうのはまだ見たことがありませんね。
一色 Twitterも画像にリンクを張れるわけだから、原理的にはコマを抜き出したような宣伝もできそうですね。
藤井 商業誌ではないですけどpixivでやってる方はいますよ。pixivに同人誌のサンプルを上げると、そこにツイートボタンがついてるので、宣伝を兼ねてつぶやいたりとか。
ここまで、3者の議論の多くは記事のタイトルにもある「電子書籍における漫画インタフェース」についてであった。総論では3者の意見は合致しており、各論ではそれぞれの経験も踏まえた示唆に富む内容だといってよいだろう。そして議論はこの後インタフェースからシステムへと大きく思考の枠を広げることになる。明日の最終回にご期待いただきたい。
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