検索
ニュース

公衆送信権の一部に電子出版権を――日本弁理士会の提言

内閣官房知的財産戦略本部が策定を進める「知的財産推進計画2012」に対し、電子出版権の創設を日本弁理士会が提案している。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

 「公衆送信権の一部に電子出版権を」――これは、内閣官房知的財産戦略本部が策定を進める「知的財産推進計画2012」へのパブリックコメントとして日本弁理士会が2月に発表した提案内容だ。電子書籍の普及にも大きく影響しそうなトピックといえる。

 知的財産の創造、保護及び活用に関する施策を推進する知的財産戦略本部が現在まとめている「知的財産推進計画2012」は6月ごろ策定される予定で、現在は骨子を決めるフェーズにある。

 この中には電子書籍の市場整備をどう加速するかも盛り込まれる見通しだが、これに対して日本弁理士会が冒頭のような提案を行ったというわけだ。意見書の全文はこちらで閲覧できるが、核となるのは「公衆送信権の一部に電子出版権(仮称)を創設」することだ。ここで提案されている電子出版権とは、複製権に対する出版権に相当するもので、この電子出版権に差止請求権などを認めるほか、権利の創設に併せて以下のような一定の権利制限などの調整規定を設け、かつ、出版権と電子出版権にそれぞれ、電子的頒布(公衆送信)と有形的複製について禁止権を与えることを提案として盛り込んでいる。

  • 電子出版権者が、その業務の範囲で行う著作物の複製行為に対する権利除外規定を設ける
  • 電子出版権の再許諾についての規定を設ける
  • 電子出版権侵害者に対する電子出版権者の権利保全義務を課す
  • 第112条(差止請求権)、第113条(侵害とみなす行為)、第114条(損害の額の推定等)、114条の2(具体的態様の明示義務)、第114条の3(書類の提出義務)、第114条の4(鑑定人に対する当事者の説明義務)、第114条の5(相当な損害額の認定)、第114条の6(秘密保持命令)、第119条(罰則)、その他の規定について、出版権と並んで電子出版権を明記する

そもそもなぜ? 背景には違法流通への有効手段がない点が

 こうした提案の背景には、違法流通に対する有効な権利保護の仕組みがないことを危惧している様子が読み取れる。昨年12月に東野圭吾さんら作家7名がスキャン代行業者2社を提訴した動きもそうだが、著作物の新しい多様な利用形態が生じていく中で、従来の著作権法では対応できないような問題も数多く生じている現在、電子書籍の利用促進はここを看過してはなし得ないという考えだ。

 もちろん電子書籍に関する法整備はこれまで何もなかったわけではない。文化庁でも「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」を設置し、議論を重ねてきた。しかし、同会議では出版者への著作隣接権の付与を求める出版社側と、これに慎重な姿勢の構成員との間で意見が対立しており、早期の立法的解決は難しい状況にある。なお、日本弁理士会の提案は、急務とされる違法行為に対する対処に関する問題のみを早期に解決するためのもので、将来的に出版者に著作隣接権を付与することについては肯定も否定もしていない。

 上述の会議では違法流通への対応として「出版者に対する著作権の譲渡」「独占的利用許諾契約による債権者代位権の行使」「『出版権』の規定改正(電子書籍化とその利用)」などが検討されているが、こうした方法についても意見書では、「法的不備に対応してやむを得ず行われる解決策」「判例のない学説に依拠した法技術」だとする見解が示されており、特に規定改正による出版権の拡張については、有効性を強く疑問視している。

 出版権自体を拡張して違法流通に対応することに苦言を呈している理由としては、インターネットへのアップロードは出版権ではなく公衆送信権の侵害であることや、これまで「版面」に限って認めてきた複製権の利用範囲を拡張することの是否、さらに出版権を拡張するとなると、紙媒体で出版する者と電子書籍で出版する者が同じであることが条件となり、著作権者の選択の幅を狭めるとともに新規参入者の障壁になり得ることなどを挙げている。

 電子書籍普及の足元を支えるこうした法整備は、まだどのような着地点を見せるのか不明瞭だ。電子出版権の創設を提案する日本弁理士会だが、これらはあくまでパブリックコメントでしかない。結果的にどのような案が計画に盛り込まれるのかは継続して注視したい。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る