ライトノベルで農業を描いてみたらこうなった――『のうりん』著者インタビュー(3/3 ページ)
現実と離れた題材が取り上げられることが多いライトノベル。そんな中、農業高校を舞台に大胆な筆致で農業に関わる人々を描いたライトノベル『のうりん』が静かに話題となっている。著者の白鳥士郎さんに、作品が生まれた経緯や反響について尋ねた。
永久に生きていける作品を
――今後の展開ですが、農業高校の枠内だけでやっていくのか、それとも農業高校の外まで広げていくのでしょうか。
白鳥 農業高校は実業高校なので、社会との接点があるんです。生徒たちが授業の中で社会に出ていくことがあるので、農業高校というところからは抜け出さないのですが、外には出ていきます。だから学校の中で終わる話ではないですね。外に出ていくことで、むしろ真価を発揮すると思います。プロとの間にある壁をどう乗り越えていくか、といった点でやれるのではないかと。
あとは進路の話にもなっていくんでしょうね。卒業まで書くかは分からないですが、農業高校の生徒たちは2年生の後半には就職先もだいたい決まります。そこまで現実寄りに書く必要はないと思いますが、やっぱり外は意識します。論じるのは農業高校での農業ではなくて、日本の農業ですからね。
――今、農業について描こうとすると、どうしても放射線の問題とかは避けられないとも思うのですが。
白鳥 放射線の問題は非常にきわどいというか、私自身の知識が追い付いていないので書けるかどうかというところですね。まったく知らないでウソを書くのと、知っていてウソを書くのとではやっぱり違いますから。ウソを信じてしまう人もいると思いますし。私の意見を押し付けるのではなく、こういう面もあればこういう面もあると読者が気付けるようなものにできればいいですね。
――こうして日本の農業について書いていくことで、社会にどういうことが起きればいいと思っていますか。
白鳥 あまり大きなことは言えないのですが、ライトノベルはすごく寿命が短いんですね。発売から1年も経ってしまえば書棚から下ろされ、新しく読んでくれる人がいなくなります。それは私だけの作品ではなくて、終了してしまった作品はどんな名作でも書棚から下ろされていきます。非常に切ないというか、「こんなことを続けて意味があるのかな」と思ったことがあります。
そういう時、「農業高校の話を書いたら、農業高校の本棚にはずっと置いてもらえて、生徒たちはずっと読んでくれるのかな」と思ったのと、読者が「農業をやってみたいな」と思って始めてくれたら書いたことが無駄にならないわけじゃないですか。そういう形で作品が永久に生きていけるなら、そこを目指すべきじゃないかなと。
ですから、ほかの人から「無駄なことをやっているな」と思われるかもしれないですが、農業部分の取材はやっぱり欠かせません。私自身が農業をやっているわけではないので、自分の体験ということでは書けないんですね。
でも、例えば私が1年間農業をやって、その体験を書いたとしても1年のことでしかないわけです。しかし、50年間農業をやった人の話を聞いて、自分の中で咀嚼(そしゃく)できれば、50年農業をやってきた重みをもしかしたらライトノベルでも伝えられるかもしれない。ですから、本で読むだけでなくて、人から話を聞くのも絶対に必要だと思いました。
――ライトノベル市場は角川系列のシェアが圧倒的ですが、GA文庫編集部として『のうりん』のような異色の作品を増やしていこうといった戦略は考えていますか。
小原 『のうりん』はその取材力も含め、白鳥さんだからこそ作り出せた作品、という部分が大きいですから、今後も狙って作り出していくというのはなかなか難しいかもしれません。ただ、これくらい大きなインパクトを市場に与えられる作品をどんどん生み出していければ、とは思っています。
白鳥 取材をされる方が少ないでしょうからね。そこは私も自分の武器にしたいところなので。
みんな頭で考えるじゃないですか。同じテーマで書くとなると、自分1人の頭で考えていたら、みんな同じ内容になるんですよ。いろんな人からネタをもらってくるというのは1つの武器になるだろうと思っています。
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