隣接権議論は“出版”をどう変えるか――福井弁護士に聞く(前編)(4/4 ページ)
時代に合った著作権とは何か。現在進められている著作権法の改正議論について、その全体像をつかむ本特集。前回の赤松健氏に続き、今回は知財に詳しい福井健策弁護士に話を聞いた。
著作権法90条はセーフガードにならない
―― それに対して、ある編集者の方は著作権法90条があるから、著作権者の不利益になるようなことはしない、と主張を展開していました。
福井 うーん、90条の解釈としては正しくないでしょうね(笑)。この点では、弁護士の小倉秀夫さんがTwitterで発言していたことが正しい。
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だからといって、(この議論の中で出てきた)「総統」こと白田秀彰法政大教授の発言が間違っているという意味ではありません。前提が違うんです。
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白田さんは恐らく、「漫画の原稿が一度出版されてもその元原稿は版面ではないから、出版社の権利は及ばないだろう」という前提で議論されていた。その後の中川勉強会の方向性ですね。小倉さんは、「漫画に関しては原稿と版面は区別できないから、出版社の権利は及ぶだろう」あるいは「その危険はある」という前提だったのでしょう。想定した隣接権の守備範囲が違うので、議論はすぐに一致しなかった。出版社の権利が及ぶ範囲に限るなら、著作権90条が作家のセーフガードにならないということは、誰も異論がなかったはずです。
著作権法90条は作家がNoと言っているときに、隣接権者がいくらYesといってもその利用はできないということしか意味しない。「両すくみはあり得る」と言っているのです。その逆、つまり作家がYesと言っているときに、隣接権者がNoと言っちゃいけないということはまったく意味していません。
―― 隣接権者にも権利が発生しているわけですからね。
福井 まさにそうです。中川勉強会の方向性は、「隣接権はあくまで下版に及ぶもので、漫画の原稿を他社から出版するのは自由。もちろん文芸作品のテキストデータを利用して他社から出版するのも自由」というものですから、これだと作品が死蔵される場面はかなり限定されるでしょう。死蔵が起こるのは、例えば、漫画家がもう原稿を持っておらず、絶版コミックスの版面からスキャンするほかないが、それをオリジナルの出版社が許可しない場合などに限られそうです。
ただ、この点は実際の条文次第なので、立法化されるなら「原稿か版面か」という部分で解釈にあいまいさが残らないような規定になるかが焦点ですね。
非常に長大なインタビューでお届けしているが、まだまだインタビューは続く。後編ではさらに問題の深遠に足を踏み入れた質問をお届けする予定だ。
著者紹介:まつもとあつし
ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」、ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマート読書入門』(技術評論社)、『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(いずれもアスキー新書)『コンテンツビジネス・デジタルシフト―映像の新しい消費形態』(NTT出版)など。
取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。Twitterのアカウントは@a_matsumoto。
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