これからのギャグ漫画はネットで花咲く? ジャンプSQ.「ギャグマンガ宣言!」の野望:第2の地獄のミサワは生まれるか(2/2 ページ)
誌面で埋もれやすく人気を見極めにくいギャグ漫画。担当者が「面白い」と思っても、雑誌掲載に至らないケースは多いという。日の目を見ない才能をなんとかもっと試せないか——ネットとギャグの親和性に目を付けたジャンプSQ.は、ニコニコ静画で新たな“ヒットの流れ”を模索している。
掲載のハードルを下げる工夫
ギャグマンガ宣言!のギャグマンガトーナメントは、「ネームで参加できる」のが特長だ。ネームとは、漫画の大まかな下書きのようなもの。トーナメントの参加作家たちは、雑誌掲載の機会に恵まれず「5本、6本じゃすまない数」の“ボツネーム”がたまっている作家たちばかりという。「ネームはどれも面白いんですよ。でも誌面には限りがあるため、試しづらい。じゃあそのネームをそのまま掲載すればいいのではと思ったんです」(由井さん)
ネームを掲載することは商業漫画誌ではあまりないことだが、由井さんは「キャラやネタで勝負する」ギャグ漫画なら「ネームでも十分楽しんでもらえる」とみている。「昔、ネットで『オナニーマスター黒沢』というWeb漫画が流行りましたよね。きれいな下書きのような状態だったけど、それでも楽しく読めた。ネットだったらペン入れは必須ではないなと、その時思いました。ギャグマンガ宣言!のトーナメント作品は、作家によっては清書もしています。でも、ネームでの投稿作品も見劣りしていないと思っています」(由井さん)。
ネームを投稿するのと完成原稿を投稿するのでは、制作にかかる時間が「全然違う」と由井さんは話す。「完成原稿だと月産15ページが限界でも、ネームなら50ページ、60ページ出せるという人はいます。多い人なら100ページだっていけるかもしれません」(由井さん)。ギャグをどんどん読者に問う、という意味では、作家に負担の少ないネームでの投稿は合理的なのかもしれない。
また、ネームならユーザー投稿のハードルも低くなるとも由井さんは説明する。実際、ユーザー投稿の受け付け期間は8月4〜20日と短かかったにも関わらず、40本近い作品が集まった。「正直、もっと少ないかなと思っていたので良かったです」と由井さんも胸をなで下ろす。投稿作の中にはニコニコ静画のマンガランキング上位に入るものもあり、ニコニコ静画ユーザーから「新人作家レベルの逸材が集まるかも」という期待も高まったという。
紙では「キビシイ」作品がネットでウケることも
ギャグマンガ宣言!をスタートさせてから、由井さんは各作品に対する読者の反応を毎日チェックしている。紙の雑誌ではアンケートはがきなどで読者の感想を集めるが、はがきを出さない“サイレント・マジョリティ”の声をどう汲みとるかは、1つの課題だ。「例えばWebをよく活用しているような人は、紙のアンケートとかは出さないんじゃないでしょうか。ネットの声を反映できていないという思いもあり、そうした意味でも今回の企画に取り組めて良かったと思っています」(由井さん)
由井さんが担当している新人作家・吉田鋭角さんのトーナメント参加作品「受難児JUNANJI」は、ユーザーから好評だった作品の1つ。1度見たら忘れられない“キメ顔”が印象的な作品で、掲載ページを見ると「1ページ目から笑える」「優勝しなきゃおかしい」といった好意的なコメントが多い。結果としてトーナメントの第1戦を勝ち抜いたが、由井さんは「紙では結果を出すのが難しい」タイプの作品だと話す。一風変わった物語の展開など、「いろんな意味でキビシイ」ところがあるのだという。
「担当として作品を見た際には、『面白いけど(会議に)通らないよ』みたいな話をしていたんです。ネットだといろんな反応が素直に見れて良かった。吉田さん報われたなぁって、思っています」(由井さん)。紙ではうまく離陸できない作品も、Webならヒットにつなげられる可能性もあると、由井さんは期待している。
ただ、ネットで面白がってもらえることと、その作品が実際に売れるかは、また別の問題だ。「パッケージとして読者が入りやすいかなど、単純に面白いだけでは買ってもらえないところもあります」(由井さん)。トーナメントコーナーとは別に設けている連載コーナーでは、コミックス化も視野に入れつつ、売るためのポイントを意識して作品を作り上げていく考えだ。
編集者不在で作品を発表できる環境も整ってきたが――
ニコニコ静画をはじめ、雑誌を介さずに漫画を発表できるWebサービスが年々整っている。だが、ジャンプSQ.の編集部に作品を持ち込む新人たちは、こうしたWebサービスを使っていないケースが多いという。ギャグマンガトーナメントに参加する新人の場合、「アニマルサムライワールド」の松本知樹さんはかねてからニコニコ静画に作品を投稿していたが、その他の作家は「あまりネットを使っていない」ようだ。編集部によっても傾向は異なるのだろうが、「そもそも作品を持ち込むような人は、雑誌にあこがれがあったり、描いたけどどうすればいいか分からないといったタイプの人が多い」と由井さんは言う。
由井さんは、Web志向の作家にも作品を持ち込んでほしいと考えている。「もし作家としてデビューして、作品を売っていきたいのなら、編集者を味方につけてほしい」という気持ちが強いためだ。「編集者じゃなくてもいいのかもしれませんが、一緒に作ってくれる人がいたほうがいい。作家と読者の思っていることは、違うことが多いです。作家さんが好きな作品はコアなものが多かったりしますが、表現を読者に合わせることも、売るためには重要です」(由井さん)
これまで「ネットに特に強くなかった」というジャンプSQ.。ギャグマンガ宣言!の取り組みを通じて、Web志向の作家や読者にも媒体をアピールしようと由井さんは意気込んでいる。目標の1つは、ギャグマンガ宣言!からコミックス化やアニメ化につながるヒット作を生み出すことだ。「Webからそうしたことができるんだ、ということを若い漫画家に見せることが、次につながると思っています」(由井さん)
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